映画『鑑識・米沢守の事件簿』の主演俳優と、その主題歌を担当したミュージシャン。 ひょんなことから接点を持ったふたりの男が「表現者」としての自分の道を語り合った。
Text●神谷弘一(blueprint) Photo●源賀津己
俳優・六角精児と、ロックシンガー・宮本浩次。ジャンルも風貌も異なるこのふたり、実は大きな共通点がある。10代の頃に出会った仲間と共にひとつの表現を追い続け、40代を迎えた今、大輪の花を咲かせようとしていることだ。今回、そんなふたりによる初のコラボレーションが、映画『鑑識・米沢守の事件簿』で実現。六角が主役を演じる同作に、宮本率いるエレファントカシマシが主題歌『絆』を提供しているのだ。それぞれのジャンルで異彩を放つふたりが、今回の出会いの意味や、互いの表現活動についてじっくりと語り合った。
宮本「僕自身、『相棒』シリーズが好きなんですよ。昔ながらというのはヘンですけど、お茶の間でくつろぎながら、安心して観られるドラマだと思っていて。映画の台本を読ませていただいたり、スタッフの方と話し合いの場を設けていただくなかで、音楽を通じて新しい出会いがあったのが嬉しかったですね」
六角「エレファントカシマシさんに主題歌を作っていただけると聞いたときは、やった! と思いました。変わっていく音楽シーンのなかで、変わらぬ魂を持ってロックをやってらっしゃるバンドだと思っていたので、本当に嬉しかったですね」
−−作品の世界観や、“男の生き様”という部分に、楽曲がうまくマッチしている印象です。
六角「僕が演じる米沢守という人間と、ロックという音楽は直接結びつかないかもしれませんが、人間には色んな部分があると思うんです。誰にも消極的な部分もあれば、積極的な部分もある。『絆』という曲は、そのなかでも積極的な部分を最大限に引き出してくれていて。もしかしたらエレカシファンが、米沢という男を観に来てくれるかもしれない。そう考えると嬉しいですね」
六角精児
−−さて、六角さんは高校時代の仲間と劇団扉座を続けていて、一方の宮本さんも、中学時代の同級生とバンドを続けています。おふたりとも“仲間”と“絆”を大事にして活動してきたという共通点があるのでは?
六角「似たところはあるかもしれませんね。ただ、劇団とバンドでは人数も違いますし、劇団に所属している人間は、劇団員として成立したいんじゃなくて、俳優として成立したいんだと思うんです。つまり、俳優は自分の考え方を中心に見ざるをえない部分が必ず出てくる。メンバーの結びつきみたいなものは、バンドの方が強いんじゃないかな」
宮本「確かに、強い個性がないと役者として成功できないし、一方で劇団という集団でもあるし……というところが難しそうですね。それだけに劇団では、まとめる人の力が大切になりそうですね」
六角「劇団扉座は、今も昔も横内(謙介)がまとめてくれています。劇団には僕らの子供のような世代も参加していますから、しっかりしたまとめ役がいるといないでは大違いです。バンドに関してはどうですか?」
宮本「バンドのスタイルにもよると思いますけど、歌、ベース、ドラムと役割がはっきり分かれていて、歌い手が前に立つケースが多いですね。エレファントカシマシの話をすると、僕がリーダーとしてまとめてきた、という感じではない気がします(笑)。同級生で気心が知れたメンバーとやっている、というのがデカいですね」
六角「僕も横内と知り合って30年近くになりますけど、こんなに長く付き合っているのは親と彼くらいで。お互いに良いところも悪いところも知り尽くしているし、なにも言わなくても伝わる部分もあるんですよね。たまに会うとホッとするんです」
−−六角さんは俳優として、宮本さんはロックシンガーとして、ひとつの道を歩いてきた表現者だと思います。そのなかで、“仲間”というのは、どんな存在なのでしょう?
六角「支えになると同時に、どこか憤りの対象でもある。つまり、ライバルなんです。例えば、横内が作品を演出した際に “お前のここがダメなんだ”と、つらい部分を指摘されて、腹が立ったこともありましたけど、そういう怒りを感じさせてくれる人がいないと、作品も自分も良い方向には行かないんですよね。仲良しなだけでは、仲間は成立しないんじゃないかな。自分で長所だと思っているものが、必ずしもそうじゃないこともあるし、逆に周りからの意見に気づかされることも多くて」
宮本「“心の摩擦”っていうんですかね。音楽も映画もひとりでは作れないし、色んな役割・立場の人が集まって、色んな意見がある。スタッフやプロデューサー、それにメンバーという仲間に気づかされた部分で、自分の役割に特化して、磨き上げるのが大事なんだと思います」
