――非日常的な空間を作り上げるわけですね。
「そう。だって、知らないうちにみんな現実の中で縛られている。自分がそうしているのか社会によってそうなっているのか、自分では気づかない。ぼくらはステージで、それをポンと突き破る作業をするだけだと思っていて、となると、あとは空しかないわけ。その人は喜べるだけ、楽しめるだけ、興奮できるだけっていう状況になるから、あとはその人のキャラクターと意識の問題だから。結局、喜びを得るっていうのは解放っていうことなんだなと。コンサートが終わったら現実に戻っていかなきゃいけないって感覚は、ぼくも味わったことがある。だからコンサートは解放を求めているんじゃないかなって」
――やる側としては、だから解放してあげたいと。
「あげたいというより、一緒にね。ぼくらもステージの中でイメージが整っていくとその瞬間が味わえるわけですから。もちろんステージに立つ側がリードするっていうのはあたりまえなんだけど、与えようっていう気はないですね」
――それができた瞬間が、ASKAさんのカタルシス?
「いまひとつになった、っていう瞬間がコンサートにはあるでしょ。ステージもそうだけど、お客さんも同じタイミングなんだよね。ぼくはそれよりも、すべてにおいて、自由な空間を作れるっていうことでの喜びがいつの間にか幸せになっている。エンタテインメントってのは、それをどっか孕んでいないといけないんじゃないかな」
――戦争やテロ、環境といった多くの問題をいま世界中の人たちが抱えているわけですけど、こうなったらいいなという願いをASKAさんはアピールしていきたいわけですよね?
「ええ。思いがひとつになったらいいと思いますね。いい格好してでもそうありたいと願っていますよ。いまはすべてに試されていることで、今まで世界がひとつの方向に向かって進んでいる時代に生きていることはなかったと思いますね。初めてのことかもしれない、全世界が同じ考えで進んでいるっていうね。かたや、想像もつかない、それを遥かに超えるような出来事が待っているのかもしれない。どっちにしても特殊な時代ですよ」
――そういった意識の中で生まれた歌が『UNI-VERSE』ですね。
「ここ数年は、そういったことがテーマになっていますから」
――ひとつになろう、と。
「なんていうのかな……相手の気持ちがわかるっていう瞬間があるでしょ。深読みして外れることもあるけど。ただ、結局、会話の中で時間を費やしているのは、やっぱりね、行間を読み取るっていうか。だから行間の意味合いはものすごくおっきいですよね。いい幅の行間を作れないときは誤解されるだろうし。気持ちよく(『UNI-VERSE』を)歌うことでそれは解決できたので。詩を書いているときはかなり時間がかかりましたね」
――作詞は難産だったと?
「難産というより、もっといいものがあるはずだっていうね。それだけです。時間かかっても……シングルの宿命ってあるでしょ。世の中に広まっていかないといけないっていう」
――時代性にマッチさせるということですか?
「時代性を先取りすることも必要かもしれない。シングルって特殊なもので、自己紹介って意味もあるし、作り手の勢いを感じさせないといけないし。このテーマで曲を作れる、歌えるっていうのは、ぼくにとっては、いままでの時間がフリだったような気がしますね」
――谷川俊太郎さんの『朝のリレー』っていう詩のタイトルが歌詞で使われていますけど。
「そうですよ、こうやって話しているあいだに、どっかでは朝を迎えているわけですから。だから、目に見えるもの、証明できるもの、そういうものがすべてで、それだけが事実として進んでいくことの危険性ってすごくある。でも、目に見えないものの強さや力って、実際に証明できるものより多いような気がする。人の意識ってのはすべてのものにとってのエネルギーだと思う。谷川さんの詩は、ある軸をとおるときの役割はみんなにあって、そのことを考えていく、願いを発していくというリレー……人間の持つ力のことなんです」
――意識のことですよね。
「オリンピックって開催地の選手がメダルを獲得することが多いんだけど、その国の人たちの気であったり願いであったり……強いですよね。たまたまっていわれたらそれまでだけど、意識があるといわれればあるような気がする。まあ、だって、時間自体、続いていること自体がオカルトですからね。それに円周率とかも」
――どういうことですか?
「延々に切れない。だから時間は円周率。答えを求めても、答えの出ないものに引き継いでしまう。答えなんてない。どこかが、歪。矛盾もある。ぼくらは矛盾の中で生活している。矛盾がないと成立しない……ゼロだと消えてしまうわけですから。だから、ひとつになっていくってことの矛盾もありますよ。世の中終わってしまえばいいと思っている人だっているわけで。負の力ってのは、ものすごくおっきいと思いますね」
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