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柴幸男

――ここ数年、とても活発に地方での公演をされている印象があります。『わが町、可児』や『テトラポット』のように、地方に滞在してその場で制作していくこともなさっていますよね。

「声をかけていただいては各地に行っていたんですが、これからは声をかけられるより先に自分の方から行くこともしてみたいと思っています。東京も上演都市のひとつの候補、ぐらいの感じで。……東京は人が多いです。面白い芝居もいっぱいあるし面白い人たちもいっぱいいるので、僕が出る幕はないというのは、だいぶ空気として感じています(笑)」

――そんなふうに思ってるんですか?

「全然思ってます。10年間東京でやってきて、ここ3年ぐらい各地をふらふらしたので、次の3年とか5年はどこか東京以外の場所を拠点にしよう、ポイントをずらして新しい針を刺そう、どこにしようかな、と思っているところです。僕ひとりではなく、今ある劇団とかスタッフとか、信頼できる人たちのグループでどこかの劇場なり街なり地域の空気を動かすという活動ができないかなと思っています」

――それは公演で行くだけでは足りないんですね?

「公演で行けば、微風は起こるんですよ。でもそれは2、3日くらいの微風なので。自分たちがそこにいて活動し続けることで、観に来る人とそこに関係してくれる人と、僕らとその土地の間に、面白い風がずっと吹き続けたらいいと思います。台風とまでは言わないまでも、1年ずっとそよ風を吹かせ続けて、たまに強風が吹いて空気がかき混ざるぐらいのことが起こったらなと。そのためには公演を常に打つか、いるだけで常に風が吹く形を考えないといけない。稽古だけでも、そこに芝居する人たちがいるというのが伝わったり、面白がってもらえるような場なり空気を生み出すということが必要なのかな」

――東京ではなく、あくまでも地方で?

「東京はもう、いろんなところで風がびゅんびゅん吹いている。そんな強風に乗っても、僕はタフじゃないのであさっての方向に飛んでいっちゃう気がする。もうあるところはいいんです。気持ちのいい風が今ないところで、もしくは別のある方向からしか風が吹いてないってところに僕らが行って、違う方向からの風を吹かせる。それで空気がかき混ざって、凧揚げぐらいができればいいなって」

――選択肢として、たとえばショービジネスの方向には興味はないですか?

「興味はあったんですけど、それもあきらめてみました。僕自身にはそういう適性はなさそうだなって。初めての座組みで、例えば出演者がちょっと忙しい人だったり、もしくは有名な人だったりっていうのを何度かやってみて、その方面の能力はなさそうだと。もちろん、やれるならなんでもやりたいですけど、時間もそんなにないので、向いてないことはできるだけしない方がいいかなと思います。別に断っているわけでもないですが、依頼もないってことは、多分バレてるんだと思います。扱いづらいというか、オーダーに沿った内容が返ってこないということが(笑)」

柴幸男

――演劇以外の選択肢もありますね。たとえば今回の小説とか。

「小説は今回初めてやってみて、面白かったです。手応えとまではいかないですけど、小説の書き方がほんの少しだけわかったというか、その入り口がかすかに見えたような気がしてます。最初は全然わからなくて、編集者の方に“ここをこうしたら”とアドバイスをいただいてやっと書けたんですが、けっこう途中でどうしようもなくなって“もうだめだ!”ってところから、最後は思ってもみない感じになった部分もあって。小説はもうちょっとやってみたいけど、それもどうかな、向いてないかもな……。すぐ向いてないって言っちゃうんですよね。結局演劇だけだったんですよ、向いてたのが。演劇でも向いてるのと向いてないのとがあるから、どんどん視野を狭めていく感じになっちゃってる」

――以前は「職業演出家にはならないと思う」と発言されていましたが、最近、演出だけのお仕事もありますね。それは意識の変化なのでしょうか?

「一般に開放されたワークショップは、演出の仕事だと思うし、やっていきたいですけど、あまり演出家としてこういう作品をつくりたいというのはないので、これからも自分で企画して演出だけをするということはないと思います。うーん、『日本語を読む』(世田谷パブリックシアター主催のリーディング公演)でやった別役実さんの脚本の演出は面白かったですけど。斬新な演出というよりも、僕は多分戯曲を丁寧にやる演出しかしなさそうです」

――同世代で演出をしたい人はいますか?

「……全然同世代じゃないですけど、天野天街さんの戯曲はいつか演出してみたい」

――逆に、自分の戯曲をこの人に演出してほしいというのはありますか?

「マームとジプシーの藤田(貴大)くん。……藤田さん(笑)。新作で、書き直しありで。脚本でなくても、原案ぐらいでいいです。僕がやるより面白くしてくれそうな気がします」

――藤田さんは後輩なのに、ずいぶんと譲歩されますね。

「後輩とも年下とも思ってないです。正直に、尊敬しています。もし演出してくれたら、多分ぐちゃぐちゃにされて、ワンシーンの1要素だけ僕発信のところがあって、あとは多分藤田君の思うままに紡いでもらうことになるんだろうな。それで全然面白くなっちゃうんじゃないかな」

――自分の書いた脚本が変わってもかまわないという気持ちですか?

「僕はもう全然。高校演劇で『わが星』とか『あゆみ』をやりたいと連絡してくる高校生には僕、できるだけ変えるようにした方がいいって伝えています。DVDを観て模倣しようとすると絶対面白くなくなるから、できるだけ勝手に、みんなで部室で“どうやってやったらいいんだ?”って相談してやったやつが絶対一番面白いから、って。そのままやられて面白くない方が心が痛いですからね」

――以前、NHKの高校演劇の番組(『青春舞台 2010』)で青森の高校が『あゆみ』を演じたときに、スタジオゲストの江本純子さんが「私、柴さんと岸田國士戯曲賞を争ったので、素直な気持ちで観られません」と冗談交じりにおっしゃっていたこともありましたね。

「そうそう! 江本さん、その後の公演(『ウィークエンド軽演劇』)で『あゆみ』をネタにして、いろいろいじってくれたらしいんですよね。『テトラポット』も北九州まで観に来てくださったんです。“偶然こちらに来てて、観られる芝居を調べたらちょうど柴くんのがやってたから”って」

――そうやってネタにされるのは、どういう気持ちですか?

「ありがたいです。うれしいですよ」

――柴さんはご自身が演劇界にいらっしゃるという感覚があまりない印象があります。

「ないですね。演劇界をどうこうしたいという欲求も自分の中にはどうやらなさそうです。のんびりやっていきたい。もしかしたら稽古場ひとつとっても、隣で別の公演の稽古をやっているような状況は苦手なのかもしれない。今のこの稽古場って、テニスのパコーンって音を聞きながら大きな公園の中を歩いて来てて。それは気持ちいいです」

――その苦手意識はどういうところからくるんでしょう?

「そこで競い合う気がない。皆さん素晴らしい作品をつくっているのでお手上げです。まあ、作品は別個のものですが、僕の考え方とか発言にすごく意味があるわけでもないってある時思ったんです」

――戦おうとしていない。

「そうなっちゃいましたね。戦おうと思った瞬間から負け続けたので、多分タイプが違ったんだろうな。うーん、勝ってた時期もあったのかなあ? でも、勝ち続けようと思った瞬間に負け続けましたね。だから、負けてもいい。と思うことにしました。最初から何もないし。偶然勝ったから一瞬自分が強いのかと錯覚しましたけど、人間的な強さというか、芸術的にも僕多分かなりグラグラで……。毎回やることを変え続けているし、自分で確信を持ちながらつくってることも少ないので、かなり振り幅が大きい。『わが星』みたいにすごく褒めてもらうこともありましたけど、大いなる一発屋というか(笑)。でも一方で、小さくヒットを当てていこうとして目も当てられない三振をしたりもしたので、できるだけ大振りをして、ホームランは狙うつもりで行こうと思ってはいます。打率のいい方々が周りにいると、自分もそういうヒットを打ち続けなきゃいけないのかなって思って、打席に立つのもだんだん怖くなってくる」

――もちろん打席に立ち続ける決意はあるわけですよね?

「プロではありたいと思ってます。でも、いわゆるメジャーリーグに行くようなタイプの選手じゃない。……プロ野球でもないのかもしれないですね。野球を生業としたいし自分なりの野球を続けていくつもりでもあるけれど、プロ野球の中に入ったらヘロヘロになってしまった。だからプロ野球界に近づかないようにしている。もしかしたら自分の野球場とか球団をつくろうとか、違うリーグを立てようとか、そういうことを目指しているのかもしれない。そもそも野球と思ってたものと違う形、球場があって監督がいるのが野球と思ってたけど、そうじゃない形でもいいんじゃないかと思っているし、そっちの方向でも攻めてみたい」

――形は独自のものになりそうですが、柴さんが演劇を続けられることは確かなようで、安心しました。

「岡田利規さんが岸田賞のことを“公への召集みたいなもの”と言っていた、その言葉がピンのように刺さっているんです。もしかしたら僕、今頃“演劇も向いてないや”と違うことをやっていたかもしれない。でも、岸田賞を受賞した人間がそう簡単に“僕やっぱ演劇向いてなかったです”とは言えないですよね。責任感がなさすぎる。だから、演劇はまだ向いているんだと思わざるを得ない(笑)。それがあって、でもプロ野球的な演劇が向いてない自分が演劇として何かできることはないかと考えると、それが劇団ごと東京の外に行くことにつながるのかもしれないです」

――岸田賞はそれほどまでに大きい存在なんですね。

「目標だったものが、大いなる縛りになったような。ハンパなことをしてられないぞと思う。そう思わせてくれる賞ですし」

――どこに行こうか、決めているんですか?

「迷っています。水が近くにある場所がいいな。川かな。池でもいいかもしれない。眺めに行ける水があるところがいいなって思っています」

柴幸男

Text●釣木文恵 Photo●源賀津己

PROFILE

しば・ゆきお 1982年生まれ、愛知県出身。脚本家・演出家。高校時代に演劇をはじめ、日本大学芸術学部在学中に『ドドミノ』で第2回仙台劇のまち戯曲賞を受賞。『わが星』で第54回岸田國士戯曲賞を受賞。「演劇をままごとのように、より身近に。より豊かに」をモットーに、ままごとを立ち上げる。近年、北九州、名古屋、岐阜、いわきなど、地方での公演やワークショップを積極的に行っている。
ままごとHP


TICKET

ままごと+三鷹市芸術文化センターpresents
太宰治作品をモチーフにした演劇第9回
『朝がある』

 6月29日(金)〜7月8日(日) 三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京)

公演・チケット情報



INFORMATION

音楽劇『ファンファーレ』
 9月30日(日)〜10月14日(日) シアタートラム(東京)
 10月20日(土)〜21日(日) 三重県文化会館 小ホール(三重)
 10月26日(金)〜27日(土) 高知県立美術館 ホール(高知)
 11月4日(日) 水戸芸術館 ACM劇場(茨城)
 ※チケットは8月18日(土)一般発売開始。

世田谷パブリックシアター 音楽劇『ファンファーレ』公演情報



2012.06.19更新

今週のこの人 ラインアップ

  • 山田和樹
    小澤征爾も実力を認める注目の指揮者。クラシック音楽界が熱い視線を注ぐホープの“今”に迫る!
  • さまぁ〜ず
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  • 遠藤保仁(ガンバ大阪)
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  • 堀北真希
    あくまでも、自然体。 2度目の舞台に挑戦する“国民的女優”の素顔
  • 藤原竜也
    舞台で演じ続けてきた実体験を、 「人生の蓄積」と呼んで胸に刻む。若き天才の次なる挑戦とは…。

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