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――着実に舞台経験を積んでいくさなか、ドラマ『花より男子』出演で全国区の人気者になりました。当時の注目のされ方についてはどのように感じていましたか?

「僕は『GTO』に出た15歳の時にまず、注目されて調子に乗ったことがあったんですね(笑)。窪塚洋介くんと一緒に渋谷に出たりしたら、もう歩けなくなるくらいの人気だったので“俺、すごいモテる!”って完全に思い上がってしまって。でもドラマが終わったらたいした仕事もなくなってしまって、“いったい何を勘違いしていたんだろう?”と普通に楽しい高校生活を送りました(笑)。『花より男子』のブレイクの仕方は、もう自分でも預かり知らないほどすごかった。ちょうどその時期に『カリギュラ』があったので、勢いのピークに達したなと自分でも感じていました」

――注目されることは嬉しいけれど、反面、恐ろしさを感じたりは?

「恐ろしかったですよ。何なんだ、これ!? と。自分はこんなところに来る予定じゃなかったのにな、という思いがありました。『花より男子』もそうなんだけど、まずメインの主役がいて、自分は男の中では2番手の位置で仕事をしていく人間だと思っていたので。いまだにその位置が好きだったりするので、主役をやってる自分がこっぱずかしくなる時があるんですよ(笑)」

――『ムサシ』以降の舞台では、『時計じかけのオレンジ』(2011年)の河原雅彦さんや、劇団☆新感線の『髑髏城の七人』(2011年)のいのうえひでのりさんなど、新しい演出家との出会いが続いていますね。

「そうですね。『時計じかけ〜』も新感線の舞台も驚きの連続でした。まずマイクをつけることにビックリしちゃって。それまで、自分の持っているエネルギーを全部ぶつける芝居にどっぷり浸かっていたので、“小栗くん、そんな大きな声を出さなくていいよ”と言われてちょっと拍子抜けしたというか。で、よく皆さんは“オモシロ”っていうんだけど、ハズす、みたいなことかな。オモシロに関しても蜷川さんのところではあんまり求められなかったので、いざ自分がやるとなるとよくわからないんですよね。俺、全然面白くないなと(笑)。そういった難しさはたくさんありましたが、いい経験ができて良かったなと思っています」

――そして今回の『あかいくらやみ』で、長塚圭史さんとの初の舞台づくりに挑みます。

「圭史さんには出会った頃から“阿佐ヶ谷スパイダースの舞台に出してください”という話をしていたので、今回は本当に願ったり叶ったりなんです。まだ圭史さんに出会う前ですけど、『桜飛沫』という舞台のプログラムに圭史さんが書いていた文章が、すごく自分に刺さって印象に残っていたんですね。友達と待ち合わせをしていたのに寝坊して、2時間遅れで行ったら、待っていてくれた友達の足下にタバコの吸い殻がたくさん落ちていたと。で、その友達が“無事ならよかった”と言ってそのまま帰っていった。そういう状況が匂い立つような芝居を作りたい……といった話なんですけど。それを読んで、自分もわかるな〜と思ったんです。今みたいにコミュニケーションツールが発達していない、その時代が好きなんですよね。その場に行かなきゃ相手がいるかどうかもわからないし、吸い殻の量で相手の気持ちを推し量る、みたいな時代。その文章を読んで、長塚さんのこと好きだなと思った。知り合ってからはずっと飲み友達という感じです。

 やっと一緒に仕事ができますけど、圭史さんは厳しいし、ストレートな人ですからね。“旬と一緒にやって、今後もやりたいと思ったら俺は何回も呼ぶけど、違うなと思ったらもう呼ばないから”と言われました。それも面白いなと」

――原作小説である山田風太郎さんの『魔群の通過』を読まれたそうですが、歴史モノは好きですか?

「幕末の時代は好きですね。時代が大きく変わろうとしている流れの中に、とてつもないエネルギーを持った日本人がいっぱい出て来るから。ただ天狗党(水戸藩の尊王攘夷派)に関してはまったく知らなかったので、ちょっと衝撃でした。台本の前半部分を読んだんですが、僕が演じるのは天狗党の残党による復讐集団“さいみ党” の世界に巻き込まれていく青年で、どうやらずっと舞台上にいてその時代をみつめていくキャラクターなんだろうなと。台本だけでは、はたしてどんな演出になるのか、舞台上はどうなっているのかまったく予想できなくて興味津々です。150年くらい前の話だけれど、今を生きている自分たちを震撼させる舞台になってほしいと思っているし、そんな作品に関われることが嬉しい。圭史さんが、最近の日本の状況に対して思うことを取り入れながら作っているんだなという感じを受けましたね。

『時計じかけ〜』や新感線の舞台を観て、“次の小栗くんの舞台を観てみよう”と思って観に来てくれた人たちが“あ〜、この芝居だけは観なければよかった”と衝撃を受けたとしても、それはそれでいいなあと思ったりするんです。劇場ですごくハッピーな気持ちになるのも大好きだけど、胸が痛くなって“今日はもうゴハンを食べるのやめようかな”なんて気持ちになるのも好きなんですよね。『タイタス〜』とか『カリギュラ』なんかは、どちらかというとそういう芝居だったと思う。人間が持つ闇の部分はとても大事だし、目をそらしちゃいけないと思うので」

――どんな衝撃を受けることになるのか楽しみです。小栗さんは映画監督の顔も持っていますが、今後やりたいこと、作りたいものなどを教えてください。

「自分が作る場合には、やっぱりわかりやすくて楽しい話を作りたいなと思うんですね。僕は自分では脚本を書けないので、友人の脚本家と一緒にああでもない、こうでもないと意見を出し合って進めていくような感じです。次回は最低でもクランクインのひと月前には身体を空けて、準備期間として動けるようにしたい。初めて監督した映画の時はクランクインの直前まで大河ドラマの撮影をしていたので、自分の映画に出る俳優さんにNHKまで来てもらって、僕は石田三成の扮装のまま、俳優の衣裳合わせをしたこともありました(笑)。もうそういうことはしたくないですね。ちゃんと準備をしておくことでイレギュラーなことにも対応できるし、現場の俳優の演技も楽しめると思うので」

――作り手として、また俳優として「表現する」ことの自身の原動力とは?

「何なんでしょうねえ。もともとは“怒り”みたいなものが強かったですけどね。面白くないな、だったら自分がやろうと。たとえば映像の世界で、スタッフも俳優もみんながんばってるんだけど、どこか違うんじゃないかと思うこともありますね。映画にしても実験的な面白い映画が作られているのに、そういうものが一般の人の目に触れることが少なかったり。ようは体制が変わらなきゃ、変わっていかないんじゃないかと思います。まあ、若干の絶望を感じながらも、必ず変わると思っているから、この場にいなきゃいけないと思っていますね。いなくなって文句言うのは簡単だけど、居続けたうえで文句を言っていかないと、声をあげた時に誰も聞いてくれない。周りの同世代の役者でも、もがいて頑張っているヤツらは多い。彼らにも負けたくないし、逃げたと思われたくないなと。そしてやっぱり今回の舞台のように面白いことにチャレンジしようとしている人たちがいるから、ゾクゾクさせられて動きたくなってしまうんでしょうね」

ヘアメイク:須田理恵(NU YARD)
スタイリスト:honmaru
【衣裳協力】
NEPENTHES:03-3400-7227

Text●上野紀子 Photo●星野洋介

PROFILE

おぐり・しゅん 1982年、東京都生まれ。エキストラから俳優活動をスタートし、ドラマ『GTO』で注目された後は数々のドラマ、映画に出演。『花より男子』シリーズやNHK大河ドラマ『天地人』などで話題を集め、人気を不動のものにする。舞台は白井晃演出『宇宙でいちばん速い時計』『偶然の音楽』に出演のほか、蜷川幸雄演出作『タイタス・アンドロニカス』『カリギュラ』『ムサシ』など多くのヒット作に出演。また2010年公開の映画『シュアリー・サムデイ』で初監督を務めた。2013年5月にはシアターコクーンで上演される主演舞台『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』(作・演出:長塚圭史)が控えている。


TICKET

『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』
東京・シアターコクーン
5月5日(日・祝) 〜 5月26日(日)

【追加席発売決定】
3月16日(土)10時より2階A席の追加席を発売します。
詳細は[公演・チケット情報]にてご確認ください。

公演・チケット情報



『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』
大阪・森ノ宮ピロティホール
5月30日(木) 〜 6月2日(日)

公演・チケット情報





2013.03.05更新

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