――結成20年目にして、初の武道館ライブが決定。the pillowsにとっても、大きなポイントになりそうですね。

「まあ、相変わらずライブ会場選びについては自発的ではないんだけどね。はじめてZepp公演をやったときもそうだったんだけど、マネージャーから話があったときの最初の言葉は“何を考えてるんだ”だから（笑）。今回も同じで、初めは“無理だよ”って思ったんだよね。でも、いろいろ考えてね。まず、武道館の印象が変わってきたっていうのがあるよね、個人的に。ほら、ミスチルやGLAYを横浜アリーナなんかで見るじゃない？　それに比べると、武道館って肉眼でもわりと楽しめるなって。あと、去年だったかな、The Birthdayの武道館を見たとき、アリーナがスタンディングだったし、これだったらロック・バンドとしても成立するなって思って。いいライブだったしね」

――the pillowsも似合うと思いますけどね、武道館。

「もうひとつは、the pillowsが20年目ではじめて武道館をやれば、それはちょっとおもしろいニュースだと思ったんだよ。特にヒット曲もなく、自分たちの好きなロックンロールをやり続けてきたバンドだから――いまもいるはずなんだよ、30代で苦戦してるバンドが。そういう人たちが“the pillowsみたいなやり方もあるじゃないか”って思ってくれればっていう。自分たちが30くらいのときも、そうだったからね。売れたバンドの二番煎じみたいなやり方ばかりを強要されそうになるっていうか」

――山中さんが29歳とか30歳のとき、もしもthe pillowsみたいなバンドがいたら勇気づけれられた？

「うん、そう思うよ。そのバンドに合ったやり方がある、っていうことがなかなかわかってもらえなかったからね。ただ、自分たちに理解者がいないとは思えない、まだ理解者と出会っていないだけだっていうのはすごくあった。だから、粘り勝ちだよ。だってさ、たとえば3年間ツアーやイベントをやってきたバンドと、20年続けてきたバンドとは出会う人数が違うじゃない。本来、自分たちをわかってくれるはずの人には、その1回のライブで必ず好きになってもらう――そういう気持ちでやってれば、出会うべき人には出会うじゃん。そこは3人で、自力でがんばってきたと思うよ。俺たちは音楽にしか頼ってないから」

――the pillowsの状況が良くなってきたのは、“第3期”と呼ばれる90年代の真ん中くらいからですよね。オルタナティヴなテイストが強まっていったのが、その特徴だと思いますが…。

「まず、第1期はネオアコ、マンチェスターと呼ばれていたブリティッシュ・ギター・バンドの影響があった。第2期は当時の渋谷系の感じというか、ジャズ、ソウル、ボサノバを取り入れたスタイリッシュな音楽をやろうとしていて。ホーン、ストリングス、パーカッションとのセッションも楽しんだし、ギターサウンドではなくなっていた時期。で、第3期はオルタナっていうよりも、またシンプルにギターバンドに戻ったと言ったほうがいいだろうね。わかりやすくいうと、『ストレンジ　カメレオン』ができたのが大きい。あの曲にはパーカッションもキーボードも必要なくて、そこで気づいたんだよ、俺はギターロックをやりたいんだって。あとは“関係ねえよ、やりたいようにやろうぜ”っていう気分もでかいのかもしれない、音楽的なことよりも。事務所もレコード会社も知らねえ、好きなことやるんだってブチ切れたことが大事だったというか」

――真鍋(吉明／ギター)さん、佐藤（シンイチロウ／ドラム）さんも同じ気持ちだった？

「もちろん。『ストレンジ　カメレオン』をリリースすることも当時のスタッフからは反対されてたんだけど、ふたりとも“関係ない、山中の好きなようにすればいい”って即答だったから。いままでもずっと、好きなようにしてよかったんだって言ってくれたしね。シンイチロウ君と真鍋君がカッコ良かったのは、そのときだけかな（笑）。それだけで、一生分“かっこいい”と思ったけどね」

――それ以降は、セールスもライブ動員も“いつも現在がピーク”という状況が続いてるわけですが。さすがに“よくやったな”って思うんじゃないですか？

「ここ2、3年はそんなに思わないけどね、いつも気分よくいられるから（笑）。そうだな、15周年のときはよく感じてたかもね。トリビュート（Mr.Children、BUMP OF CHICKEN、ELLEGARDEN、ストレイテナーなどが参加した『SYNCHRONIZED　ROCKERS』／2004年）だったり、そのあとのアメリカツアーでチケットが売り切れたときは、“がんばったな。自分の価値を証明したな”って思ったかな」

――メンバー3人で、「ついに武道館だよ」みたいな話が出ることって…あるわけないですよねぇ。

「ないね（笑）。あのふたりはそういう話をしないよ。俺は“達成感を感じたい”って思ってるけどね」

――やはり、ふだんのライブとは違う。

「うん、俺は違うと思ってる。ガチガチに緊張しちゃうと思うよ（笑）」