『ポレポレ鉄道のお父さんたち』

 長い長い列車はサバンナを横切り東へ向かう。午後7時ナイロビ発モンバサ行きの寝台列車。真っ暗な大地とは対照的に、空には無数に思える星が輝く。
 列車のスピードが落ちると、車内からドサドサッといくつもの白いポリ袋が放り出された。まただ。窓から身を乗り出して見ると、ズタッ、タタッ。いくつもの人影も飛び降りた。人影たちは次々と自分の荷物を拾い上げ、それを手に暗闇の中に消えていく。中味はきっとプレゼント。
 車内の乗客の数はだいぶ減った。約一時間前までは、通路にまで中年男たちがあふれ、身動きできないほどのぎゅう詰めだった。今日はクリスマスイブ。都市へ出稼ぎに出ていたお父さんたちが田舎へ帰るのだ。手にはそれぞれ家族へのプレゼントを入れた白い袋。目が合えば「メリークリスマス」と、白い歯を見せた。
 列車が再びスピードをあげた頃、長身の男が話し掛けてきた。「どこまでいくんだ?」「モンバサ。あなたは?」「ヶタナムトウ」彼もいいお父さんの一人、手には白い袋。「それ、プレゼント?」と尋ねると、にこにこ「娘には服、息子には靴」と得意気に答えた。彼はティモシー、三十六歳、ナイロビの空港で働いている。そして、二十七歳の自慢の妻がいる。彼は次のスピードダウンで降りるという。一緒に帰宅する、やはり長身のいとこのベンも準備を始めた。「飛び降りんでしょ、怖くない?」「全然」彼はバカにしたように笑った。
 また列車はスピードダウン。ドサドサッの音の後、ズタッ、タタッと人影の音。ズザザザ。誰か失敗した。立ち上がった人影は長身。そして、やはり長身の人影と共に大きなふたつのポリ袋を拾い、汚れた膝の土を払いながら、草原の闇の中へ消えていった。
 家ではきっと、3人の家族がお父さんを待ってるんだろうな。

続きを見る
「wwm〜さすらいの通信芸人」のTOPに戻る

『チームケニアのバレーメンバー』

 「おお!!チームケニア対ジャパン!」。いきなりジョセフが叫んだ。「おおっ!!」みんなもつられて声を出す。「試合は午後二時からだ」ジョセフははりきった様子で仕事に戻った。そんなこと言ったって、日本人なんて集められないよ。
 話が盛り上がったのはいきなり。宿泊していたアンボセリロッジの従業員たちとの雑談でバレーボールの話がでて、「そしたら、みんなでやろうか」と、言った途端だった。
 彼らは二時半にそれぞれのジャージ姿で登場。さっきまでマサイ族の衣裳をきてたフェリックスもいる。ジョセフが得意気に「おれはグットアタッカーだ」と言えば、ちびのタイソンは「おれはナンバーワンサーバーだ。スパイクサーブは強烈だ」と自賛する。
 炎天下の荒れたコートで試合は始まった。人数の関係で四対四、ボロボロのネットもある。が、試合はめちゃくちゃ。ジョセフだけは確かにうまいけど、常にアタッカー。それ以外のプレーはしない。タイソンの自慢のサーブはコートの外へ。なのに私のチームメイトのフェリックスは懸命にそれを追いかける。米国、メキシコ、ペルー、タイ、旅の途中のあっちこっちのチームに交じってバレーをしてきたが、このチームケニアはある意味、最強。ものすごい激しい運動量の試合になるし、サイドアウトの連続でいっこうに試合はうごかないし。それでも彼らは子供のように楽しそうに、真剣にプレーする。試合は途中から、ネットを無視した円陣パスに変わった。みんなで声をそろえて数えながらパスをつなぐ。最高は11回。練習後、ジョセフが言った。「夜にミーティングやろう」
 彼らの仕事が終わった午後十時、たき火を囲んでのミーティングが本当に開かれた。どうだったかとジョセフが聞く。
 ははは、楽しかったよ。ホントに。

続きを見る
「wwm〜さすらいの通信芸人」のTOPに戻る

『ラムのキャプテン』
 
 ラマダン期間中にもかかわらず、コーラのびんを手にした男に話し掛けられた。「ハイ! マイネイム イズ キャプテン バーナー」中世のイスラム世界そのままのラム島に到着してすぐのことだ。キャプテンジョン、キャプテンジャマイカ、この島にはたくさんのキャプテンがいる。キャプテンスズキアグリは数人いた。彼らはダウ船の船長だと言うけど、いつもメインストリート付近をブラブラしている。女性ツーリストと遊ぶのが目的だ。
 翌日、再びバーナーに会い、彼の家へついて行った。三家族が住むアパート式の建物で、屋上からはラムの街並と、その向こうに広がる海が見える。彼は私に特製ドリンクをくれ、自分は煙草に火をつけた。
 翌々日も会った。その日誕生日だった私に音楽テープをくれた。
 次の日もまた偶然会った。狭い島だ。また彼の家の屋上へ。彼は写真を大切にしていた。どれもこの島に来たツーリストが後で送ってくれたものらしいが、日付けは全て一、二年前。写っているのはキャプテンたちと女性ツーリストだけ。数ページの空白の後、アルバムの最後には、中年白人女性との写真が数枚。抱き合ってるのも、キスしてるのもある。「これは?」「ワイフだ」日付けは約三年前だった。
 彼は十九歳で元ツーリストの三十六歳英国人女性と結婚。彼女は島と英国を数カ月ごとに行き来する生活。ある時、いきなり帰ってこなくなった。「彼女はクレイジーだ」彼は言う。
 彼は他の写真の説明も始めた。ツーリストと結婚してオーストラリアに行ったキャプテン、フランスに行ったキャプテン、日本に行ったキャプテンもいた。中にはドラックでクレイジーになったキャプテンもいる。写真のバーナーは今よりずっと生き生きしてて若々しい。決定的に違うのは目。彼も多分ドラックをやっている。
 「キャプテンたちには近づかないほうがいい」島内のホテル従業員にまで言われていた。けど、キャプテンたちって悪い奴? 島から出ない彼らにとって、ツーリストとの出合いが自分の世界を広げる手段なんじゃないかな、、、。ツーリストも同じように時を楽しむ、けど彼女らは帰りたくなったら、いつでも島を出られる。残されるのはキャプテンたち。バーナーの本名はシャリ ムンダラ、二十四歳。なんでドラックはじめたんだろう。
 音楽好きらしいバーナーは、いつか日本の音楽テープを送ってくれ、って言ってた。

「wwm〜さすらいの通信芸人」のTOPに戻る