@ぴあ @ぴあTOP@電子チケットぴあ
前に戻る
過去のインタビュー
韓国で社会現象にもなっている映画『グエムル/漢江(ハンガン)の怪物』の監督、ポン・ジュノと『MONSTER』『20世紀少年』の漫画家、浦沢直樹。世界から注目を浴びる、ふたりのクリエーターの対談がぴあ独占で実現。偶然にも”怪物”というタイトルを発表している彼らが、自分達の意外な共通点について語り合った――
(取材 : 轟夕起夫 撮影 : 鷹野政起)


今回の対談が実現したのは、来日3日前、ジュノ監督がかねてから浦沢漫画の大ファンであることを知った映画配給会社が、浦沢氏を『グエムル』の試写に招待。「国は違っても同じことを考えている」と作品に惚れこんだ浦沢氏は対談の申し入れを快諾し、急遽、Weeklyぴあでの独占対談となった。以下、7月31日(月)、都内のホテルで行われた“世紀の対談”のすべてである。
――さきほどの初対面の時に、ポン・ジュノさんがすごくうれしそうな顔されてましたね

ポン・ジュノ(以下、ジュノ) : 今もすごく緊張してます。ずっと前からお伺いしたいことがたくさんあったので。

浦沢直樹(以下、浦沢) : ありがとうございます。

ジュノ : 一日に何時間くらいお仕事されるんですか?

浦沢 : いまちょっとお休みしてるんですが、この20年間、寝る時と食べる時以外は仕事してますね。

ジュノ : お休みしたり、おでかけしたりはされないんですか?

浦沢 : 週刊連載が月に4本、隔週連載が月に2本、締め切りが計6回来るので、週1本書いてたら間に合わないんですよ。

ジュノ : 本当に以前から先生の作品は拝見してまして、約6年前に『ほえる犬は噛まない』のシナリオを書いてるときは、『HAPPY!』を片手に持って、読みながらシナリオを書いてました。前回の『殺人の追憶』のときは『MONSTER』を読んでいましたし、今作『グエムル/漢江〈ハンガン〉の怪物』は『20世紀少年』を片手にシナリオを書いていました。いつも楽しく拝見してます。今、お話を聞いたところだと、ずっと休まずにお仕事をされてるって感じなんですね。

浦沢 : そうです。僕は監督の作品を見せていただいて、基本的に同じようなことを考えてる人なんだなっていう感じはしました。生まれも育ちも違うけど、頭の中は同じようなことを考えてて。

ジュノ : 実は私も先生の漫画を拝見していて、特に暗闇の描写、夜や“悪”といった描き方に共感を覚えることが多くて。ヒューマニズムに根ざした作品でありながら、“善”と“悪”が対決するような時に“悪”のほうに力を入れて描かれているのかなと思ってました。私自身もけっこうそういうところがあるので、『MONSTER』を読んだときには特に強く感じました。

浦沢 : どうなんだろう。もしかすると逆かもしれない。“悪”に引きずり込まれないように、自分の中で平常心を保つために、一生懸命ユーモアを加えてるような気がするんですけどね。

ジュノ : 私が監督しました『殺人の追憶』も、犯人が分からない中で、それを追いかけていくような内容のものでした。『MONSTER』の第1巻で、ヨハンが成人して初めて登場するのが工事現場のシーンだったかと思うんですが、雨の中で主人公が出てくるっていうシーンでしたよね。あそこが衝撃的で圧倒されました。あと9巻も好きなんですけど、物語の中の物語っていう設定で子供の頃に読んでいた童話が出てきましたよね。その部分の暗闇の描写にも衝撃を受けました。悪や暗の部分ていうのは戦うためのものであると思うのですが、すごく印象的でした。

浦沢 : 悪みたいなものというのは、あまりにも力が強すぎる。監督の作品にもぼくの作品にも共通するのは、やたら食べてるシーンが多いんです(笑)。やたら食べて“悪”と対決しようとしてる感じがあるんですよ。僕も、とりあえず食べとけば対決できるかなとか思うんで(笑)。そういう感性が似てると思いますね。

ジュノ :『20世紀少年』でも人物が食べてるシーンが非常に多かったですよね。特にストーリーと直接関係が無くても、食べてるシーンの印象が強いです。『グエムル』においても、食べたりあるいは食べさせたりっていう行為を多く取り入れてみたんですね。私にとってそういった行為は非常に大事なモチーフです。弱い人を守るために食べさせてあげるとか。今作の最後でも、ソン・ガンホさんが助けた男の子にあたたかいごはんを食べさせるシーンで終るんです。ヒョンソは連れてかれていないのですが、ファンタジーという設定で、彼女も登場して家族のみんなからごはんを食べさせてもらうっていうのも入れて。食べるという行為は人がどうやって生き残っていくかというテーマに繋がるものですから。
『20世紀少年』でカンナがラーメンを食べるシーンがありますよね。絵に描かれた物なのに、手を伸ばしたら触れられそうな感じで描かれてました。私は日本のラーメンが大好きなんですけど、福岡の映画祭に行った時には、3食すべてラーメンにしたほどで(笑)、だから見るたびに美味しそうだなと思ってしまいます。これは浦沢先生のテクニックかもしれませんけど、私はさまざまなドラマや映画やコミックを拝見しているんですが、場面展開においては先生は大家ではないかと思うんですね。シーンとシーンをどう繋ぐかって言うところが驚くべき力量で。わたしが影響を受けた部分はストーリーももちろんなんですが、シーンの展開の上でも非常に多くのインスピレーションを与えてくれるんですね。たとえばひとつのプロットや感情が最高潮に高まった時に、そこでばっさりと果敢に終えてしまって次に持っていくとか、そのあたりがすばらしいと思うんですね。コミックではありますが、映画的な強さを感じることがあります。先生は映画などをよく見られるのでしょうか。それとも自分の中で決められるのでしょうか?

浦沢 : 映画も大好きですけれどもね。今、かっこいいシーンの繋ぎ目とか作れる方いっぱいいますからね。監督もそうだと思うんですけど、照れ屋なんじゃないかなと思うんですよ。これ以上やったら恥ずかしいんじゃないかとか、そういう照れが感じられるんですよ。でも、それってすごく大事なことだと思うんですよね。照れをいかに作品に反映させるかとか、それってどうなんですかね?

ジュノ : 今の話、私も非常に共感が持てました。極限の状態になるとエネルギーを喪失するんじゃなくて、アイススケートのショートトラックでリレーをしているような、そういう感じじゃないかと思うんですね。バトンを渡す時に後ろの選手が前の選手を押してあげますよね。そんな感じで、エネルギーを失うのではなくて、前のシーンがエネルギーを与えて、それを押してあげて次のシーンが始まると。つまりエネルギーの移動というような感じがするんです。特に長いストーリーの場合、リレーのようなもので、最初の人が次の人にバトンを渡すような感じで進んでいくような気がして、よくインスピレーションを受けます。

浦沢 : 『グエムル』の哀しい場面で、娘の行方が分からなくなって合同葬儀が行われるんですけど、あれを笑いのシーンにするところのセンスがいいですね。『「20世紀少年』でも、ドンキーが死んだ場面で坊さんがひたすら食べるっていうシーンを入れてるんですが。悲しいシーンを笑いにするとか、笑いのシーンを悲しくするとか、そういう構造があるんですよ。そういうとこが似てる。

ジュノ : 笑いと悲しみが混在してるものというのは、アジアの方に理解していただけるようですね。カンヌ映画祭でヨーロッパの方たちに見ていただいたときに、まず合同葬儀っていう儀式にとまどってしまったようで。笑っていいのか、悲しんでいいのかわからないようなところがあったんですけど、日本の方にはまた違った反応をしていただけると思います。

思春期の奇妙な体験が
傑作を生む?

ジュノ : 『20世紀少年』で驚いたのは、あの作品の中には60年代や70年代といったさまざまな時代が出てきますが、小学生の主人公たちの遊び方が、私の子供のころと似てたんですね。秘密基地を作ったりとかしてましたし。ディテールとか感性とか通じ合えるものがたくさんあるなという印象でした。よく聞かれるご質問かもしれないですが、『20世紀少年』に出てくる描写とかはご自身の体験を反映させていらっしゃるんですか?

浦沢 : 10分の1くらいは。学校放送で自分の好きな音楽を流すシーンとか。体験談とストーリーをリンクさせながら作ってます。

ジュノ : スプーンを曲げたりとかも……。

浦沢 : それはユリ・ゲラーですよ(笑)

ジュノ : 彼は韓国にも来てました。翌日はみんながスプーンをこすってました(笑)

浦沢 : 韓国でもやったんだ! 壊れた時計が動くっていう仕掛けも、どうやら温まるかららしいんだよね(笑)

ジュノ : 彼は今は生きてらっしゃるんですか。

浦沢 : 日本のCMに出てますよ。マイケル・ジャクソンと仲良しなんですよね(笑)

続きを読む
前に戻る
ページの上部へ


『グエムル 漢江の怪物』
2006年9月2日(土)公開
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、ぺ・ドゥナ 他


浦沢 直樹
1960年、東京生まれ。'82年、小学館新人コミック大賞を受賞し、'83年に『BEAT!!』で漫画デビュー。
その後、『YAWARA』('86〜'93年) 『MASTERキートン』('88〜'94年) 『Happy!』('94〜'99年) 『MONSTER』('94〜'01年)などの傑作を次々に発表。
現在、『20世紀少年』『PLUTO』と2作品が続刊中。
ポン・ジュノ
1969年、韓国生まれ。大学卒業後、韓国アカデミーに入学。卒業作『支離滅裂』がバンクーバー映画祭、香港映画祭に招待される。
2000年に、『ほえる犬は噛まない』で長編デビュー。
'03年には韓国で実際に起こった殺人事件を基に『殺人の記憶』を発表、本国で500万人の動員を記録する大ヒット作となる。
 インタビュー
プライバシーポリシー@ぴあ会員規約特定商取引法に基づく表示動作環境・セキュリティお問い合せぴあ会社案内