@ぴあTOP > インタビュー > 東芝ブレイブルーパス編 大野均×湯原祐希
トップリーグ三連覇を狙う東芝ブレイブルーパスは、過去7度のリーグを5度制する常勝チームである。ボールを持った選手がタックルをものともせずに突き進む「スタンディング・ラグビー」は、真っ向勝負の潔さもあって対戦チームからも尊敬を集める。そんな東芝から、今回は10年目の大野均、5年目の湯原祐希という日本代表選手に登場してもらった。話は意外にメディア露出が少ない湯原選手のことから始まった。
Text●村上晃一 Photo●長岡洋幸
――失礼ながら、湯原選手はメディアでの露出が少ないですよね。
湯原「そうなんです。千葉県の印西市出身で、小学校1年生のとき印西ラグビースクールでラグビーを始めました」
――そして、流経大柏から流経大に進んだと。大野選手、彼はどんな選手ですか?
大野「この体型からは想像できないくらいスキルフルで足も速い。機転も利く素晴らしい選手です。日本代表対ロシア代表戦(11月6日)でも先発し活躍しました。僕は途中交代だったので、ベンチに下がってライアン・ニコラス(サントリーサンゴリアス)と一緒に見ていたんですよ。 そしたら、湯原が攻撃に参加して飛ばしパスとかしまくっていた。ライアンが感心しきりでした。「彼はコンプリート・ファットマンだ!」って(笑)。」
湯原「ほんと、試合終了後、外国人選手に絶賛されました」
――BKの経験はあるのですか。
湯原「スタンドオフでプレーしたのは、小学校3年ぐらいまでです。高校時代にパスなどの基礎は叩き込まれました。高校の頃はNO8が多くて本格的にHOになったのは大学1年生からです。僕は身長が低くて(173p)、大学ではFW第3列は無理だったんです」
大野「僕は大学からラグビーを始めたので視野の広い選手が羨ましい。僕はボール持つと目の前しか見られないですから(笑)。湯原のパス能力は、東芝のFWの中でも特に優れています。廣瀬キャプテンが、『サインプレーの中で生かせないか』と真剣に考えているぐらいですから」
大野均
――今回のインタビューシリーズで各チームを回っていると、みんな「東芝と戦うと、真っ向勝負してくれるから気持ちがいい」と言います。
大野「嬉しいですね。東芝は小細工すると失敗するんです(笑)。練習で準備したサインプレーを使うと、結局、最後までボールが回らなかったり」
湯原「それで、原点に返って『前に前に行こう』となる。これがしっくりくるんですよ」
――トヨタとの試合で、大野選手が笑っていましたよね。激しい試合の中で印象的なシーンでした。
大野「日本代表で一緒にプレーしている菊谷選手と話したりして。トヨタと試合するのは、真っ向勝負ができて面白いんです」
湯原「ラインアウトでセットしようとすると、菊谷選手が寄ってきて、『競っちゃうよ〜』とか言ってくる。いろいろ言い合いながらやってますね。トヨタに限らず、神戸製鋼の平島選手とか、代表で一緒にプレーした選手とスクラムを組んだりすると負けたくないという気持ちにもなります」
――神戸製鋼戦では苦戦しましたね。
大野「トヨタも神戸製鋼も、東芝戦になると力が2割増しになるような気がします。でも、そういうチームに真っ向勝負で勝つのが楽しいです」
――プレーオフ出場チームが決まりました。(東芝、三洋、サントリー、トヨタ自動車)それぞれのチームにどんな印象を持っていますか?
大野「三洋はFWもBKもバランスがいい。サントリーは調子に乗らせると怖いチーム。昨シーズンのトップリーグでも大敗しました。トヨタもFWでごりごり来てBKも縦に強い選手が多い」
湯原「三洋にはFWで負けたくない。日本代表のHO堀江もいますしね。一緒にプレーしてみて、フィールドプレーも、ラインアウトのスローイングだって上手い。身長もある。『こんな選手がHOになっていいのか?』と思ったくらい、本当に良い選手です。だから負けたくない。サントリーはFWが走るイメージ。トヨタ自動車はFWがガツガツ来るチーム。次はなんとしても勝ちたい」
湯原祐希
――湯原選手は東芝に入って5年目ですよね。東芝の強さをどう感じましたか。
湯原「団結力。選手間の仲が良いと思います」
大野「みんな大人です。練習のスケジュールがきつくても、みんな最後までやり切る。どんなに激しい練習をしても、終わればいい顔をしている。きつい練習を率先してできる選手が集まっていると思います」
――東芝はディフェンスを縦に切り裂きますね。
大野「東芝が良いときは、自然と縦に縦に走っています。良くないときは、横に流れている」
湯原「どうにかパスで切ろうとすると調子が出なくて、一人一人が前に出た時に勝つ」
――東芝は自己管理もしっかりしているイメージがあります。
大野「遠征の時も選手に任せてくれます。全員にフリーのチケットが渡されて、ミーティングの時間だけ告げられる。それまでに大阪に入れよと、そんな感じですね。スタッフが大人扱いしてくれますね」
――来年はワールドカップです。
湯原「キンさん(大野選手)は絶対に選ばれるけど、自分はまず東芝でレギュラーとして出続けて、ジョン・カーワンさん(日本代表ヘッドコーチ)に見てもらいたい。東芝で頑張らないと、先は見えません。セットプレーの安定、ラインアウトのスローイング、フィールドプレーを頑張らないと。それで選ばれるかどうか」
――間違いないと言う大野選手は何が凄いのですか?
湯原「けっこう歳じゃないですか(笑)。なのに、東芝でも仕事量が一番多い。数字にも出ています。日本代表で、コンタクトフィットネスの練習で若手がちょっと気合いが入っていなかったことがありました。そのとき、カーワンヘッドコーチがキレた。『一番歳上の大野が一番がんばっているじゃないか』」って。ほんと、キンさんは、やる時にはやる。日本代表からチームに戻るとき、『オフ明けにフィットネステストがあるよ』なんて言われると、僕なんかドキドキして休まずに練習してしまうんですよ。でも、キンさんは、しっかり休んで、なおかつフィットネステストの数値もクリアする。『気持ちの問題だよ』なんてキンさんは言うけど、気持ちだけでクリアできないですよ〜」
大野「そこまで持ち上げてくれると思わなかった(笑)」
――では2011年ワールドカップへの意気込みを。
大野「前回のワールドカップでも“2勝”が目標でした。でも、実際には初めての大会で雰囲気も分からず、『勝ちたい』という気持ちだけで、どうしていいか選手としての明確なビジョンはなかった。でも、JK(ジョン・カーワン)が4年かけてチームを作ってくれて、今はどうやって勝つかのビジョンも見えている。勝つことが現実的になりました。そういう意味でも楽しみです」
湯原祐希(左)、大野均(右)
――対戦を楽しみにしているチームはありますか?
大野「オールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)戦は出たいです。世界一のチームだし、ジュニアオールブラックスのときに対戦したことがある選手もいるので」
湯原「出られたとしたら、オールブラックスとスクラムを組んでみたい。ニュージーランドのワイカト代表とは組んだことがあるのですが、その国のトップ選手が集まったスクラムはどんなものなのか」
――我々観戦者の勝手な思いとしては初戦のフランスに勝ってほしいですね。
大野「シャバル(フランス代表FW)と戦ってみたいですね」
湯原「キンさんも髪とか髭をもじゃもじゃにして、“日本のシャバル”でやってみたら(笑)」
大野「この髭じゃあ、しょぼいって言われるよ(笑)」
――来年のワールドカップは、日本ラグビーの未来のために背負うものも大きいですね。
大野「2019年日本開催の時は、僕はもう現役ではないと思いますけど、いま現役でラグビーをやっている者として、2019年に向けて少しでも日本のラグビー熱を盛り上げられる試合ができればいいなと思います」
湯原「僕の9年後ですか? ベテランでスクラム組んでいられればいいですね。小さな頃から日本代表になることが夢でしたから、このまま代表に定着して、少しでも長く、たくさんの人に自分がラグビーをしている姿を見せられればいいですね」
