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土田英生

――もうひとつ、3月に古田新太さん×宮沢りえさん、生瀬勝久さん×仲間由紀恵さんらによるリーディングドラマ『Re:』も控えていますね。ちょっとひるみそうなほどの豪華キャストですが……。

「そりゃビビりますけど、やることを普通にやるしかないなって思っています。僕、まだ全然世の中に知られていない頃にやった外部の仕事がいきなりSMAPの草g剛くんによるリーディング『椿姫』でしたから。しかも同じ年に初の連続ドラマ(『柳沢教授の優雅な生活』)の脚本も経験した。正直、初の連ドラの時はそのすごさがわからなくて、プロデューサーに“書きたいやつはいっぱいいるんだからもっと自覚持て!”って怒られたぐらい」

――その経験があるからでしょうか、土田さんは臆せずにどんな規模の仕事にもチャレンジする人という印象が強いです。

「『椿姫』稽古初日、取材陣もずらっと並んでいるなか、プロデューサーから“ここからは公開稽古ですから、作・演出の土田さんどうぞ”とマイクを渡された時のことは今でも忘れられないですよ。“あのー、えーと”って声が裏返っちゃった。でもそうなったらしゃべるしかない。その経験で自分がちょっとずつ強くなる。もちろんまずは自分の心地いいことをやるべきだと思います。でも心地いいことだけをやっているとどんどん小さくなっていく気がするんです。絶対無理なことはやっちゃだめですけど、時々ちょっと無理なところに自分を置く。そりゃ緊張もするしうろたえるけれど、それを乗り越えたら、そのレベルの仕事はクリアできるようになるじゃないですか」

――狂言のようなまったく異なるジャンルの作品を手がけるのも「無理なところに自分を置く」一環ですね。

「もちろん狂言だって、最初に話が来たときは言葉遣いも能舞台のルールもまったく知りませんでした。でも頼んでくれてるってことは、先方は僕ができると思ってるわけだから、全然無理なわけではないはずなんです。そこで『狂言ハンドブック』という本を買ってきて、能舞台の構造をいちから勉強して書いてみたら、正しいかどうかはわからないけれど一応書けた。この間2作目の狂言を書いたんです。その時はもう“次どんな狂言にするー”って話できるぐらいにはなってる(笑)。僕自身、ミーハーでおめでたいタイプってこともあるんでしょうね。話が来た時に“わ、あり得ないな”と一瞬思っても、“こんなのがきた、ワーイワーイ”って受けてしまう」

――いま、若い世代に「もっと売れよう、大きな仕事をしよう」という意志の強い作家が減っている印象があります。そんななかで果敢にチャレンジしていく土田さんの姿は観る側からしても頼もしいです。ペンギンプルペイルパイルズの倉持裕さんに話を聞いた時も「自分は大きな作品をめざしたい」という話がありました。

「劇団も大事にしながら外部の仕事の積極的にやるという姿勢は、倉持君と共通するところがあると思います。最近の若い子は……って、こんなことを言う大人にはなりたくないけれど、確かにちょっと欲が希薄だなって感じることがある。大きな作品に関わりたいとか、自分で動いて作品つくろうとか、そういう気持ちを持っている人はいないことはないですけど、絶対数が少ない気がするんです。たとえば単純に女の子に対する気持ちも薄い。飲みの席に魅力的な女の子がいたら、僕だったら男全員が狙ってるって考えるし、負けないように全力でしゃべりかける。でも今の若い男の子たちは同じ土俵に乗ろうともしないで、一緒になって笑っていたりするんですよね。欲望は大事だと思うんです。女性にモテたい、よく見られたいという思いって活動の原動力ですよ。タイプは違えど、倉持君だって僕と一緒でスケベだと思う(笑)」

――今年は例年にも増してかなり盛りだくさんですが、テレビドラマの脚本は最近ご無沙汰ですね。

「テレビからは2年ぐらい離れてたんで、またやりたいなと思ってます」

――劇作家の方がドラマの脚本を書く機会はかなり増えたように思いますが、宮藤官九郎さんのようにドラマの常連にまでなっている方はまだまだ少ないのが現状です。その中で土田さんはかなり多くのドラマを手がけていらっしゃるので、今後にも期待が募ります。

「まだお会いしたことはないんですが、宮藤官九郎さんは天才だと思います。一度TBSの廊下ですれ違いそうになったんですが、“あ、噂のクドカンだ!”と緊張して隠れちゃった(笑)。僕、テレビ局行くの大好きなんです。小劇場あがりの悲しさか、なんか出世した気がしちゃうんですよね。テレビ局のドラマ制作部に行くと、昔関わったスタッフの方がえらくなってたりするんです。“おお、土田君!”なんて声かけられると嬉しくてしょうがない。用事終わってもしばらく帰らなかったりします(笑)。以前組ませていただいたプロデューサーが別の部署を経て最近またドラマ班に戻ってきたんです。僕、一緒に飲んだその日にシノプシスを送りました」

――芝居もたくさんありますし、これからの土田さんの活動が楽しみです。

「まだありますよ。秋には演劇を始めたばかりの子たちと小さな芝居をやろうと企画してます。他には映画撮ることとか、考えなくもないですけど、やっぱり芝居を打つというこの営みが好きなんですよね。あ、海外での公演はぜひやりたいです。韓国で『悔しい女』を上演したらけっこううまくいったので」

――土田さんの書かれる作品は、初演の時は「このキャストがぴったり」と思うのに、各所で再演されるたびに新たな面白さが見つかるところが魅力のひとつですね。

「世間から注目されたような記憶は一回もないから、僕自身ブレイクしたことはないって自覚はしてるんです。でもわりと上演はいろんなところでずっとしてもらってるのはありがたいことですね。下北沢を歩いてるとたまに“あ、おれの芝居やってる”ってことありますもん」

――脚本に力があるんだと思います。今伺っただけでも盛りだくさんですが、長期的な野望を教えてください。

「長生きしたい。年齢的にではなくて、“あの人、昔面白かったよね”って言われるのは絶対にイヤなんです。別役実さんみたいにずっと現役でいたい。そのためにもいろんな仕事を手がけたいんです。もうひとつ、関西の演劇界を元気にしたいと思ってます。一時、地方からたくさん劇団が出てきて盛り上がった時期がありました。昔ならば関西である程度もまれて東京公演を打つことができた劇団は、必ずしばらくは東京でも人気を獲得できた。関西が東京に刺激を与える存在だったんです。でも最近また少し元気がない。京都を拠点としていた劇団も少しずつ東京に行ってしまっている。だからこそ僕は京都にこだわって続けていきたい。"京都"って大きく胸に書く感じで頑張ります(笑)」

土田英生

Text●釣木文恵 Photo●源賀津己

PROFILE

つちだ・ひでお 1967年生まれ、愛知県出身。立命館大学入学とともに演劇をはじめ、1989年、いまのMONOの元となるB級プラクティスを結成。以降、作・演出・出演を務める。青年座や文学座など外部の劇団やプロデュース公演での作・演出も多く手がける。その他テレビドラマ脚本や新作狂言の執筆など、幅広く活躍している。
MONO公式HP


TICKET

【作・演出・出演】
MONO
『少しはみ出て殴られた』

2月17日(金)〜26日(日) 吉祥寺シアター(東京)
2月29日(水) テレピアホール(愛知)
3月3日(土)・4日(日) 北九州芸術劇場 小劇場(福岡)
3月8日(木)〜12日(月) ABCホール(大阪)

公演・チケット情報



【作・演出】
リーディングドラマ『Re:』
〈CBGK Premium Stage〉

3月20日(火)〜25日(日) CBGKシブゲキ!!(東京)
※3月3日(土)一般発売

公演・チケット情報



【作】
演劇集団 円
『胸の谷間に蟻』

4月20日(金)〜5月2日(水) ステージ円(東京)
※3月15日(木)一般発売

公演・チケット情報



【作・演出】
土田英生セレクションvol.2
『燕のいる駅』

5月18日(金)〜27日(日) 三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京)
6月1日(金)・2日(土) テレピアホール(愛知)
6月13日(水)・14日(木) サンケイホールブリーゼ(大阪)
6月17日(日) 北九州芸術劇場 中劇場(福岡)
※東京・愛知・大阪公演=3月18日(日)一般発売
 福岡公演=4月15日(日)一般発売

公演・チケット情報





2012.02.28更新

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