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約2年ぶりの新作は、全編オリジナル楽曲の2枚組(シングル曲含む)。
さらにファンクラブの人たちには全曲別バージョンが収録された特別サンプル盤を配布するという大胆なプロモーションを展開。
アーティスト自らがおもしろがる姿勢を驚くようなやり方で貫いた今回、そこにある思いとタイトル『NEW FACE』に込められた意味とは?
トータス松本に話を訊いた。

――これをまず見させていただいて(と言って、ファンクラブに向けて特別サンプル盤を配布する趣旨を綴った本人手書きのメッセージを取り出す)。

「(笑)。これ資料になってんねや」

――そもそもトータスさんの思いつきで?

「そうそう」

――少々驚きました。

「思いつきでもええな≠ニ思ったらどんどんやったほうがええやろと。もう方法論は出尽くしてるわけやから。アルバム・プロモーションとかシングル・プロモーションとか毎回同じことやってもしゃあない。むしろそこに対して疑問を持っていくっていうほうがええんちゃうかなと思う。べつに誰かが何かをやってなかったりさぼったりしてるわけちゃうねんけど、もうそれだけではどうしようもないっていうのが一方でははっきりしてるから」

――自分の作品がうまく届いてないな、というモヤモヤした感じがあったんですか?

「そうやね。けどそれは、もしかしたらおれの楽曲のせいかもしれへんし、プロモーションのやり方のせいかもしれへんし、これという原因はわからん。せやけど確実に言えるのは、おれは20代ではないし――なんやったらまわりのスタッフのほうがみんな若いし――売れてる音楽も20年前とは違うし、世の中もどんどん変わってきてるっていうこと。せやのにやってることが同じやったら、そりゃ話にならんやろうと。だから逆に、というかなんというか、デッカいビルボード貼ってくれや、とかも思わへんしね」

――ちなみにファンクラブにタダで配るって言ったときのスタッフの反応は?

「正直、よくはなかったよ。『タダのパンなんか誰が食べたいんじゃ』みたいなさ(笑)。そりゃおれがさ、隣の家にいきなり押しかけたらあれやけどさ。……ピンポーンピンポーン。『夜分恐れ入ります。あの、来月アルバム出すんで、これ、良かったら聴いてもらえるとうれしいんですけど、一応、置いてきます』。奥さんがにこやかに、『どうもありがとうございますぅ』。ガチャって玄関閉めて、そこに現れたご主人が『なんやなんやどないしたんや』。『いやこれ、お隣の松本さんが……』。『せやけどわしAKB48しか聴かへんしな』。ほんで息子に、『お前これ聴くか?』。『おれサカナクションしか聴かへん』。『いらんなぁ、これ』……そりゃそうなるわ! そうじゃなくて、ファンクラブの人に、それも世の中には出回らないバージョン違いのものをあげるって言ってるんやから、ヤッター!ってなるやん。おれはそこの気持ちを大切にしたいねん。まず一番欲しい人に届けて、そこの熱量が何かを起こすほうがおもろい、絶対そう思うねんけどね」

――こうやってお話を訊くと、とても今っぽいというか、インターネット的な発想ですよね。やってることはベタにアナログですけど。

「ほんまは、一人ひとりの家を訪ねて行って配りたいくらいやわ(笑)。あとね、おれらが何かを変えていかんとっていう気持ちもあるねん。そうせな下の世代はもっと苦しむやろうし。音楽やりたいけど先輩たち見てたらとても幸せそうには見えへん、どうしたらええんやろっていうような夢も希望もないことになってしまうやん。スポーツの世界でも一緒やん。おれらの子供の頃、アホなやつはみんな将来なりたいもんはプロ野球選手やったからね(笑)。ミュージシャンなりたいわーって思ってほしいもん。なれるかどうかは別にして。まあ、おれのやり方が正解かどうかはわからへんよ。けどとにかくおもろそう≠チていうその一点やね」

――もうひとつ驚いたのが、今回のアルバムが2枚組だということです。

「じつはもっといっぱい曲はあったんやけどね。ちょっと、今の空気感とは合わへんなと思って入れへんかった」

――それは震災と関連していますか?

「そうやね。震災直後に勢いで作って録ったもんもあったけど、今はちょっと違うんちゃうかなって。なんか違うんよね。そぐわないというか、うまく言われへんけど。今なんやと言われたら、ユーモアのある音楽をやりたい。もともとそういう音楽が好きやし、ユーモアのある音楽を作ることがおれには一番しっくりくる」

――「ユーモアのある音楽を作る」というのは、トータスさんのキャリアを眺めると、原点に戻ったという言い方ができるとは思うんですけど、とはいえそれは「震災」を通過しなければ立てなかった地点だ、と言うことができますよね?

「そう。絶対それはある。『ガッツだぜ!!』なんかはもうずいぶん古い曲(1995年12月リリース)やけど、震災以降では歌う意味が違うしね。はじめて『ガッツだぜ!!』が好きになった。あれほど目の敵にしてきた曲やのに(笑)。あんなもんははずみで作った曲や、とか言って。でも震災以降はこの曲を歌うのが好きになったし、妙に高揚感があるんよね。被災地にボランティアに行ってる知り合いから聞いた話やけど、おばちゃんに猥談したらめっちゃ楽しそうに笑ってたって言ってたしね。そういうことなんちゃうかなと思って。せやから、落ち込んでる人に悲しい歌を聴かせるよりも、普通にいつもと同じようなことを歌って笑い合うほうが幸せなんちゃうかなって。音楽ってもともとそういうもんやんか。なあ元気だせよって寄り添うんじゃなくてさ。普通にそこにあるもんやん。それがおれの言う『ユーモアのある音楽』。そういうことに気づけたからこそ、改めて音楽が大事なもんやっていうことがよくわかった」

――こんな言い方をするとあれですが……意外にも、たくさん曲ができたんですね(笑)。

「そう(笑)。今回はプロトゥールスを入れたことが大きかったね。それがなかったら12曲入りくらいになってたかもしれん(笑)」

Text●谷岡正浩(ぴあ)Photo●源賀津己

PROFILE

’92年、ウルフルズのボーカルとしてシングル『やぶれかぶれ』でデビュー。シングル『ガッツだぜ!!』が大ヒットを記録し、’96年にリリースした3枚目のアルバム『バンザイ』はミリオンヒットを記録した。そして’09年8月30日をもって、ウルフルズは一時活動休止を発表。’03年には初のソロカバー・アルバム『TRAVELLER』を発表しており、音楽活動はもちろん俳優としても映画「UDON」やNHK大河ドラマ「龍馬伝」などに出演するなど幅広くソロ活動を展開中。
オフィシャルホームページ


TICKET

『トータス松本 ツアー2012 "NEW FACE"』
⇒11月14日(水)福岡国際会議場
⇒11月16日(金)渋谷公会堂
⇒11月17日(土)渋谷公会堂
⇒11月21日(水)札幌市教育文化会館 大ホール
⇒11月24日(土)名古屋・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
⇒11月27日(火)神戸国際会館こくさいホール
⇒11月30日(金)サンポートホール高松
⇒12月6日(木)大阪 オリックス劇場

公演・チケット情報



RELEASE

Album
『NEW FACE』
発売中
初回盤(2CD+DVD)
3800円
WPZL-30463/5
通常盤(2CD)
3150円
WPCL-11232/3
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2012.08.28更新

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