TOP > 今週のこの人 > 山本卓卓

山本卓卓

――範宙遊泳の舞台を作るにあたって、そのイメージは何がきっかけで湧いてきますか?

「たぶん自分はコンセプチュアルな方で、毎回、コンセプトを立てるんですけど、例えば今回の『夢!サイケデリック!!』では夢を形にすることにトライしたいと思いました。実は『東京アメリカ』や『宇宙冒険記』でも夢を扱ってきたんですけど、今までは「夢と現実の差」をテーマにしてたのを、今回は夢そのものを作りたいんです。要するに(物語の構造上)いちばん上にいる人が誰だか分からない。誰が見てる夢なのか確信できないまま進めようと。それともうひとつ、夢がだんだん深くなっていくように書くこと。眠りの流れも作ってて、今はレム睡眠、今はノンレム睡眠とか……。そのせいか、この台本を最初美術のたかくらかずきくんに見せた時に、ちょっと物足りなそうな感じだったんですよ。今までの範宙遊泳にはいわゆるひっくり返しとかどんでん返しみたいな派手な仕掛けがあったんだけど、今回それをあまり使わないという制約を課したから。でも現場を見たら彼も「ああ、分かった!」って言ってくれてましたね」

――なるほど。しかし夢ってそれ自体がフィクションだから、演劇との相性は実は良くないとわたしは思ってるんです。何でもアリだから、逆に自由すぎて辛くないですか?

「それはほんとそうで、だから自分に制約を課すことにしたんです。確かに、夢を扱うかどうかに関わらず演劇は自由すぎるとは思ってて、もちろん物理的な不自由さはありますけど、でも人を冷蔵庫に見せることもできるし、何も無い場所に山を作ることもできるし、空も飛べる。そういうスピリットは持っていたいとは思いますけど、自由すぎることに悩んでもいました。で、結局「そうか、自分にルールを課せばいいんだ!」ってところに至って、そうすれば演劇を手なずけられると思ったんですね。演劇の自由度が暴走しまくってる時は、いろんなものがダイレクトに来すぎて跳ね返りすぎて僕も傷つくんですよ。ゾッとします。稽古しててもそうだし、公演が終わってからもゾッとするし。そこは、自分の中に制約を設けるようになってからわりとコントロールできてきましたけど」

――いつも公演終わった後どういう感覚でいるのかなーと疑問だったんですけど、そうか、ゾッとしてたんだ(笑)。それはある意味では、公演の手応えでもありますよね。

「もちろんそうです。僕はどうも、反対方向に力が働くんですよね。例えば善を描くとしたら、絶対悪がつきまとっちゃう。公演も「うまくいったぞー」と思ったら逆に「うわっ、食らってんな、俺」みたいになるし。物事が反対に行くことが癖になっちゃってる。どの場所においてもそう。多幸感を感じたら、その後に恐怖心が来るような。反作用ですね。例えば飲みに行ってどんちゃん騒ぎしたら翌日すごい落ち込むじゃないですか。その感じといえば伝わります?」

――喩えの妥当性はともかく、とてもよく分かります(笑)。なるほど、初めて範宙遊泳を観た時から、多幸感とニヒルさが同居してるこの感じは何だろうって不思議だったんですけど、それも反作用の成れの果てと思えば腑に落ちますね。

「世の中で、みんなが「あの人は悪だ」と責める風潮があっても、でも24時間のうち1時間くらいはその人も可愛い時あるよきっと、とか思っちゃうんですよ(笑)。天邪鬼なだけかもしれないけど、でも世の中が悪目線に働いてる時は自分は善目線でいたいし、逆もそう。例を挙げれば……この話はあんましたくなかったんだけど、震災の時も、世の中は善に動いてるなって思ったんですよね。それでいいんだけど、でもどうせさ、半年くらい経ったらみんなすごい誰かを責め出すでしょ、また一気に悪がドーッと流れてくるでしょ、ドロッとすんぞ、とか思ってて。だから善の風潮になってると、止まれ止まれと思っちゃう」

――それはきっと天の邪鬼なのではなくて、真摯であろうとしてるだけなんじゃないですか。嘘をつきたくないという。

「そう言ってもらえるとすごくありがたい。僕はひねくれてるとか皮肉屋みたいによく言われるから、自分自身、そっかもなあと思ってたんだけど。わりと僕も真面目に世の中考えてるぞー、ってところも実はあるし(笑)。でも、バカではいたい。インテリぶりたくないし、スノッブなのはヤだし」

――ところで今回のタイトルは『夢!サイケデリック!!』ですけど、範宙遊泳にはサイケ感が常にありますよね、美術とか、色的に。ちょっと懐かしい感じもします。60年代の前衛カルト映画みたいな印象。

「それ、嬉しいですね。役者の大橋一輝にも「山本の脚本は古い匂いがする」ってよく言われるんですけど、でもその辺の色合いに関してはわりと美術家のたかくらかずきに投げてるんですよ。もしかしたら彼がそういうところの古さを汲み取ってくれてるのかなあ」

――『宇宙冒険記3D』の時にたかくらかずきさんの展示も併設されてましたけど、彼の美術と舞台とのマッチングをすごく感じました。面白い関係ですね。

「彼は造形大学の大学院に行ってた美術家なんです。もともとセンスが近かったのかなって思いますね。僕が卒制展を観に行っていきなり声かけたんですよ。友達のを観に行ってたんですけど、面白いやつがいるって聞いてたまたま観て。そしたら演劇みたいな仕組みだったんです、彼の展示が。「ビデオカメラが回ってます」って紙に書いてあって、いろんな武器が置いてあるんですよ。サーベルとか兜とか甲冑とか。で、「撮ってますので何かやってください」と書いてあるから、うおー、これは演劇人の血が騒ぐぞー(笑)とか思ってカメラの前ですごいカッコつけたんですよね。「ヤー!!!」とか言って。で、そしたらカメラで撮ってるのは全部嘘だったらしくて、まんまとハメられた。超恥ずかしいっていう。それでもう、これは絶対声かけなきゃって」

山本卓卓

坂本:たかくらはすごく変な人で、山本とそっくりというか、ぴったり合ってんだなと思います。ドラマトゥルク的な役割もかなり担ってますね。『ラクダ』から範宙遊泳の美術をやっています。

――いい出会いだったんですね。でも『東京アメリカ』も『宇宙冒険記3D』もそうですが、わりとその想像力の向かう先が、宇宙とか、夢とか、遠い世界がまずあって、その一方ですごく卑近な「ちびまる子ちゃん」とか「スーパーマリオ」の世界が対置されたりしますよね。そしてその両者が一気に変な通路で繋げられる。

「稽古場でも、最小単位と最大単位を考えろ、みたいによく言うんですよ。ミニマムとマクシマム。小さいところと大きいところ。そこは僕の、演出家的にも作家的にも、すべてのセンスの源泉となる考え方です。小さいものから大きいものへとか、大きいものから小さいものへ、ということは癖としてすごく持ってますね。小学校の頃に、細胞が宇宙だ、みたいなマンガを手塚治虫が描いたという話を学校の先生がしてくれて。つまり腕を叩いて1個の細胞が死ぬと、宇宙の星が1個死ぬ、という。そういう種類の発想がすごく僕の中にあるんです。例えば「家族」って単位を大きくしていくと、国、世界、みたいになるとか。マトリョーシカみたいな構造で。子供の頃からの癖でしたね、そういうのを考えるのは」

――最初のほうの話にも繋がりますけど、現代口語演劇では、例えば平田オリザが得意とするのは、すごく小さな日常を描きつつも、その背後では政治的・歴史的な大事件が動いている、というパターンですよね。そこにもミニマムとマクシマムって感覚はたぶんあるけれども、現代口語的リアリズムならではの不自由さがある。つまり両者の接続の仕方に対して、それなりの理論武装をして合理的な説得力を持たせる必要があると思うんです。だけどおそらく山本さんが範宙遊泳でやりたいのは、それとは別種の、もっとヘンテコな繋ぎ方ですよね?

「そう、もっと変に繋いじゃう、ですね。もっと強引に、もっと軽々しく! 楽しいんですよね、その作業は。はんだごての跡が見えてるくらいの強引さが好きです(笑)」

――『労働です』にはマリオが出てきてましたけど、範宙遊泳ではゲーム的な要素も多用されてると思います。RPGとか、コンティニューとか。やっぱりゲームはお好きですか?

「あの時はコンセプトとして「今回はゲームでいこう!」というのもありましたけど、単純に好きですね。最近のゲームはリアルすぎて面白くないけど、昔のマリオとかの頃の8bitのドット絵のあの粗い感じって、みんな共通のコンテクストとして持ってるから通じるし、役者がそれをやろうとしてもズレるから、そこを楽しめると思って」

――まあ、生身の人間はキノコ食べても大きくならないですからね(笑)。

「そうそう(笑)。なのに目の前にいる人が頑張って太ろうとしてるっていう、キノコで」

Text●藤原ちから Photo●熊谷仁男

PROFILE

やまもと・すぐる 1987年生まれ、山梨県出身。2007年、桜美林大学在学中に範宙遊泳を立ち上げ脚本・演出を務める。シアターグリーン学生芸術祭優秀賞、名古屋キャンパスフェスティバル大賞受賞。アイロニカルに人間を肯定する「えせハッピー」な脚本。また「バーチャルリアリティ的リアル」と称し、遊園地のアトラクションやテレビゲームのような演出を展開する。
範宙遊泳Webサイト

INFORMATION

範宙遊泳
アトリエ春風舎プロデュースvol.2
『夢!サイケデリック!!』

 4月25日(水)〜29日(日)
 アトリエ春風舎(東京)

範宙遊泳
GALA Obirin2012 スタッフ企画 ワークショップ発表公演
『ゴドーを待つ人もいない』

 5月12日(土)〜13日(日)
 桜美林大学・町田キャンパス 徳望館小劇場

範宙遊泳
『東京アメリカ』

 7月
 こまばアゴラ劇場(東京)
 G/PIT(愛知)   




2012.04.24更新

今週のこの人 ラインアップ

  • 山田和樹
    小澤征爾も実力を認める注目の指揮者。クラシック音楽界が熱い視線を注ぐホープの“今”に迫る!
  • さまぁ〜ず
    2年ぶり、9回目の 『さまぁ〜ずライブ』開催。 稀代のコント芸人が、ライブにこだわり続けるそのワケは?
  • 遠藤保仁(ガンバ大阪)
    10年連続Jリーグベストイレブンにも、代表最多出場記録にも歩みを止めない。稀代のMFの飽くなき向上心に迫る
  • 堀北真希
    あくまでも、自然体。 2度目の舞台に挑戦する“国民的女優”の素顔
  • 藤原竜也
    舞台で演じ続けてきた実体験を、 「人生の蓄積」と呼んで胸に刻む。若き天才の次なる挑戦とは…。

バックナンバー一覧へ

100問突撃!インタビュー 100Q



バックナンバー一覧へ

ページTOPへ