――ちなみにアニメは観ますか? 『ちびまる子ちゃん』を観てるってことは『東京アメリカ』にがっつり出てきたからよく分かりましたが(笑)。
「アニメはねー、ちびまる子とクレヨンしんちゃんとドラえもんと、みたいな……。ほんとちっちゃい子向けのやつが俺すごい好きで、プリキュアとか(笑)。アニメじゃないけど仮面ライダーとかも。最近のアニメは凄すぎてもう分かんない。全くついていけない」
――ロロの三浦直之くんとか、そっち方面に詳しい感じしますけど。
「そう、三浦君はすごいそっち好きで。僕は映画ですかね、やっぱ。24時間のうち、暇な時間は脚本書いてるか映画観てるか。本当にそんな生活です。映画はなんでも観るようにしてます。ハリウッドも観るし。中学とか高校の頃は斜に構えて「何がハリウッドだよ」とか思ってたんですけど(笑)」
――ちなみにロロの三浦直之くんとは親しいんですか? 坂本ももさんが両劇団の制作を担っているという繋がりがあるとはいえ、両者は方向性としてはかなり異なると思いますが。
「方向性は全然違いますけど、よく話しますよ。この前も泊まりに来ましたもん、飲みの帰りに。内容は……映画の話とか? たまに演劇論になる時もありますね。でも、「それは違う!」とかっていう感じじゃなくて。……よく「ライバルどこ?」みたいなこと訊かれるし、みんな「ライバルはロロの三浦くん」って答えてほしそうな顔するんですけど(笑)、全然そういうのなくって。むしろ共闘してこうよ、ぐらいな気持ちです。仲間じゃん、同い年だしっていう」
――じゃあ、ライバルは他には?
「いない。言うなれば昔の人たちですよね。それと、これから来る人たち。ライバルは唐十郎、って豪語したらマズいですけど(笑)、でもそこから入ったから。あと野田秀樹さんもすごい好きだし」
――あんまり同世代で張り合おうという感じではない?
「ないですね。昔、そういう風潮があったのは知ってます。張り合うことによってお互いを高めて、立場をハッキリさせて、思想も研ぎ澄まされてく、みたいなことがあったのも分かりますけど。でも僕らの感覚では、そういうのは古いんじゃないのかな、って思うんですね。てか、すごく狭い世界だから、そんなねえ……。そこでやってもしょうがないですよ、そもそも」
坂本:山本も、ロロの三浦も、人の悪口を絶対言わないんですよ。山本は稽古場では怒鳴るけど、でも二人とも温厚というか。
「悪口は一切言わないですね。中傷はダメ。中傷ってものはいちばん僕が嫌いなものですね。でも批評っていうのは素晴らしいことだと思ってて、自分にも、批評的な眼を持つことは課してます。中傷じゃなく批評を、って思いますね」
――今後の予定ですが、まずは『夢!サイケデリック!!』があって、その後はどうですか?
「えっと、5月に桜美林大学でワークショップをやります。高校生と……」
坂本:高校生じゃなくて大学生でしょ!(笑)……もう私が説明しちゃいますけど、桜美林の演劇祭GALA Obirin2012の一環で、「スタッフ企画」という、入学したばかりのスタッフ志望の1年生のための企画があるんです。それで俳優ナシの、人が1人も出てこない演劇ワークショップをやります。 参加スタッフは桜美林大学生からの募集になりますけど、一般の人も観に来られますので、ぜひお越しください。
「そう、それを次やってみようと。文字通り誰もいないんで、『ゴドーを待つ人もいない』っていうタイトルです(笑)。その後は、7月にこまばアゴラ劇場で『東京アメリカ』の再演をやります。これは名古屋公演も。初の再演ですね」
編集部:将来的なビジョンを訊きたいのですが?
「まず大きいところでやりたいという欲求はあります。今度CBGKシブゲキ!!のPLAYPARK2012(4/20〜29。範宙遊泳の出演は4/22)に今回の『夢!サイケデリック!!』の前半部分を持って行くことにしたので、大きい劇場にも対応できるように、声とか動きとか 演出を調整して、ゼロから発想を作り替えてみたんですけど、その行為がすごく面白かった。昔から大きい劇場って好きなんです。小さい劇場は、もちろんまだ手なずけてはいないですけど、ある程度キャパの問題は分かってきたので、大きな劇場のサイズでどの程度通用するか、その好奇心があります。やってみたいという」
――小説執筆や映画監督はどうですか?
「もちろん、全然やりたいです。なんでもやりたいし、なんでもやる。というのは、僕がまだ僕自身を判断しちゃいけないと思ってるから。やれることはやりたいです」
――圧倒的に若いですからね。まあ何になるかほんとに分からないという。では、海外は?
「海外もすごく意識してますよ。たかくらちゃんにわりと海外の友達が多いんですけど、彼が呼んで来てくれた人とかにすごくウケもいいので。言葉の壁はもちろん超えなきゃいけないけど」
――これまではパーティ的にしてみたり、演劇本流からは少し外れてきたイメージもありましたけど、今後はもちろん岸田國士戯曲賞も射程に入ってきますよね?
「もうねー本当、結構ね、射程入れてますよね、ぶっちゃけ。作家としてちゃんと成人したいという欲はあるかもしれません、もしかしたら」
坂本:実は去年の年末のパーティイベントは、劇団員全員がプロデューサーでいるようなつもりでやったんですけど、その時に美術家のたかくらが「たぶん今、山本くんは自分の作家性を活かして執筆して作品を作りたいと思うけど、そうじゃない時もあったほうがいいから、このイベントをやろう」と言ってて。そもそも私が範宙遊泳に制作として入って当初にたかくらに言われたのは「小劇場すごろくに乗せないでくれ」ということでした。劇団として、動員を伸ばすステップアップのためには、ある程度、次はどこの劇場でやるとか手順があると思うんですけど、範宙遊泳はその流れには乗りたくない集団なんだなと。作家性を掘り進めていくことと、そうではない別の形で演劇をやってみることと、その二本柱だと思いますね。
――いわゆるかつての「小劇場すごろく」がかなり変容して、選択肢が増えて自由にもなったし、逆に先行き不透明とも言えますよね。そこで今は、自分たちで道を作っていくしかないと思うんですけど。現時点で範宙遊泳はどういう客層に指示されてるんですか? 劇場で見かけるかぎりでは若い人がかなり多い印象がありますけど。
「今は女の子が多いですね。でも若者は発言権も伝播力もあんまりないから、ちょっと悔しいなあ、とは思ったりもしてるんだけど、若者が観てくれないのはちょっとヤだし、観てくれるのはすごく嬉しいです」
坂本:範宙遊泳は桜美林の後輩たちが学内でやってた頃から好いてくれてたみたいで、よく「憧れてます!」って言われます。もうちょっとロロもそういうのあっていいと思うんですけど(笑)。
――となると5月の桜美林大学のワークショップも楽しみですね。腕の見せ所ですよ。少々忘れっぽいのが玉に瑕だけど(笑)。
「もうみんな初めて入ってくる一年生たちだから、未知ですよね。楽しみです。俳優がいなくて、モノだけっていうのもね。そこで何ができるかやってみたいですね」
Text●藤原ちから Photo●熊谷仁男
やまもと・すぐる 1987年生まれ、山梨県出身。2007年、桜美林大学在学中に範宙遊泳を立ち上げ脚本・演出を務める。シアターグリーン学生芸術祭優秀賞、名古屋キャンパスフェスティバル大賞受賞。アイロニカルに人間を肯定する「えせハッピー」な脚本。また「バーチャルリアリティ的リアル」と称し、遊園地のアトラクションやテレビゲームのような演出を展開する。
範宙遊泳Webサイト
範宙遊泳
アトリエ春風舎プロデュースvol.2
『夢!サイケデリック!!』
4月25日(水)〜29日(日)
アトリエ春風舎(東京)
範宙遊泳
GALA Obirin2012 スタッフ企画 ワークショップ発表公演
『ゴドーを待つ人もいない』
5月12日(土)〜13日(日)
桜美林大学・町田キャンパス 徳望館小劇場
範宙遊泳
『東京アメリカ』
7月
こまばアゴラ劇場(東京)
G/PIT(愛知)
