−−おふたりとも60年代生まれで、世代も近いですね。40代になって見えてきたものはありますか?
六角「若いころは闇雲に壁にぶち当たっていた気がしますね。例えば、2という段階からいきなり5に飛ぼうとするのではなくて、周りをしっかり確かめながら、3、4と段階を踏めるようになったんでしょうね。40代で気づくというのは、遅かったかもしれないですけど(笑)」
宮本「大人になっても、憂鬱なことや、六角さんのおっしゃるような“壁”にぶち当たることはたくさんあるけれど、歌で人とコミュニケーションをとってきて、みんなが僕の歌声を聴いて喜んでくれていることが分かったんですよね。自分の歌声で、心が揺さぶられることもあって。昔はボーカルのOKテイクまで自分で決めていたんですけど、思いは歌に宿るんだから、僕は歌うことに特化して、一生懸命やるしかない。当たり前のことですけど、自分で楽曲のすべてを相手にすることはできないんです。これに気づくのは、僕も遅かったかもしれませんね」
六角「OKテイクを自分で決める、という話は面白いですね。映画やドラマの場合は、OKを出すのは監督です。そうすると、自分が納得していない演技にOKが出ることがある。30代の頃は、それを非常に悔やんでいたんですよね。ただ最近は、宮本さんもおっしゃるように、録音をしてくれる人、照明をあてる人、それを総合的に見る人と、それぞれの役割に特化した専門家がいて、そうした方たちの判断も踏まえたOKなんだと納得するようになりました。宮本さんが歌うパートに専念するならば、僕は台本に書いてあることを自分なりに演じる事だけに専念する」
−−そういう風に、考えが変わったきっかけはありました?
六角「芝居を続けるなかで変わってきた、というわけじゃないと思います。日々の生活のなかで、様々な経験をして、ちょっとずつ感じられるようになってきたことが大きいんじゃないかと」
宮本「ゼロ歳と10歳は違うし、10歳と20歳は違う。生活上の経験値が人を決めていくんでしょうね」
−−なるほど。六角さんは表現を続けるなかで、俳優以外の道を考えたことはありましたか?
六角「僕はミュージシャンになりたかったですね。ずっと音楽が好きだったし、野口五郎さんやジュリーさんから始まって、ビートルズやボブ・ディランを聴いて。ギターもやっていたし、若いころはバンドで音楽をできたらいいな、と思っていたことはありました。ただ、好きなものを表現する立場に必ずしもなれるわけじゃないですから……。ところで宮本さんはバンドを始めたころ、誰かのコピーをやっていたんですか?」
宮本「そうですね。RCサクセションがすごく流行っていて、頑張って真似していました」
六角「RCサクセションは、下北沢の屋根裏というライブハウスでやっている頃に観ましたね。当時ロックに移行したちょっと後で、僕も好きでした。音楽って、リズムがあるじゃないですか。芝居のなかでも、会話や話の流れに、色んなリズムがある。同じビートで進む場合もあるし、シーンによって転調することもあって。音楽を聴くことが、芝居の役に立っている気もするんです」
宮本浩次
宮本「僕の場合、子供のころは乗り物が好きだったので、新幹線の運転士さんとか、タクシーの運転手さんになりたかったんです。それと、テレビの天気予報のキャスターにも憧れましたね。当時のキャスターは指揮棒を持って、天気図を指して(笑)。今のように柔らかいコーナーじゃなくて、キチッとしているのがカッコよかったんですよね」
六角「タクシーの運転手さんも昔は白い手袋をしていたし、何かをキチッと制御しているところに惹かれたのかもしれないですね。ひとつ聞きたいんですけど、僕も詞というものを書いて、オリジナルの曲を作ってみたいと思ってペンを持つんですけど、全然できないんですよ。宮本さんは歌詞を書くとき、どういう風に考えるんですか?」
宮本「詞のことだけを一所懸命に考えますね。本当にずっと考えてます。それと、僕らは韻を踏んだりはしないんですけど、メロディというものに言葉を当てはめていくというゲームみたいなところもあるんですよ。歌詞を考える上での“的”があるというか。同じことを表現していても、メロディによってはまったく説得力を生まない歌詞もあるし、型のようなものがあるのかもしれないですね」
−−宮本さんから、六角さんに聞きたいことはありますか?
宮本「例えば会社だったら、自己主張しすぎると良くない場面もありますよね。俳優という職業は、ある集団のなかでストレートに自己主張をして、個性に磨きをかけていくのが難しさでもあり、素敵なところでもあると思うんですけど、集団の中での自分をどう捉えていますか?」
六角「相手のリズムに乗って演技をすることが面白い場合もあるし、そうじゃないことをやって、自分の存在感を出すことを考えることもある。主役の人はそんなことを考える必要はないんですけど、僕は脇役が多いので、どうやったら作品と自分のためになるか、という折り合いを考えることが多いです。意図的に突出しようとすると、作品が面白くなくなってしまいますからね」
宮本「“役割”の話じゃないですけど、米沢というキャラクターは、渋いけれど、世の中の重要な役割を果たしている、素敵な人物ですよね。この役柄を演じる上では、どんなことを考えましたか?」
六角「僕はだいたい、役を演じるというよりも、自分のキャラクターや性格に、役を持ってきてしまう、ということを考えます。米沢なんかも、自分と似ている部分が大きいんですよ。つまり、自分が人間的に面白くないと、役柄も面白くならないので、最初に宮本さんがおっしゃったような、“新しい出会い” を大事にしないと、枯れてしまう気がしますね。ぜひ今度、エレファントカシマシのライブに行きたいなぁ。こういう形でお話をさせていただけるとは思っていなかったので、今日は嬉しかったです。宮本さんには、ずっとこのままでいてほしいですね」
宮本「六角さんは紳士で、優しくて、渋くて、米沢とダブっちゃうんですよね(笑)。演劇に詳しいわけじゃないんですけど、僕もぜひ六角さんの舞台を観に行きたいです」