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Interview

伊藤みき(スキー・モーグル/バンクーバー冬季五輪代表) 「バンクーバーでいいガッツポーズをしたいですね」

伊藤みき

オリンピックイヤーを前にした昨季、モーグルの新ヒロインが誕生した。W杯で初の表彰台をゲットした伊藤みきは、世界選手権デュアルモーグルで銀メダルを獲得し、バンクーバー五輪へのキップを手にした。高校生で経験したトリノ五輪から4年、躍進を遂げオリンピックの大舞台に戻ってくる新ヒロインを直撃した。

Text●折山淑美 Photo●スエイシナオヨシ

「基本を徹底的に固めることで得たものは大きかった」

――昨年のシーズンからW杯でもシングル順位の常連になって安定していますが、以前と比べどこが成長したのですか。

「以前はスキーに対してもあまり考えることがなく、『私はできる』みたいな気持ちでやってて、その延長でトリノ五輪も出られてしまったんです。でもそこからもっと上を目指そうと思った時に、自分を客観的に見られるようになって。それから少しずつ結果が付いてくるようになったと思います」

――自分を客観的に見られるようになった時、トップ選手との違いは何だと思いましたか。

「何もかもどっちつかずと言うか、すべての面で少しずつ足りない状態の自分に気づいたんです。それまでは周りと比較する前に、勝手な夢ばかり見ていましたね。何の根拠もないのに『次に滑ったら絶対にいいところへいける』とか、『この滑りでどうしてダメなの?』なんて甘く考えていたんです」

――自分がどんな状態にいるか気がついたきっかけは何だったのですか。

「ヤンネさん(ヤンネ・ラハテラ。'02年ソルトレークシティー五輪優勝)がコーチになってから、もう一度コブのないフラットなコースからスキーをやり直すという練習が始まったんです。『えーっ、ここからやるの?』ってみんな衝撃的だったけど、いざやってみると私は全然基本ができていなかったんです。『今まで何をやってきたんだろう』という状態で、かなり勉強になったと言うか、ターンに対しての考え方とか、スキーに対しての価値観が変わりました」

――スキーを始めた時は簡単に滑れていたから、余計にそうでしょうね。

「そうなんです。始めた時も最初から何となく滑れていたし、急斜面も怖いと感じたことはなかったんです。これまではゲレンデの練習から入っても、2日も滑るとコブに入って練習をしていたんです。それが1週間近くもゲレンデで、『私たちモーグルチームなんですけど……』という感じだったんですね。でも基本を徹底的に固めることで得たものは大きかったですね。ポンポンきていたが故に、足元がしっかりしてなかったのが弱さの原因だったと思いますね」

伊藤みき

――スピードが出ても、スキーを縦に滑らせられるようになって安定感が出てきたと言われていますね。

「以前は、ターンの時はスキーをそのまま横にずらすのが主だったけど、それだと摩擦で遅くなるんです。それを少しずつ、板を縦に入れたままでターンができるようになってきたんです。まだ成長途中だし、何本かに1本だったり、コブ5つのうちのひとつだけできたりという状態だけど、ターンや滑りに対する価値観が変わったのかなと思いますね」

――以前より速くなって怖さが出てくるというのはないんですか。

「でもそれは誰でも味わえるものではない楽しい怖さと言うか。以前だったらただの“危ない怖さ”だったけど、今はその技術を持った者しか味わえない怖さですからね。その怖さと引き換えにもらうものが、金メダルだったり、人からの称賛だと思うんです」

――昨シーズンのW杯の表彰台や、世界選手権の銀メダルはそういう技術が徐々に身についている証ですか。

「そうですね。でも、初めて表彰台に上がった時は、順位のことも考えていなかったんです。それまでは何度か4位になったから、周りの人から『あと一歩で表彰台だね』って言われていたんです。で、自分もけっこう『表彰台には乗っておきたい』と思っていて、逆に意識してしまい表彰台に立てなかったんでしょうね。ノルウェーのボスで3位になった時は『とにかくいい一本を決めよう』としか考えていなくて……。結果的に上位の人のミスも重なったんですけど、その時に『あっ、表彰台というのは、乗りたくて乗れるものではないのかもしれないな』と思ったんです」

――結果ばかり追い求め過ぎていたということですか。

「そうですね。ボスの時は滑りに対しての満足度がいつもより大きかったので、それ以外は何もいらないと思うくらい嬉しかったんです。それでまた表彰台に上がって称賛してもらうのは、何かのおまけで別の賞をもらうみたいな気分で恥ずかしかったんです。でもメダルというのは、本来はそういう物だとも思うんですね」

――順位を意識しなくなったとたん、世界選手権でも銀メダルということになった。

「ボスのいい滑りができた時のままの感覚で世界選手権に入れたというのが大きいですね。本当に学べるものがたくさんあったシーズンでした」

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PROFILE

伊藤みき

いとう・みき
1987年7月20日、滋賀県生まれ。中京大所属。姉・あづさ、妹・さつきとモーグル3姉妹としてその名を馳せる。'06年、高校生ながらトリノ五輪出場を果たし、20位となる。『W杯』の初表彰台、『世界選手権』2位、『全日本選手権』初優勝を昨季達成し、世界のトップ選手の仲間入りを果たす。バンクーバー五輪日本代表に内定している。
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