- 『Ray Of Hope』
- 8月10日(水)発売
- 初回限定盤:3500円
WPCL-10964/5
(ボーナスディスク「Joy1.5」付き) - 通常盤:3150円
WPCL-10966 - ワーナーミュージック・ジャパン
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Q51 おすすめの戦前の日本映画は?
「山中貞雄の『人情紙風船』。これは人生の1本ですね。この映画が作られた昭和12年に赤紙が来て、13年に中国戦線で赤痢で死んじゃうんです。もし生きていたら、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男らと並ぶ大監督になったでしょうね」
Q52 小笠原拓海さん(ドラム)を採用した決め手は何だったんですか?
「テクニックと人格。それが一致するミュージシャンは、なかなかいないですから。長くやっていくためには、人間性も非常に大事です。イケメンだから“オバサンに騙されるなよ”って言ってるんだけど(笑)」
Q53 オールディーズ・ソングを好きになったきっかけは?
「FENです。ジム・ピューターという有名なDJがいて、土曜日の夕方5時から“ジム・ピューターズ・ショー”というオールディーズの番組をやってたんです。それを毎週テープに録って聴いてたんですけど、あるとき、R&Bボーカル・グループ・スペシャルということで、ドゥ・ワップの特集があって。それが僕の人生を変えました」
Q54 昨年、ライジング・サンに出演されたときの感想を教えてください。
「お客さんが素晴らしかった。若いころバンドをやってたときのサブカルチャー、ロックの空気を持ってる人たちがたくさんいて、“なんだ、ちゃんとロックがあるじゃん”って思ったんですよね。しかも老若男女でしょ。それはすごく安心しましたね。今年は出られないですけど、ぜひ、また出たいと思ってます」
Q55 自宅にあるプラモデルの数はどれくらい?
「10個から15個くらい、未完成のまま山積みになってますね。第2次大戦の戦闘機、爆撃機だけなんですけど、最近、ぜんぜん作れてないんですよね。エアブラシを使うから、表でやらなきゃいけないんですよ。そうすると人が覗くし、庭でやろうとすると“汚れるからやめて”って言われるし」
Q56 ライブ前に口にされるものは?
「水だけですね。ライブ本番の3時間前からは、まったく食べません」
Q57 「こいつには絶対かなわん!」と思ったミュージシャンはいますか?
「そんなもん、いっぱいいますよ! 自分の歌が上手いと思ったことだって、一度もないですから。ある特定の狭いジャンルにおいては、日本では比較的上手いかな、とは思うけど。B.J.トーマスとかね。でも、そんなの歌っても誰も喜んでくれないでしょ?」
Q58 ボーカロイドについてどう思いますか?
「好きにやればいいんじゃないですか」
Q59 “サンソン”(ラジオ番組『サンデー・ソングブック』)は仕事の域を超えてると思いますが、番組への思いを聞かせてもらえますか?
「道楽と啓蒙ですかね。番組のためにレコードを買ったりもしてるんですけど、オールディーズ番組も少なくなって、すべて引き受けてるような状況なので」
Q60 ラジオDJの楽しさとは?
「「好きな音楽といっしょにいられること。それを電波の向こうの誰かと共有できることかな。ラジオって基本的に1対1のメディアなんですよ。僕がかつて糸井五郎さん、福田一郎さんに抱いていたのと同じ思いを、リスナーが僕に対して発してくれるっていう。ときどき向こうが教えてくれることもあって、それはじつに音楽的な瞬間なんですよね。もちろん、そういう番組を作っていかなくちゃいけないんですけどね」」
Q61 音楽を生業にして良かったと思うこと、「これはちょっと…」と思うことは??
「音楽は嘘をつきませんから、人間と付き合っているよりもずっといいですよ。ただ、こういう商売をやってると、他人から“芸能人”と思われることがあって、そのことは“これはちょっと…”ですね。僕は自分では社会性、常識を持っていると思ってるんですけど、“やっぱり芸能人だから”って言われることもあるし」
Q62 1日のうちでいちばんリラックスできる時間は?
「レコードの整理をしてるとき」
Q63 ご自宅の音響システムで、今後改善したいところは?
「デジタルとアナログは両立できないんです、突き詰めると。ウチの場合はシングルとLPをかけるためにしかチューンアップされてないので、CDだと音が割れちゃう。だから本当は2セット必要なんですけど、狭くてとても無理なんですよね」
Q64 なるべくいい音で音楽を聴きたいという人に対して、まず、どこから手をつければいい?
「デジタルは金をかければかけるほどいい音になるんですよ、悲しいことに。アナログはそうじゃないんですけどね。結論としては、お金を貯めて、いいものを買ってくださいということですね。“コスパが良くて、いい音”ってデジタルではありえないので」
Q65 ニュー・アルバム『Ray Of Hope』。タイトルに込めた思いとは?
「当初は『WooHoo(ウーフー)』というタイトルだったんですが、東日本大震災があったので、このタイトルに変えました。震災の後、『希望という名の光』をたくさんオンエアしていただいたということもありますし、人の心に寄り添いたい、という思いもあって」
Q66 制作期間はどれくらいですか?
「延べ3年ですけど、その間に2回ツアーがあったので、実質的には1年半弱ですね。ツアーのスケジュールもタイトだったし、シングルも5枚出さされたので(笑)、アルバムの制作ということで言えば、年末から年始にかけてバタバタとやってた感じです。本当は6月に発売する予定だったんですけど、震災後の電源が不安定だったこともあり、2ヵ月遅らせてもらいました」
Q67 「若いころは生身の人間を歌うのが嫌いだった」ということですが、その理由は?
「まず、もともと人間が嫌いということですね。僕がバンドを作ったのは'70年代ですが、ちょうど四畳半フォークが全盛で、そういうチンケな人間関係の歌が嫌いだったんです。僕がやっているのは完全に洋楽志向であって、要は英語のメロディなんですよね。当然、そこに乗せる言葉の選び方が重要になるんですが、あまり言葉に意味を持たせると、音の色彩感が阻害される。だから人間のことよりも、季節や自然のことを歌うようになったっていう。僕の歌詞のテーマを大きく言うと、都市生活者の孤独、疎外。でも、都会にも雨は降るし、風は吹く。そういうことに興味があったんですよね」
「ただ、58歳にもなると、人の生き死についても、否応なしに体験することになる。するとどうしても、人の心だったり、生きること、生きていくことに着眼するようになってくるんですよね」
Q68 震災後、曲作りにはどんな変化がありましたか?
「うーん、どう答えたらいいのか…。まず、36年もやってきたことは、そう簡単に変えられないんですよね。短期的には変わりますよ。たとえば今回のアルバムでも、“ネガティブな歌は入れないほうがいい”と思って、入れる曲を変えたりしたし。ただ、長期的には変わらないと思います。変わるのは世の中のほうだから、自分がやっている音楽技法がこのまま同じように受け入れられるのか? という問題はありますけどね」
Q69 デジタル録音の利点、難しさとは?
「アナログは磁気ですから、録音した瞬間から劣化が始まり、音が変わっていきます。でもデジタルは経年変化がないから、そこは便利ですよね。難しさとしては、ダイナミックレンジが向上したことによって、歪みが生じないということ。歪みってじつは重要で、それが音のエネルギーにつながってるんです。デジタルだと何でも優しくなっちゃう。繊細な音楽をやるんだったらいいけど、僕らみたいな音楽の場合、何て言うか、ガッツがなくなっちゃうんですよね。それをどう克服するか? ですよね」
Q70 音楽が担う役割は今後、どう変化していくと思われますか?
「パッケージが衰退して、商品としての音楽の存続基盤が崩壊しつつありますよね。Youtubeやニコ動で見られるわけだから、若い子は音楽にお金を払わない。それは当たり前だと思うんですよ、僕だってそうするだろうし。この状況が進んでいくと、レコードが発売される以前の状態に戻るんじゃないですか? 音楽でお金を稼ぐには、実演しかないという。昔のダンスパーティーとか、生演奏で踊るっていうことが盛んになってくるかもしれない。そういう意味では、ダンスと音楽が不可分になっている現状は、当然の結果でしょうね。まぁ、もう少し見ていかないと、最終的な結論はわかりませんが」
Q71 次のアルバムはどんな内容にしたい?
「もうちょっとアップテンポの曲を増やしたい。ファンクだったり、ギターのリフだったり、そういうところに戻っていきたいと思っているので。次回はまだ無理かもしれないけど、すべて生でやりたいんですよね。それが出来れば、一応、原点回帰と言えるのかな、と」
Q72 今年もツアーが開催されます。ここ数年、ライブへのモチベーションが高まってる理由は?
「音楽業界がこういう状態だから、だったらライブかなっていう。モチベーションというよりも、“この先、自分は何をやっていくべきか”を考えた結果ですね。一昨年は50本、去年は“35周年だから35本”っていうくだらないことを考えたんだけど、結局40本やって。今年は80年代くらいの規模にまで戻る予定です。もともとライブで始まった人間だから、そこに戻るということですね。少なくとも還暦までは毎年やるつもりです」
Q73 そもそもライブは好きですか?
「嫌いだったらやらないでしょ」
Q74 中野サンプラザを好む理由は?
「30年ずっとやってきて、時間の融通が利くから。遅くまでやっても、文句言われないんですよ。それだけです」
Q75 AKB48についてどう思いますか?
「僕の人生に必要ありません。向こうも同じだろうけど(笑)」