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山田和樹

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――山田さんは昨年、スイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者にも就任されました。初代首席指揮者のエルネスト・アンセルメをはじめ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、ホルスト・シュタインといった錚々たる巨匠が率いてきたこの名門に、どのような印象をお持ちですか?

 とにかく華やかで、明るい、色彩豊かな音色が魅力。それに、オペラのオーケストラ・ピットに入ることも多いので、音楽的にフレキシブルでもあります。昨年11月に行われた就任披露公演では、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を指揮したのですが、正確にリズムを刻んでいくと、アンサンブルがどうも合わない。彼らは「1+1=2」の世界とは違った音楽を求めているらしく、逆に大振りにすると、ピタッと合ってしまうんです(笑)。そういった意味で、フランスのオーケストラにとても近いと思いますね。

――首席客演指揮者として、今後どのように関わっていかれるつもりですか?

 年間のプログラミングに対して色々と口を出せる立場なので、これまでにもバルトークやストラヴィンスキーなど、やりたいものをたくさん振らせていただきました。録音の方は、オランダのペンタトーン・クラシックスから毎年1枚ずつ「ダンス集」を作っていく予定で、1枚目はフランス、2枚目はドイツ、3枚目はロシアとテーマが決まっています。

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――来年7月には、スイス・ロマンド管との来日公演も予定されていますね。プログラムや聴きどころを教えてください。

 メインは、ベルリオーズ「幻想交響曲」と、リムスキー=コルサコフ「シェエラザード」。協奏曲では、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第1コンサートマスター・樫本大進さんをソリストに迎えて、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏します。彼とは同い歳で、同じベルリン在住なので、お互い良い刺激になっています。あと、来年が日本とスイスの友好150周年にあたることを記念して、藤倉大さんに来日公演のための新作を委嘱する予定です。

――先日、この来日公演と同時期に、東京混声合唱団の音楽監督に就任されることが発表されました。年間200回近くもの演奏会を行っている老舗の実力派で、山田さんが2009年のブザンソン国際コンクール優勝直後に、凱旋公演を行ったことでも話題になりましたね。

 東混の57年の長い歴史の中で、音楽監督を迎えるのは僕で4人目。とても責任を感じています。前任者の岩城宏之先生が、若い頃から亡くなられるまで監督を続けられたように、僕もライフワークとして関わっていくつもりです。今回の就任にあたり、創設者の田中信昭先生からは、「新しい風を送り込んで欲しい」と頼まれました。東混はちょうど世代交代の時期で、技術的にレベルアップしているかもしれませんが、それは持ち味の味わい深さを失うことにも繋がりかねない。ですから、レパートリーを柔軟に広げながら、これまで得意としてきた民謡などの伝統も守っていく。この「生み出していくこと」と「振り返ること」のバランスをいかに保っていくかが課題ですね。そうした中で、僕がやってみたいのが、東混がこれまでに委嘱した膨大な合唱作品の再演。たとえば、坂本龍一さんの作品なども含まれているのに、まったくと言っていいほど再演されていないんです。東混のかけがえのない財産が埋もれてしまわないよう、少しずつ掘り返して、光をあてていきたいと思います。

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――山田さんの活動でもうひとつ注目されているのがオペラ。昨夏は、サイトウ・キネン・フェスティバル松本でオネゲル「火刑台上のジャンヌ・ダルク」を、サントリー芸術財団サマーフェスティバルでクセナキス「オレスティア」を続けて指揮されました。オペラとのこれまでの関わり、そして今後の取り組みに向けた抱負をお聞かせください。

 児童合唱団の出身なので、小さな頃から歌が大好きでした。オペラとの最初の出会いは、大学1年の時に、松尾葉子先生から入学祝いにいただいたヴェルディ「アイーダ」のスコア。以来、先生のアシスタントとしてオペラ制作の現場に関わる中で、壮大な設計図を読み解き、見通しを立てる作業にすっかり魅せられてしまいました。今シーズンも幾つかオペラ指揮の依頼があったのですが、スケジュールが合わず、残念ながらすべてお断りさせていただきました。でも、2015年シーズンにはスイス・ロマンド管とのオペラ上演が決まりそうで、演目はオペラ発祥の地であるイタリアの作品から選びたいと思っています。

――サイトウ・キネン・フェスティバルへの出演は、ブザンソン国際コンクールでの山田さんの指揮をご覧になった小澤征爾さんの推薦で実現したと伺いました。

ブザンソンの審査員のひとりが、小澤さんのボストン交響楽団時代のマネージャーだったご縁で、コンクールのDVDを見てくださったんです。幸いにも気に入っていただけたようで、3ヵ月後には、翌年のサイトウ・キネン・フェスティバルでオーケストラ公演を指揮することが決まり、それが昨年の「ジャンヌ・ダルク」における、小澤さんの代役指揮に繋がったというわけです。

――小澤さんからは、音楽的にどのような指導を?

 2010年にご病気をされたこともあり、直接お会いしたのは数えるほど。実はまだ6回しかありません。小澤さんの指揮を拝見していて勉強になるのは、天才としか言いようのない「勘のよさ」ですね。たとえば、面白いなと思ったのが、最初はアンサンブルをばらけさせておいて、徐々にまとめていく音楽の作り方。それを言葉ではおっしゃらないのですが、オーケストラとの距離感の中で、自分の音楽にいかに引き寄せていくかということを教わったような気がします。あと、僕が小澤さんからよく注意されるのが、「大事なところほど小さく振るように」ということ。おかげで、オーケストラの音がよく聴こえるようになりました。

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――最後に、今後の展望をお伺いします。若い世代を中心にクラシック音楽離れが進む中、新たなファンの獲得に向けて、どのようなヴィジョンをお持ちですか?

 自分自身のことを振り返ると、クラシックの公演やCDを聴くようになったのは遅く、高校2年の頃でした。だから僕は、クラシックが苦手で敷居が高いと感じている方々の気持ちがよくわかるんです。その意味で、自分がコンサートホールの座席に座るまでに、チラシや選曲といったどの部分に惹かれてチケットを購入していたかという視点を、今後もずっと忘れないようにしたいですね。そして公演の企画でお手本にしたいのが、リピーター率が90%超と言われるディズニーランド。お客様にまた来たいと思っていただける何か、その付加価値が生まれた時に、新たなファンが生まれるのです。ディズニーランドのアトラクションや、パレードや、花火のように、公演を演奏だけでなく、プレトーク、休憩時間の飲食、アンコール、サイン会なども含めた「総合エンターテインメント」として考える。チケットはいわば「感動約束料」で、僕たち演奏家はそれを裏切らないための努力を重ね、責任感と意識を高めていくことが必要だと思います。

山田和樹

取材・文:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)
写真:吉田タカユキ

PROFILE

1979年、神奈川県生まれ。東京藝術大学指揮科卒業。指揮法を松尾葉子・小林研一郎の両氏に師事。
2009年、第51回ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝、併せて聴衆賞も獲得。ただちにモントルー=ヴェヴェイ音楽祭にてBBC交響楽団を指揮してヨーロッパデビュー。同年、ミシェル・プラッソンの代役でパリ管弦楽団を指揮、すぐに再演が決定する。
2010年には、小澤征爾氏の指名代役として、カザルスホールでの演奏会、スイス国際音楽アカデミーにて指揮したほか、小澤氏の推薦により、サイトウ・キネン・オーケストラを指揮、好評を博した。
2011年、出光音楽賞受賞。2012年、渡邊暁雄音楽基金音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、文化庁芸術祭賞 音楽部門新人賞受賞。これまでに、NHK交響楽団をはじめとする日本国内主要オーケストラ、BBC交響楽団、バーミンガム市交響楽団、イギリス室内管弦楽団、パリ管弦楽団、イル・ド・フランス国立管弦楽団、ルーアン歌劇場管弦楽団、ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団、トゥールーズ・キャピトール管弦楽団、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団、ローザンヌ室内管弦楽団、ベルリン放送交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送交響楽団、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、ワイマール歌劇場管弦楽団、ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団、マルメ交響楽団、シンフォニエア・ヴァルソヴィア、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、フィルハーモニア管弦楽団などへ客演。
また、バート・キッシンゲン音楽祭、モンペリエ音楽祭、マントン音楽祭、ブザンソン国際音楽祭、ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭など、ヨーロッパの音楽祭への出演も多数。
共演したソリストには、ヴァディム・レーピン、イザベル・ファウスト、バイバ・スクリーデ、ジェイムス・エーネス、アラベラ・美歩・シュタインバッハー、堀米ゆず子、諏訪内晶子、庄司紗矢香、今井信子、ヴォルフガング・シュルツ、ボリス・ベレゾフスキー、シプリアン・カツァリス、ジャン=イヴ・ティボーデ、ファジル・サイ、小菅優、小山実稚恵、山下洋輔などが挙げられる。
現在、スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、横浜シンフォニエッタ音楽監督、オーケストラ・アンサンブル金沢ミュージック・パートナー、仙台フィルハーモニー管弦楽団ミュージック・パート ナー、東京混声合唱団レジデンシャル・コンダクター。ベルリン在住。
2012年8月には、サイトウ・キネン・フェスティヴァル松本にて小澤征爾氏の代役としてオネゲル作曲「火刑台上のジャンヌ・ダルク」を、サントリー芸術財団サマーフェスティヴァルではクセナキス作曲「オレステイア三部作」を続けて指揮、好評を博した。
今後も、BBCフィルハーモニック、パリ管弦楽団、ケルン放送交響楽団、エッセン・フィルハーモニー管弦楽団、エーテボリ交響楽団、などへの客演が決定している。また、2013年12月には、ウィーン・デビュー(ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団)も予定されている。


TICKET

山田和樹コンチェルト・シリーズ Vol.2
2013/9/13(金) 19:00開演 杉並公会堂 大ホール(東京都)
※18:30より山田和樹によるプレ・トークあり。

[出演]
<指揮>山田和樹(日本フィル正指揮者)
<チェロ>山崎伸子
<ピアノ>菊池洋子
<トロンボーン>藤原功次郎(日本フィル首席奏者)
<演奏>日本フィルハーモニー交響楽団

[プログラム]
ドヴォルジャーク:序曲《謝肉祭》
ドヴォルジャーク:チェロ協奏曲
菅野祐悟:トロボーン協奏曲《flower》
ガーシュウィン:《アイ・ガット・リズム》変奏曲
アンダーソン:ピアノ協奏曲

公演・チケット情報





2013.05.17更新

今週のこの人 ラインアップ

  • 山田和樹
    小澤征爾も実力を認める注目の指揮者。クラシック音楽界が熱い視線を注ぐホープの“今”に迫る!
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