TOP > 今週のこの人 > 藤原竜也

“演劇の申し子”として、15歳で鮮烈に舞台の世界を駆け出した藤原竜也は、その勢いのままに名だたる演劇人との出会いを重ね、数々の名舞台を生み出してきた。30歳の今、井上ひさしが最後に遺した演劇への情熱の灯をともすべく、舞台『木の上の軍隊』に立ち向かっている。つねに舞台に立っている印象を与えながらスクリーンにもしっかり足跡を残す、神出鬼没な彼の魅力をあらためて探りたい。

――藤原さんがスカウトをきっかけに、15歳で蜷川幸雄演出『身毒丸』でデビューしたことは演劇ファンには知るところですが、当時の出来事を思い出すことはありますか?

「よく覚えてはいますが、15年も経つと、そう頻繁には思い出さないですね。常に今やっていることに集中しているので。今、稽古している舞台『木の上の軍隊』では、僕が演じる“新兵”っていう役がすごく面白いキャラクターなんです。自分が生まれ育った沖縄の島のことをとても愛している。でも戦争によって状況が激変して、この国は、この島はどうなっていくんだろう、家族や恋人はどうなっちゃうんだろうと思い悩むんだけど、それでも笑って、自ら『僕は実はいいヤツなんですよ』なんてバカなことばっかり言いながら、必死に生きている。ちょっと自分に似てるな、と思って。僕も“根はいいヤツなんですよ”なんて自分で言うのはヘンだけど、そうじゃなくて“根が弱い”のかな? 微妙な繊細さがあるのかもしれない。最近、自分の地元である埼玉の秩父の風景とかを、寝る前に思い出すことが多くなってきたんです。どうしてなのか、よくわからないんだけど」

――それはやはりこの作品に、役に没頭しているからじゃないでしょうか。

「どうなんでしょうね。自分も年齢を重ねるごとに両親など、家族のことも頻繁に思うようになってきたんです」

――自ら進んでオーディションを受けたのは、どういった興味が働いたんでしょうね。

「芸能に興味があったというか、ただ雑誌に載れるという単純な理由で応募したんです。それがきっかけで舞台をやらせてもらったんですけど、当時の僕は蜷川さんのことも知らなかったし、演劇というものも全然わからなかった。ほかの役者がテレビドラマや映画にどんどん出ているのを見て、僕もこんな厳しい世界じゃなくてドラマとかもやってみたいな〜なんて思ってましたけど、今振り返れば、演劇でスタートしたのは間違いじゃなかった。非常に辛かったけど、確実に今の自分の力になっていると思えます。蜷川さんとはそこから師弟としてスタートして、時に戦友として、時に恋人のような感じで嫉妬されたり(笑)、いろんな衝突を繰り返して、今でも厳しくしごかれますよ。ま、できない自分が全部悪いんですけどね」

――15歳で未知の世界に入って、厳しく鍛えられて、ロンドンのバービカン・センターにまで行って芝居をした当時を、不思議に思ったりは?

「すごく不思議な気がします。プライベートでロンドンに行って、バービカン・センターに行った時に、あ〜自分はここで芝居をやらせてもらったんだな?って感慨は確かにありましたね。やっている当時はいっぱいいっぱいでしたから。まあでも、時々“こういうことがあったな”って話はしますけど、過去には執着しないし、あんまり振り返ることはないですね。すごくさっぱりしてるでしょ(笑)?」

――そこをあえて振り返っていただくのは恐縮ですが(笑)、藤原さんの舞台遍歴を見ると、たとえば野田秀樹さんや三谷幸喜さんなど、ほかの演出家の方と出会って舞台作りをしながら、要所で蜷川組に戻るというリズムがありますよね。

「そうですね。僕は蜷川さんに人格否定されるところからスタートして、すべてをまず崩されてから稽古に臨むというスタイルでずっとやってきたものだから、蜷川さんの稽古場というのはある意味、自己確認の場所なんですね。俳優として、人間として成長できる場所が舞台であり、蜷川さんとの仕事であると。舞台の仕事に入っている時は、ほかの余計な雑音は取り入れたくないし、その舞台のことしか考えない。その姿勢をあらためて気づかせてくれる蜷川さんとの仕事は重要なんです。

 ほかの演出家の方と出会って、蜷川さんとのやり方の違いに戸惑ったことも若い時はありましたけど、今はもう“この人の稽古場はこういうやり方”と自分なりに判断して入っていけるようになりました。野田さんとのお仕事も、三谷さんとのお仕事もすごく面白かったです。基本的に野田さんも三谷さんも、やっぱり厳しい人たちでした。ご自身が書いた戯曲にある正しい表現を求めるがゆえに、役者にも厳しくなるんですよね。その現場にうまく順応してサラっとやってこなせる役者さんは、僕の知る限りでは大竹しのぶさんと宮沢りえさんだけですね。やっぱり女優さんはすごいなと(笑)」

――そうなんですね(笑)。2008年の舞台『かもめ』、2010年『黙阿彌オペラ』で、今回の『木の上の軍隊』の演出家、栗山民也さんと出会いますが、栗山さんもまた、藤原さんに大きな影響を与えた方ではないでしょうか。

「はい。栗山さんとの出会いは新鮮でしたね。本当にじっくりと演劇のことを考えて、すごく丁寧に導いてくれる。僕たちのことをよく理解してくれて、引っ張っていってくれる方です。栗山さんの稽古場も面白い。栗山さんご自身も面白い方ですよ。こないだ稽古が突然中止になったので『何でですか?』って聞いたら、朝、歯を磨いていて歯ブラシが目に入ったから眼科に行ったって……。『嘘でしょ!どうしたらそうなるんですか!?』『いや、お前の芝居のことを考えてたら…』『どういう意味ですか、それっ!?』(一同笑)。いや〜素敵な少年の心をお持ちの演劇人です(笑)。栗山さんと一緒に仕事をすると、モノ作りの良さ、演劇の良さというのはこういうことなんだな、と実感できるんですよね」

――井上ひさし作品は『天保十二年のシェイクスピア』(2005年)から始まって数作を経験されていますが、やはり『ムサシ』(2009年、2010年)の活躍は印象深いです。

「『天保十二年〜』の時は、井上先生がよく稽古場を覗いてくださいました。そこから『ムサシ』の話につながったんです。先生が自筆で書かれたプロットを見せていただいた時に、こんなふうに誰も太刀打ちできないくらいに情報を仕入れて、考え抜いて作品を完成させていくんだな……と思った。『ムサシ』は本当に僕にとって大きな経験でしたね。

 そうですね……舞台というのは、人生の蓄積だなと思います。舞台での実体験が、こういう人生を歩んできたんだという実感となって、どっしりと胸に残るような気がします」

――今回の『木の上の軍隊』は、井上さんが題名と構想のみを遺していかれた作品です。2010年に上演が予定されていた際には藤原さんの出演も決まっていました。それを今、舞台として完成させようというお話を受けた時は、どのように思われましたか?

「ありがたいことだなと思いましたね。上演に動いたからにはぜひ出演させていただきたいと思った。もちろん栗山さんとまた組める嬉しさもあったし、山西惇さん、片平なぎささんと初めてご一緒できることもいい機会だなと思いました。また台本がすごく面白く読めたんですよね。題名とちょっとしたキーワードを頼りに、ここまで物語を膨らませた蓬莱竜太さん(脚本)は本当に凄いと思います。僕らの世代の多くは、沖縄戦については新聞で読んだり、ドキュメンタリーを見るくらいの知識しかないと思うんですよね。蓬莱さんの台本は、僕らやもっと年下の人にも言葉が伝わりやすく、なおかつ井上戯曲のように喜劇的な要素も含まれていて、それを瞬間的に悲劇に落としていく巧みな面もある。世代を問わず、多くの人に受け入れられる素晴らしい作品に仕上がっていると思います」

――栗山さんからは、舞台作りの構想についてどんなお話が?

「共通認識としては、長い上演時間を……今のところ休憩なしで観終えられると僕は見ているんですけど、お客さんが席を立つことのないよう、一緒に耐えてもらおうと。『沖縄の暑い夏も寒い夜も体験してもらって、劇場を後にしていただきたいね』とはおっしゃっていましたね。今回、張り出し舞台になっていて、ガジュマルの大きな木が装置として立っています。木を上り下りしながら芝居をするのは初めてで大変ですが、戯曲もセットも演出も良いですからね。なぎささんも素敵です。後は僕と山西さんの会話の応酬、掛け合いを完璧にするだけ、という状況かな(笑)」

Text●上野紀子 Photo●本房哲治

PROFILE

ふじわら・たつや 1982年、埼玉県生まれ。1997年、舞台『身毒丸』のオーディションにて抜擢され、主演としてロンドン公演でデビュー。以降、『ハムレット』、『ムサシ』、『日の浦姫物語』などの蜷川幸雄演出作品のほか、『オイル』(作・演出:野田秀樹)、『ろくでなし啄木』(作・演出:三谷幸喜)など数々の話題作に出演。映画出演作は『バトル・ロワイアル』(監督:深作欣二)、『DEATH NOTE デスノート』シリーズ(監督:金子修介)など。2013年4月には渋谷・シアターコクーンにて、5月には天王洲銀河劇場、他全国6都市にて舞台『木の上の軍隊』(作:蓬莱竜太、演出:栗山民也)に出演。


TICKET

『木の上の軍隊』

東京・シアターコクーン/東京・天王洲 銀河劇場
4月5日(金) 〜 5月6日(月・祝)

愛知・名鉄ホール
5月10日(金) ・ 5月11日(土)

大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
5月16日(木) 〜 5月19日(日)

長崎・長崎市公会堂
5月25日(土) ・ 5月26日(日)

広島・広島上野学園ホール
5月28日(火) ・ 5月29日(水)

福岡・北九州芸術劇場 大ホール
6月1日(土) ・ 6月2日(日)

公演・チケット情報





2013.03.26更新

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