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鄭義信

−−これまでの在日コリア三部作や、それ以前の作品でも、キャラクターの関係性やシチュエーションが重複して出てくることがありますよね。“北”へ戻る船が沈んでしまって……といったようなエピソードもそうですが、それは狙ったものなのでしょうか。

「三部作の時には、意図的にキャラクターを重複させようとは考えました。『20世紀〜』の中に出てくる家族と同じ家族として匂わせようと、近いセリフをあえて置いたりしたんですが、結局全然違うものに、似て非なるものになってくるんですよね。
 船のエピソードはウチの父親の本当の話です。親から聞いた話や、取材した時に聞いた生の言葉の中に、心に突き刺さって自分の中に蓄積される言葉があるんですよね。父の“船が沈没したから全財産をなくして、行き場もなくなってどうしよう”って話は、すごく悲惨な話ではあるけど、ある意味、笑える。ああ、人生ってそういうことなんだな。悲劇と喜劇は表裏一体なんだなって、そんな悲喜劇とでもいいましょうか。本人たちは大真面目でも、ちょっと引いて見ると“それ、なんだかおかしくない?”と笑ってしまう」

−−義信さんの多くの作品に登場する脚にハンディキャップを抱えたキャラクターも、何かの象徴であると。

「僕の中では在日がそういう存在であるということですね。ハンディキャップを持っている自分たち。それは日本人や韓国のネイティブな人たちにはわからない感覚だと思うんですけど……。ずっと自分は日本人じゃないという意識を持って育ってきて、でも韓国に行くとやっぱりそこは故郷ではなく、違和感がある。じゃあ自分の居場所はどこにあるんだ? といった“持たざる者”のハンディキャップを最初から背負わされているということでしょうか。脚のハンディキャップのキャラクターも、そろそろやめろって言われているんですけど(笑)。どこかでやめようと思うんですけど、なぜかこだわってしまう。実際にそういう人たちが周りにいて、その印象が強かったりするので」

−−今回の『ぼくに炎の戦車を』にもそのキャラクターは登場しますね。これまで在日について書いてきた義信さんが、この作品ではそれこそ“在日”という言葉が生まれるもととなった時代に遡って、日韓の人々を描いています。

「そうですね。三部作を書いたので、次は原点ともいえる日韓併合について、その始まりについて書きたいという欲が出てきました。日韓併合については知らない人がたくさんいると思うんです。とくに今回、主演の草g剛さんや韓国のチャ・スンウォンさんのファンの人たちは“日韓併合って何?”という人も多いだろうと。日韓に横たわる深い河、その出発点から、どこでどう歪み始めたのかを描きたいと思った。まあ今回の作品でそこまできちんと到達できたかはわからないし、先日も“すごく韓国寄りの物語のように映りませんか?”と言われたりもしました。でも僕が最終的に描きたいのは、未来には希望があるということです。3.11以降、作家は未来に向かっての希望を書いていかなきゃならないと、僕はあの時に強く思ったので。過去にどんなことがあり、その過去を認め、現在があって未来があるんだということを見てほしいんですけどね」

−−題材として、男寺党という韓国の伝統芸能の集団が登場します。義信さんがかねてより気にかけていたとか。

「はい、すごく面白い芸能として関心を持っていましてね。パンソリなどの伝統芸能もそうですが、1950年代に民衆が見向きもしなくなって、一度は廃れているんですね。その後、また韓国で国学のブームが起こって復活したんです。今稽古場に、男寺党の正統継承者の南基文さんという人が指導をしに来てますけど、その人なんてこれから人間国宝になろうかという人で、男寺党の芸自体もユネスコの文化遺産に登録されようとしている。それほど、この二十年くらいの間に大きく価値観が変わっているんです。サムルノリという音楽や、綱渡りや皿回しなどの6つの芸能をこなさないといけないそうで、日本の門付と似ていて祭りなどに呼ばれて一夜の宿を提供されるんですけど、祭りが終わった翌日には追い出されてしまう。いわゆる河原乞食ですよね。なおかつ身寄りのない人たちが集まってきている。身体を売るようなこともあったそうです。道ばたで倒れるように死んでしまっても、どこにも墓など作れない。石を積むくらいしかできない……という話を聞いた時に、僕自身もマイノリティだから、その境遇にすごく共感するところがあったんですね。それでこの話を書きたいと思った」

−−大技のみどころがあるそうですね。

「はい。メインはチャ・スンウォンさんの綱渡りです。もうどうなるか、皆でドキドキ、ヒヤヒヤしながら見守っていますよ。一応、命綱なしにやるつもりで稽古していて、今は綱の高さが1メートルくらいになってるのかな? すでにその高さは渡れるようになっています。今後どんどん高くしていくので、本番では全員が固唾を飲むシーンになるだろうと思います」

−−先ほどおっしゃったように、日本の若い方々には「日韓併合って何?」という反応があるかもしれませんが、韓国ではどんなに若くても日韓併合について知らない人はいないでしょう。この作品は東京、大阪での公演の後に、韓国の国立劇場大劇場の舞台にも上がります。韓国の観客の反応が気になりますね。

「韓国の観客はどう思うんでしょうねえ。日本の役者たちも一緒になってサムルノリなどの伝統芸能をやっていることと、なおかつ在日である僕がそれを演出していることに関しては、驚くんじゃないかなと思いますけど。この作品の一番最後に草gくんが語る言葉があって、それは日本に対するエールでもあるし、韓国に対するエールでもあります。その言葉をきっと受け取ってくれると僕は信じていますけどね」

−−『焼肉〜』の時のように、また韓国メディアからもたくさんの取材を受けるでしょうね。日本のメディアとは違った、面白い質問とか来ますか?

「困るのは、野球のWBCとかオリンピックについて“日本と韓国、どっちを応援しますか?”みたいな(笑)。ホント、興味のままに聞いてくるなあっていうのもありますよ。“どうして結婚しないんですか?”とか。大きなお世話だよねえ(笑)。“いろいろありましてね”ってニコニコ笑いながら答えるしかない。人の心に土足で上がってくる、そういうお国柄です(笑)。
 でもずいぶん在日に対する理解は深まったんじゃないかと思います。一番最初に韓国で取材を受けた時は、在日=貧しい、もしくは金持ちか、その両極端でしか見てなかったみたいでしたから。僕なんかも関西の高級石垣朝鮮人集落の出身なんで(笑)、苦労に苦労を重ねて、やっと韓国に錦を飾れるくらいに成り上がった、みたいに書かれて。そこまでの人間じゃないんだけどな〜。子供時代もそこまで悲惨じゃなかったし(笑)」

−−来年はまた新国立劇場で新作を発表しますね。それも日韓合作で、韓国の国立劇団の芸術監督である孫ジンチェクさんが演出を手がけます。

「それも今のところ土地を巡る話になっていて、あまりにも竹島・独島問題とタイムリーなものだから、どう受けうけとめられるか、今からドキドキですね。」

−−以前、ご自身のことを「火中に栗を拾いにいくタイプ」とおっしゃっていましたが、あいかわらずなんですね(笑)。

「ねえ、よしゃあいいのにね(笑)。書かずにはいられない、言わずにはいられない性格が災いしているのかもしれない。正義感とかそういうのとは全然違って、もっと意地悪い気持ちだと思います(笑)。来年もまたいろんなことにチャレンジするつもりでいます。もういい歳だからやめりゃあいいのにと思いつつも、また火中に栗を拾いに行きますよ」

鄭義信

Text●上野紀子 Photo●源賀津己

PROFILE

ちょん・うぃしん 1957年生まれ、兵庫県姫路市出身。1993年、『ザ・寺山』(流山児★事務所公演)で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。映画賞を総なめにした『月はどっちに出ている』『愛を乞うひと』を始め、映画やドラマの脚本も数多く手がけている。2008年に新国立劇場で初演した『焼肉ドラゴン』で、第16回読売演劇大賞(大賞・最優秀作品賞)、第8回朝日舞台芸術賞グランプリ、平成20年度芸術選奨文部科学大臣賞、第43回紀伊國屋演劇賞(個人賞)、第12回鶴屋南北戯曲賞を受賞。

INFORMATION

『ぼくに炎の戦車を』
 11月3日(土)〜12月1日(土)
 東京・赤坂ACTシアター
 12月8日(土)〜11日(火)
 大阪・梅田芸術劇場 メインホール
 2013年1月末
 韓国・国立劇場

チケットぴあ『ぼくに炎の戦車を』特設ページ



2012.10.30更新

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