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過去のインタビュー
元ちとせ × ザ・チーフタンズ
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(続き)
 続いて間宮さん作曲の「虹が生まれる国」に取り掛かる。ここでまた驚き! アイルランドのミュージシャンたちは誰も楽譜というものを使用しない。歌詞が書いてある紙に自分なりのタイミングやコードを記したものを使っている。彼らの会話からすると、それは“マップ”と呼ばれているようだ。まさに楽曲を完成させるための地図である。万事がその調子。申し訳程度のウォーミングアップの後、いきなり全員でまず一発録りしてみる。ボーカルも一緒だ。完全にライブ感覚。これがバッチリかたちになってしまうから恐れ入る。とにかく驚くのは、お世辞にも溌剌とはしていない初老のミュージシャンたちが、楽器を手にしたとたん若々しくなること。でも何気ない、構えていない。いつもと同じことを自然に楽しそうにやっている雰囲気。セッションの極意ここにあり! といったところか。 そんな彼らのペースに元ちとせは戸惑っているかと思いきや、全然大丈夫な様子。
「やっぱり音楽ってそういうものだと思うし、どちらかというと私も今までそういう音楽のやり方をしている人たちと一緒にやってきた気がするし。島唄もそうですけど、あまり決まりごとがないって言うか……。だから全く違和感ないですね」


 うん、すごく相性が良いようだ。それに、間宮さんの書いてきた曲もアイリッシュ・アレンジととても馴染みがいい。なんだか全部がうまくピタッとはまってきた。それにしてもアイリッシュの楽器はどれも興味深い。リーダーのパディはティンホイッスルとイーリアンパイプを自在に操る。前者はブリキ製のシンプルなたて笛。シンプルゆえに技量がそのまま表れる。イーリアンパイプは上半身をすべて使って曲芸的に演奏する。極めて難易度が高そうだが、パディのレベルになると、もう身体の一部のごとく自由自在だ。ほかにも弦がスチール製のアイリッシュフィドルやトラディショナルな太鼓バウロンなど、我々にとってはすごく非日常な音世界が繰り広げられる。間宮さんも負けじとマンドリンで熱演。とても素敵なバックトラックが徐々に全容を見せ始める。そうなると、あとは元ちとせのボーカルだ。心配はご無用。錚々たる顔ぶれのハイレベルなセッションに臆することなく、伸びやかに艶やかな歌声を響かせる。テイクを重ねるたびにパディやミックス・エンジニアのブライアン・マスターソンの口から「エクセレント!」「ベリーグッド!」といった言葉が連発される。終盤、元ちとせが独特の高音でハーモニーを重ね録りしたときには、パディが「素晴らしい。エンヤも焼きもちを焼くくらいだよ……」と最大級の賛辞まで飛び出した。
 こうして、2日目もハイペースでレコーディングは進み、2曲ともほぼひととおりのテイクは録り終えてしまった。残り1日、テイクをセレクトしつつ、部分的な録り直しをするのかと思いきや、パディたちの口から「フィニッシュ!」との言葉が……。日本だったら、時間がある限り欲張ってレコーディングを続けそうなものだが、これもお国柄の違いか? まあ歴戦のプロたちがOKというのだから大丈夫なのだろう。
 レコーディング後、パディに話を訊いた――

――元ちとせの歌を初めて聞いたときの印象は?

「素晴らしい歌声に魅了されたよ。彼女が初期にレコーディングした曲を聞いたんだけど、それはピーター・ガブリエルみたいなワールドミュージックに通じるような印象を受けて、すごく感動した!」

――彼女の良さはどこにあると感じましたか?

「歌のスタイルだね。彼女の出身の小さな島――その島というのは日本文化とはまた違ってかなりユニークな文化を持っていると聞いている。メロディもユニークで、彼女も独特のスタイルで歌っていることがとても重要だと思うよ」

――では、聞いた時すぐに、元ちとせの歌はアイリッシュ・トラディショナル・ミュージックとマッチすると思ったのですか?

「その通りだよ。チーフタンズには世界から一緒にセッションしてほしいとリクエストがたくさん来るんだけど、元ちとせの歌を聞いた瞬間に『彼女とやらなければいけない』という気持ちになったんだ。その時から今回のコラボレーションは成功する自信があったんだけど、予想以上にうまくいって、今はとてもハッピーだよ! ありがとう!!」

驚くほど上機嫌で、想像以上の高評価。御大をここまで饒舌にさせる元ちとせって、やっぱり凄いのかもしれない。
 ということで、なんとレコーディングは2日間で終了。明日はエンジニアのブライアンがひとりでミックス作業をするとのこと。任せっきりにするのは森川社長も間宮さんも少々不安そうだが、それが彼らの流儀なのだから、ここは大船に乗ったつもりで委ねるしかあるまい。ホテルへ退散だ。疲れ気味の一行はホテルのレストランで夕食をとり就寝。
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プロフィール
元ちとせ
元ちとせ
1979年、鹿児島県奄美大島生まれ。2002年2月、「ワダツミの木」で衝撃的デビュー。1stシングルでチャート1位を記録。結婚・出産のための約2年間の休養をはさみ、これまで3枚のオリジナル・アルバムをリリース。最新シングルは昨年5月の「青のレクイエム」。今年デビュー5周年を迎え、更なる活躍が期待される。
ザ・チーフタンズ
ザ・チーフタンズ
1962年結成、アイルランドが誇るケルト音楽最高峰バンド。現在まで42枚のアルバムをリリースし、世界中で精力的な活動を続けている。
現メンバーはパディ・モロニー、マット・モロイ、ケヴィン・コネフ、ショーン・ケーンの4名。
アイルランドから音楽大使に公式任命され、今年6年ぶりとなる来日公演が決定した。
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