今年でデビュー15周年を迎えるゴスペラーズ。ニュー・アルバム『Hurray!』を作り上げるまでの思い、そして本誌で掲載しきれなかった、他の4人から見た個々のメンバーについての話もたっぷりお届けします。
Text●森朋之 Photo●岩佐篤樹
――すべての楽曲に強い個性があって、しかも、ジャンルを超越したアルバムになりましたね。
黒沢「ひとつのコンセプトに向かって作ったアルバムではないから、自然とバラエティに富んだというか。シングルが6曲入ってるんですけど、どれもはっきりとした動機がある曲ばかりなんですよね」
村上「1年半前に『The Gospellers Works』っていうコンセプト・アルバムをリリースしたんですけど、そこで得たことも大きいんですよね。いろんな人たちとコラボレーションさせてもらうなかで、自分たちのゴスペラーズに対する見方が変わったというか」
安岡「うん。5人以外の方々と音楽を作り上げる時間のなかで、自分たちの魅力を引き出してもらった感覚っていうのかな。いままで気づかなかった可能性も見つけられたし、“まだまだ楽しめるな、ゴスペラーズ”みたいな。僕ら自身がゴスペラーズに飽きないってことが大事ですからね」
――新鮮な気持ちで“ゴスペラーズ”と向き合えた?
村上「大学のサークルで(ゴスペラーズを)はじめたときのことを思い出したというか。高校生の合唱コンクールのために作った『言葉にすれば』、合唱をテーマにした映画(『うた魂♪』)の主題歌(『青い鳥』)をやらせてもらって、若い人たちと直接関わったっていうのも大きいと思いますね」
北山「結果論でいうと、螺旋階段を上ってるような感覚なんですよ。下のほうをのぞけば、いままでやってきたことが見えるんだけど、同じ場所にはいないっていう」
――どんどん上に行ってる。
酒井「今年でデビュー15周年なんですけど、ただ同じことを続けてるわけではないんですよね。アカペラだけを追い求めてるわけでもないし、バラードばかりを量産しているわけでもない。ツアーを細かくまわって、いつも新しいことに向かっている――そういう意味では“ゴスペラーズって、こんな感じ”っていうイメージを持っている人にこそ、このアルバムを聴いてほしいんですよね」
――うん、「こういう曲もあるんだ!?」っていう驚きがあると思うし。ちなみに酒井さんにとって、「これは新鮮だった」っていう曲は?
北山「…『1, 2, 3 for 5』じゃない? 自分の曲だから、言いづらいだろうけど(笑)」
酒井「(笑)。『1, 2, 3 for 5』には、ボーカル・グループのお約束がたくさん入ってるんですよ。いろんな声のヤツが歌い継いでいくスタイルだったり、揃いのフリだったり。そういう曲って、ありそうでなかったんですよね。あのね、今回のアルバムは“ひとりが最初から最後までリードボーカルを取る”っていう曲がひとつもないんです。ぜんぶ、みんなで歌い継いでるんです」
――あ、そういえば…。
酒井「それはあとから気づいたんですけどね。だから、グループっていいよねっていう感じは、アルバム全体に詰め込まれてるんじゃないかなって」
北山「ひとりで歌うより、グループで歌ったほうがいいっていうね」
黒沢「それぞれの歌が上手くなったかどうかはわからないけど、濃くなってることはまちがいなくて。だからこそ、みんなで歌い継いでも“しっかり曲の体裁を成している”っていう判断ができるんだと思うんですよ。全員がリードボーカルを取る、ハーモニーもやるっていうのも、肩肘張らずに表現できるようになったのかも」
――たとえばアルバムの最後に収録されている『My Gift To You feat.木原健太郎』みたいなジャズ・テイストのナンバーも、いまだからこそ歌える曲だと思うんですよね。
黒沢「15年やってても、難しいものは難しいんですけどね(笑)。『My Gift〜』なんて、譜面を見た瞬間に“なんですか、これは?”って思いましたから」
安岡「僕らがこんなに上手いとでも思ってるんですか? って(笑)」
黒沢「曲を書いてくれた木原さんはきっと、“これくらいはやってくれよ”っていうメッセージを僕らに伝えたかったんだと思うんですよ」
北山「うん。もちろんライブで歌うことが前提だから、いままでやったことのないハモリが出てきたら、死ぬ気で練習するじゃないですか」
――そういうトライを積み重ねるしかないんですよね、きっと。
黒沢「ここでまた、挑戦が続いてる感じもあるんですよね。10年超えると、“この曲はこんなふうに仕上がる”っていう予想もできるようになるし、ハーモニーもある程度は鳴るようになる。でも、大事なのはその先なんですよ。“ゴスペラーズはゴスペラーズだから”って自分たちが思ってしまえば、そこで終わりですから」
――なるほど。『Hurray!』(フレイ!)っていうタイトルについては?
村上「人を元気づける曲が多いっていうのもあるし、僕ら自身も、昔よりは肩に力を入れず、聴いている人を鼓舞できるようになってきたのかなって。以前はもうちょっと、背伸びしてましたからね、やっぱり。まあ、10年、15年前っていえば、人間として乱暴でしたからね。いまはいい意味で、大人になってきてるんだと思います(笑)」
