1998年のデビュー以来、様々なラブソングを世に送り出してきたaiko。いまや夏のラブソングの定番となった3枚目のシングル『花火』(1999年)で、悩み落ち込み、疲れ果てながらも止められない恋心を描き、4枚目のシングル『カブトムシ』(1999年)で、自身を「甘い匂いに誘われた」カブトムシに例えてきた彼女の音楽の中心には、いつだって“愛って何だろう?”という問いかけがあり、人を愛する事の切なさと楽しさが描かれてきた。それは、映画『花より男子ファイナル』の挿入歌に起用されたニュー・シングル『KissHug』でも変わらない。より想いが強くなった音楽の中で展開される、1枚の写真のような恋愛の記憶。この曲の主人公である“あたし”は、aikoであり、牧野つくしでありながらも、聴き手である“あなた”とよく似た女の子でもあるはずだ。極私的な叙情風景を取り上げながらも、同じ感情を共有し、同じ経験を重ね合わせ、聴き手であるあなたと“似ている”と感じることのできる“共感”という名の感情を引き起こすaikoのラブソングは、そういったシンパシーの連鎖によって、世代も時代も超えて愛されてきたのだろう。
今年の7月にデビュー10周年を迎え、現在全国ツアー真っ最中のaikoが届けてくれた24枚目のシングル『KissHug』は、彼女の恋愛観がたっぷり詰め込まれたドラマチックなラブソングとなっている。悲しいとも憂鬱とも違う、胸をぎゅっと締め付けられる“切ない”という、淡くて温かい心象風景。“本当に小さくなるまで見ていた”という真っ直ぐな眼差し、“あなたの傍にずっといたい”という切実な想い。そして、出逢った日からふたりの濃密な時間を育んできたにも関わらず“まだ知らない事だらけ”と歌う、なかなか分かり合えない男女の距離感。さらに、誰よりも“あたし”を見てくれていたのは“あなた”だという確信がありながらも、あなたの背中を“通り雨カゲロウ”に重ねる不安や儚さも描かれている。