TOP > 今週のこの人 > 土田英生

土田英生

 MONOの新作公演から始まり、リーディングドラマ『Re:』、演劇集団 円への書き下ろし、〈土田英生セレクション〉の第2弾……と留まることなく駆け抜ける2012年。自分の劇団もビッグプロジェクトも、淡々とこなすイメージのあるクリエイター、土田英生はいったいどのようにそれぞれの作品に挑んでいるのだろうか?

――MONOの久しぶりの新作『少しはみ出て殴られた』のプレスリリースで土田さんは「何を書きたいのか迷っていた」と明かしていましたね。

「これまでの劇作家生活で、テレビも含めるとおそらく100本以上は書いてきました。若い頃は“次はこれを書こう、その次はあれを”と続々テーマが沸いてくるんですが、この歳になるとそれも一巡してしまう。ふっと思いついたものも、“前あの芝居で書いたな”とか、どうしても以前書いたモチーフと似たものになってくるんです。それをどうするのか、自分のモチベーションをどう保つのか、難しくなってきてはいた。外部の方から頼まれるプロデュース公演は“こういうものを書いてほしい”という要望があるから、それをとっかかりに書いていくことができる。でも、劇団の作品はいちばん自由にできる分、純粋に一から作り上げなくてはいけない。今回の『少しはみ出て殴られた』は、久々に書きたいという思いが強くあったので形にできました」

――その強い思いはどうやって生まれたんですか?

「ちょっと前から、非常にみんなが殺伐としているなと感じていたんです。震災があって、その雰囲気がより濃厚になった。インターネット上でも断定的な意見を言う人が目立ったり、政治についても政策以前に立場だけで批判するような、感情が先走った意見が目に入るようになって。なんでこんなにみんな、対話する余裕がなくなったんだろう?って思っていた。もちろん芝居は啓蒙するためのものではない、単なるエンタテインメントなので、観て楽しんでもらえればいいんです。ただ、芝居でできることってなんだろうと考えた時、政治や社会の仕組みを云々する前に、やっぱり人の業に目を向けたい、興奮に水をかけたいと思ったんです。そんな大層な話ではなく、“冷静になろうよ”ぐらいのことなんですけど」

――客演として岡嶋秀昭さんと、ヨーロッパ企画の諏訪雅さん、中川晴樹さんの3人が入ったことで、これまでのMONOとはちょっと違った空気が感じられました。

「人の好みってあんまり変わらないんですよね。僕はMONOのメンバーが好きだし彼らと作品を作り続けていきたいけれど、それだとやる前から結果が見えてしまう。だからこそ新しい風を入れたいという思いがありました。どの団体でもそうだと思うんですけど、出てきはじめの時期ってめちゃくちゃ楽しい。MONOは比較的オーソドックスな芝居をやる劇団ですけど、それでも最初の頃は僕らが一番新しいんだっていう自負がありました。そこからだいぶ歴史を重ねていますから、若い世代のいいところを盗みたいっていう狙いもあります。ヨーロッパ企画ってすごく面白いけれど、僕自身の好みからすると少しユルすぎるかなって思う部分もある。でも、翻ってMONOを見てみると、カッチリしすぎじゃない? ユルい方がいいんじゃないの? という気持ちになる」

――そこであえてそのユルさを取り入れてみようと?

「そうです。今までだと客演の人もMONOに合わせてもらうように演出していたんです。でも、今回のダメ出しではヨーロッパメンバーには“ヨーロッパの公演よりはカッチリやってくれ”と話し、MONOのメンバーには“ヨーロッパのふたりに引きずられてほしい”と伝えました。もうひとりの客演の岡島君は派手な芝居をする人だから、岡島君には“流れさえ押さえていてくれれば、あとは好きにやってほしい”と頼んだ。そうすることによってMONOっぽさを残しつつも、その間から生まれてくるようなもの、今までなかったものができないかと思ったんです。今回の稽古はやってて楽しかったです」

――MONOの公演が終わると、4月には演劇集団 円への書きおろし『胸の谷間に蟻』の公演がありますね。

「女性3人が主役の作品なので、わりと単純におっぱいを連想しました。僕おっぱいが好きだから、一回ぐらいそれを軸に書いてみようかなって(笑)。下着メーカーの三姉妹の話です」

――続けて5月には『燕のいる駅』の公演が控えています。この〈土田英生セレクション〉は過去の作品をキャストを変えて再演するシリーズで、今回は1997年発表作を自ら脚本に手を入れてリメイクするそうですね。初演の時と変更するポイントはどこにあるんでしょうか?

「最初は不自然なところだけを直そうというぐらいの気持ちだったんです。でも、この作品で描いた“世界が静かに終わっていく時間”という設定が、いまやわりと現実味を帯びるようになってしまった。稽古は再来月には始まりますが、正直僕の中で迷いはあります。あんまり現実に寄り添うのもおかしい。でももはや絵空事では済まされない。いまの自分の感覚を信じて、引っかかる部分を直していくしかないですね。初演は20代が中心の若いかわいい芝居だったから、それを大人の芝居に変えるという作業もあります」

――この作品に関してはキャスティングにもかなり関わっているとか。

「〈土田英生セレクション〉では、ほぼ自分がやってみたい人に声をかけさせていただいてます。ポイントとしては、パスが回せる人。MONOの演出の時、僕は“シュートは打つな、パス回しの芝居をしてほしい”ってよく伝えるんです。だからMONOのメンバーはパス回しがすごくうまいけど、シュート力に欠ける(笑)。外部公演では華のある人に出てほしいという思いはあるけれど、パスが苦手な人と芝居をするのはしんどいから、シュート力もありながらパスも回してみたいっていう人を集めたつもりです。中島ひろ子さんは、映画『桜の園』の頃から大ファンなんですが、初舞台なんですよ」

――〈土田英生セレクション〉は、自由に作れるMONOと、メジャーなキャストでやるプロデュース公演のちょうど間のような存在ですね。

「やったことをないことがやりたい、欲求不満になっているところを埋めたいというのはあります。MONOでしかできないこと、プロデュース公演でしか満たせないもの。その間にこの土田英生セレクションがある」

土田英生

Text●釣木文恵 Photo●源賀津己

PROFILE

つちだ・ひでお 1967年生まれ、愛知県出身。立命館大学入学とともに演劇をはじめ、1989年、いまのMONOの元となるB級プラクティスを結成。以降、作・演出・出演を務める。青年座や文学座など外部の劇団やプロデュース公演での作・演出も多く手がける。その他テレビドラマ脚本や新作狂言の執筆など、幅広く活躍している。
MONO公式HP


TICKET

【作・演出・出演】
MONO
『少しはみ出て殴られた』

2月17日(金)〜26日(日) 吉祥寺シアター(東京)
2月29日(水) テレピアホール(愛知)
3月3日(土)・4日(日) 北九州芸術劇場 小劇場(福岡)
3月8日(木)〜12日(月) ABCホール(大阪)

公演・チケット情報



【作・演出】
リーディングドラマ『Re:』
〈CBGK Premium Stage〉

3月20日(火)〜25日(日) CBGKシブゲキ!!(東京)
※3月3日(土)一般発売

公演・チケット情報



【作】
演劇集団 円
『胸の谷間に蟻』

4月20日(金)〜5月2日(水) ステージ円(東京)
※3月15日(木)一般発売

公演・チケット情報



【作・演出】
土田英生セレクションvol.2
『燕のいる駅』

5月18日(金)〜27日(日) 三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京)
6月1日(金)・2日(土) テレピアホール(愛知)
6月13日(水)・14日(木) サンケイホールブリーゼ(大阪)
6月17日(日) 北九州芸術劇場 中劇場(福岡)
※東京・愛知・大阪公演=3月18日(日)一般発売
 福岡公演=4月15日(日)一般発売

公演・チケット情報





2012.02.28更新

ページTOPへ