オルタナティブ〜ニッチポップ〜パンクを自由に行き来する宅録サウンド、歌謡曲っぽさがまったくなく、(じつは)高度に洗練されたメロディ・ライン、そして、『おんなじ景色は/ひとつも無い/おなじ気持ちには/二度となれない』(”SOX”)など、”そうか!”と目からウロコがボロボロ落ちると同時になぜか前向きな気分になれる歌詞。ニュー・アルバム『いい星じゃんか!』(素晴らしいタイトル!)にはTOMOVSKYにしか描き出せない、軽妙なのに奥深いポップミュージックがたっぷり込められている。40代後半に突入してさらに絶好調のトモフさんに本作の制作過程についてユルユルと聞いた。
『いい星じゃんか!』、とても楽しませてもらいました!
「あ、ホント? 初めてなんだよ、インタビュー。反応を聞いたのも初めてだなあ。でも、楽しんでくれたんだったら良かった。弱点はたくさんあるんだけどね。…言わないけど」
(笑)前作『秒針』から1年2ヶ月ぶりのアルバムですが、制作はいつくらいにやってたんですか?
「えーと、序盤の3曲(『文句いわない』『SOX』『苦笑いでハイタッチ』)は去年の夏から秋くらいには出来てましたね。『いい星じゃんか』と、最後の曲−−って何だっけ?
『こころ動け』ですね。
「あ、そうそう。『いい星じゃんか』と『こころ動け』は今年に入ってからダッシュで作りました。何かね、作りながら出来上がる系のアルバムだったんだよね。さんざん時間をかけて作った曲をいくつかボツにして、足りない分を最後のほうに作ったりとか」
『いい星じゃんか』というタイトルについては?
「タイトルだけは先に決めてたんだよね。『秒針』(前作)を出したときに、”次のアルバムのタイトルは『いい星じゃんか』だ!”って。この言葉自体はもう何年も前から思いついてたんだよ。ノートにメモしてあって」
2012年に『いい星じゃんか』って聞くと…。
「そう、震災とかあったからさ、ヘンに意味深になっちゃうじゃない? それが困っちゃうんだよね。そういうつもりで作った曲なんかぜんぜんないのに。ちょっとでも”そういう意味に取られそうだな”って思う曲はあえて避けてるんですよ、今回は。わざとそういう曲を作る人もいるけど、嫌いなんだよね。だから、そこらへんは触れないほうがいいかもよ」
ただ、全体を通してすごくポジティブになれる歌が多いですよね。
『苦笑いでハイタッチ』の“ゆううつの共有は/それはある意味 娯楽”っていう歌詞だけでも、なんか気分がラクになる気がするし。「バンドでライブとかやるとさ、”今日はちょっとダメだったかも”ってときがあるんだよね、年に2、3回くらい。”今日のライブは確実にこの前よりもつまんなかった”とか、”でもがんばったよね、俺たち”っていうのを目で確認するっていう(笑)。ハイタッチはしたことないけど、苦笑いフィーリングが通じ合うことはあるよね」
そういうのも、日々を前向きにやり過ごすことにつながるんじゃないですか?
「そうっすね。まあ、歌の内容はあんまり変わってないけどね、昔から。自分を前向きにするために作ってるというか、そのために生きてるようなもんだから。前向きじゃないと生きてられないよね」
そうですね、ホントに。音楽的なところでは、何かテーマはありました?
「パンクアルバムにしたかったんだよ、最初は。でも、あんまりパンクアルバムにならなくて、それはちょっと心残り。たとえばさ、同じ言葉の連呼だけでサビを作るとか、そういうことがしたかったんだよ。『誰かがポテトを持ち込んでいる』とかは、”誰かがポテトを持ち込んでる”っていう歌詞だけでサビが出来てるから、けっこういいと思うんだけど」
エレベーターのなかで”誰かがポテトを持ち込んでいる”のが気になるっていう歌ですね。
「気になるよね、あれ。メーカーまではわかんないけど(笑)、冷めちゃうから早く食べればいいのにって。1曲目の『文句いわない』も、けっこうそういう感じかな」
そうですね。“突然終わったって/文句いわない/なんとなく始まったことだから”というフレーズもすごいインパクトだし。
「ただ、それ以外はけっこう歌モノなんだよね、結局。歌詞も長いし…。心の奥底はかなりパンクなんだよ、今回。歌詞の源泉っていうか、中身はパンク」
たとえば、どの曲ですか?
「『無い!』はさ、○○○○○をバカにしてるんだよね。「現実を受け入れなさい」とかさ、それはおまえだろう! っていう(笑)。あと、「人間」は○○○○○をコケにしてます。そのへんはドロドロだよね。そこはいいと思うんだけど、アルバム全体でいうと聴こえ方はやっぱり”歌モノ”っていう…そこがねえ(笑)。どうしても自分のなかのポップなところが出ちゃうんだよね。ポールが顔を出してしまう(笑)」
ちょいちょい出てきますよね、ポール・マッカートニーっぽい雰囲気が。
「歌詞を思いついて、”こういう感じかな”って頭のなかでアレンジを考えるじゃない? その時点でポップになってるんだよね」
まあ、それがTOMOVSKYさんの本質のような気もしますけどね。
「仕方ない、と。そうだよね(笑)」
(笑)。でも、どうしてパンクをやりたかったんですか?
「前のアルバムの取材で”次はパンクだ”って宣言したから(笑)。いつも言ってるんですよ、”次はパンクアルバムにしたい”って。たぶん、すごく難しいことなんだよね。さっき”同じ言葉を連呼"って言ったけど、だからって幼稚にはなりたくないんですよ。あと、意味を探られちゃうのがイヤだから、つい言葉を足しちゃうこともあって。”誰かがポテトを持ち込んでいる”だったら、誰もそれ以上に意味を探らないでしょ? でも、たとえば”いい星じゃんか”を連呼しちゃったら、”どういう意味ですか?”って取材とかで聞かれまくっちゃうじゃん。けっこう手ごわいよね」
TOMOVSKY哲学というか、すごく深い意味があるように感じちゃうんですよね。
「うーん…。まあ、ひと言で打ちのめせるような言葉を思いつきたいんだろうね。外人の歌とかさ、そういうのけっこうあるじゃん。意味はわかんないけど、ずっと同じ言葉だけでサビが出来てると”うわ、カッコいい!”って思うし。そういうものに憧れがあるのかな? そう考えるとさ、”カステラ”はすごかったよね」
”すごかったよね”って(笑)。「カステラ」、TOMOVSKYさんがやってたバンドじゃないですか。
「いや、すごかったと思うよ。情も漂わせないし、幼稚でもなかったし…って、本人たちが思ってるだけだけど。冴えてたなーって思うよ。憧れちゃいますね」
Text●森朋之 Photo●吉田圭子
1965年12月14日、千葉県生まれ。’89年に大学のサークルメンバーと結成したバンド、カステラでデビュー。'93年の解散後、TOMOVSKY名義でソロ活動をスタート。マイペースに音楽活動を展開中。
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