「楽しくて切ないを繰り返し、重ねても重ねても、それでもまだ新しい。相手が違えば、形も距離も毎回違うから、決して“慣れる”ことがないのが恋愛」というaikoに、自身が考える“理想の恋愛像”も聞いた。
「ずっと恋人でいるのが理想ですね。私が初めて恋愛という恋愛をした相手が、年下の人だったので、いつの間にか缶コーヒーを買ってあげる役が私になってて(笑)。甘える方法を知らないままに時間が過ぎちゃったみたいな感じで、姉弟みたいな関係になっちゃうんですけど、それが嫌なんですよ。50〜60歳になったら家族になってもいいんですけど、いまは毎日、泣いて喜んで、へこんで笑い合うような恋愛がしたい。それは、父の存在も大きいと思うんですよね。うちの父は、テレビで見るようなステテコに腹巻きのような人じゃなくて、家の中でも常に男の人だったんですね。子供の頃から香水の匂いがして、指輪もはめてた。お父さんも男だっていう家庭で育ったので、家族じゃなくて男の人を求めてるのかもしれない。お父さんには“絶対にお父さんみたいな人と結婚せえへん!”って言ってるけど、しつけが厳しかったので、ピシっと言う人に惹かれちゃうし、へんてこな人なので、一途な変態に惹かれるのも(笑)、お父さんの影響かもしれない。最近やっと分かったんですよね。ああ、そうか、私は一途な変態が好きなんだなって」
ずっと恋愛しているという彼女が好きになった人は、見た目や性格はバラバラだけど、“一途な変態”というキーワードだけは統一しているという。恋愛や自身の楽曲を通して自分を知る事も多いという彼女だが、最近は、彼女の恋愛観に、年を重ねてきたからこその変化も見られるようになっている。2ndアルバム『桜の木の下』(2000年)の頃は、『愛の病』『お薬』『傷跡』『恋愛ジャンキー』という、タイトルだけでも直接的で切迫しているのが分かるほど、不安定で激しい感情がベースになっていたが、それは、言えない想いが心の中で澱のようにたまってしまった事でできた「傷跡」であり、恋愛以外では癒せない「愛の病」だった。だが、7枚目のアルバム『彼女』(2006年)で、過去を写真のように振り返ったり、自身の恋愛を俯瞰で物語れるようになった彼女は、21枚目のシングル『シアワセ』(2007年)で「今日も大好きでした」と伝え、最新シングル『KissHug』でも途中で途切れそうにはなっているものの、「You Love……/I Love……」と、自分の想いを言葉にするようになった。
「昔よりは強くなったというか、“言わない後悔より、言う後悔をしよう”と思うようになった。好きだと思ったら、明日言おうと思わないで、“今、言おう”と思うんですよね。あとは、昔ほど勝ち気ではなくなったのかもしれない(笑)。“あれして欲しい、これして欲しい、どうして欲しい”っていう感覚が昔よりは減ったんですけど、それは、男子の事をそんなに王子様だとは思わなくなったからだと思います。男子は男子で、女子は女子。違う生き物だからこそ、すごく惹かれ合うんだって思うようになったんです。それに今は、“片想いで痛い痛い”っていう気持ちを言葉にするよりも、ほかに伝えたい事があるっていう感じが強いのかな。最近は、切なさが増している時よりも、“この人に強く思われているんだ”っていう事を体で感じてる瞬間を曲にしたくなる事もあって。“好き”という言葉を発する事は簡単になり、でもその意味合いが重たくなってるんじゃないかと思いますけど、自分の事はまだよく分からないので、もうちょっと咀嚼して、反芻して(笑)、曲に出していきたいな〜と思いますね」
世代を超えて愛されるラブソングというのは、聴き手が自身の姿を投影し、いつかの恋愛を思い起こさせてくれるリアリティを持っている。そもそも“恋愛”という言葉は、個人的な心の状態を指しているので相反しているようだが、aikoのラブソングは、作り手のしっかりした説得力やリアリティがありつつも、聴き手が感情移入できる間口がある。だからこそ、彼女の“好きだから切ない”という形にならない感情がそれぞれの恋愛と結びつき、決して忘れる事のできない、思い出の曲となるのだろう。そして、それは、ハッピーサッドな音楽に昇華されて、私たちの生活に入り込み、新しいラブソングのスタンダードとして歌い継がれていく事になるのだ。
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