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ちょうど1年前にこの道を通った夜。
思わずロード第一章を歌い上げそうな書き出しだが、事実だから仕方がない。
終電で帰ってきた私は、駅から程近い駐輪場に向かう途中、バス停のベンチに座る1組の男女に遭遇した。
正確には、ベンチに座っていたのは女の方だけで、男はそれに向かい合う形で地ベタにあぐらをかき、左腕で女の両腿を押さえ、右手で携帯電話をかけていた。よく見ると女は泣いている。
妙な体勢が気にはなったものの、その時はカップルの痴話喧嘩ぐらいにしか思わなかった私は「夫婦喧嘩はポポも食わない」などとほくそ笑み通り過ぎた。
ところが、駐輪場に着いたところでふと思ったのだ「彼らは本当にカップルなのだろうか?」。
物事を一つの見解で片付けてしまうのは危険なことだ。思い返せば、女の方は怯えており、助けを求める眼差しを送っていたような気がする。そこで、ハタと閃いた。あれは「痴話喧嘩」だとおもったら…「新手の拉致」だったのでは!?
深夜といえど、交通量が多く、明るい大通りである為、安心して一人歩きをしていた女性をいきなりベンチに押さえつけ、声も上げられなくなる程脅し、車で連れ去るという手口ではなかろうか!?
男は携帯で仲間に連絡し、車を回すよう手配していた。往来であれだけ堂々と犯行に及んでいたら、却って誰も怪しむまい。とりあえず今一度状況を確認するため、自転車に乗って引き返した。本当にヤバければ警察に通報しようと思ったのだ。
戻ってみると女の方は抗う気力も失せ、グッタリとうな垂れている。仲間への連絡が終わった男は、両腕でしっかりと彼女を押さえつけていた。これは拉致だ。間違いない!(←最新ギャグ)
警察の到着を待っていたら間に合わない。そう判断した私は覚悟を決めた。
自転車のスピードを上げ、彼らに近づく。そのまま男をハネ飛ばし、その隙に彼女を救出しようと思ったのだ。
「キェェェェェー!!」恐怖のあまり奇声を発しながら、男に突っ込もうとしたその刹那、彼らの会話が耳に入ってきた。
「ごめん。オレ反省してるよ」「ううん。もういいの」
THE勘違い! やっぱり単なる痴話喧嘩!!
既の所で男をかわし、奇声をあげたまま彼らの前を通り過ぎた。
あの時の彼らは、自分達の前を横切ったのが「不審人物」だとおもったら…実は「勇敢な戦士」だったという事実など知る由もないだろう。物事を一つの見解で片付けてしまうのは非常に危険なことである。
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