TOP > 今週のこの人 > 蜷川幸雄

――以前、やはり政治的抑圧によって『王女メディア』のイスラエル公演を断念されています。この『トロイアの女たち』は東京公演の後、年末にはいよいよテルアビブへ向かう予定になっていますね。

そう、前の時(1996年『王女メディア』の中近東ツアー)はエルサレムで上演するというフェスティバルだったんだよ。その時に、パレスチナでもやりたい、両方でやらなければという想いがあったんですね。それでパレスチナのガザの女学校の校庭でやることにして、照明機材その他の手配までしたんだけど、「ガザではやらないでほしい」と言われた。「じゃあ両方やめます」と言って、その時はヨルダンに行って古代遺跡で芝居をやったのね。そのことはちょっとわだかまりとして残っていたんです。今回はイスラエル側の、テルアビブの劇場だけでやる公演にはなるけれど、少なくともイスラエルに住んでいるアラブ系の人たちも加わることで、小さな分量かもしれないけど、もう少し現実の困難を背負った形で芝居ができるかなと。いずれ、「パレスチナ自治区にも回れ」といった世論が出てきたら行けるように、僕にしては比較的簡単なセットになっています。布を折り畳んであちこち回れるように一応、作ったんだけどね。ま、俺たちの作品がどれだけの普遍性を持っているか、いろんなものをくぐり抜けてもやったほうがいいよ、と言われる作品に仕上がるかどうかですね。芝居の持つ力が素晴らしいかどうかが問題なんですね。

でもね、今でももし紛争が起こって俳優が「自分の国に帰りたい。芝居よりも祖国の自分たちの生活の方が大事だ」と言ったら、芝居は中止にすればいいと思ってる。そんな時は、僕はやらないね。そこでは芝居は絶対だと思ってないわけ。たかが芝居じゃない。生活を優先したほうがいい。たかが芝居だから成立する大事なこともあるけど、それはまた後で集まってやればいいことだと思ってる。

――まずは東京公演の無事の開幕を待ちたいと思います。蜷川さんの2012年はまだ年末のテルアビブ公演も残っていますけど、ちょっと振り返っていただけますか。今年もたくさんの作品を手がけられました。

今年かあ。唐十郎の『下谷万年町物語』をやって、ネクスト(シアター)の『ハムレット』をやって……フフッ、あと、何をやったんだっけ(笑)。『シンベリン』や『トロイアスとクレシダ』もやったね。井上ひさしさんの作品も。いろいろやってきたなぁ〜。なんでそんなにたくさんやるのかというと、芝居をやっている時が一番、自由に呼吸ができるように感じるんだよ。芝居をやっていると恥ずかしくないというか。演劇に携わっていれば自由にものが言えるというのかな。それは現実がちっとも面白くないから。不愉快なことばかりじゃない。だから芝居に逃げているんだよ。演劇オタクだね。パソコンいじっているのと同じように、芝居をいじってるんじゃないかな。あれやったり、これやったりして、自分の中のそれぞれの心理を反映しているものを選んでいる。一貫性がないって言えばないけれど、そんなに一貫性を持って人は生きてないよな。芝居をしているほうが楽なんだよ。

――来年もこのリズムが続くと。

ハッハッハ、再来年ぐらいまで続くかな。休みたいなって思ったりもするんだけど、休むと単なるジジイになるからさ。ホントなんだよ。眠くなってダラダラしてしまう。しょっちゅう居眠りしているようなボケ爺さんみたいなのは嫌なんだよ。つまんないんだよ。

――来年は『祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹〜』から始まりますね。年末のKERAバージョンはご覧にならないとおっしゃっていますが。

そう、観て向こうが良かったら演出できなくなっちゃうじゃない(笑)。真似したくないからね。向こうは作者だから「こうしたい」という想いを入れて作るでしょう。でも作者が一番いい演出家かといったら、そんなことはないよね。台本との距離を取りながら、楽しんで演出しようと思ってます。

ケラリーノ・サンドロヴィッチって名前からして日本人っぽくないし、架空の人物みたいじゃない? 舞台の登場人物も外国の名前だしね。だからその世界をうんと日本に引き戻してやろうと思ってる。気づいたんだよ。そうか、これは俺が翻訳劇をやる時と同じように考えればいいんだなって。日本人にわからせるために、日本人の記憶と結びついたビジュアルにしようとするんですよね。ヨーロッパの真似をしたって通じないからさ。KERAという偽外国人(笑)が書いた架空の国家の物語を、もうちょっと日本人の記憶に結びつく演出で立ち上げようと。KERAは俺を意識して「ギリシャ悲劇風に書いた」とか言ってるけど、フッ、そんなのもう俺やらねーよ、と(笑)。これは今までの僕のテイストとも違うから、どうぞ見物だと思って楽しみにしていてください。

――じゃあ、去って行かれる前にもう一言……。

まだあるのかっ(笑)。

――最後です。若い演劇人に向けて、愛ある叱咤をお願いします。

そんなのないよっ(笑)。自分自身が若い時、若いヤツにお説教くれるジジイほどめんどくさくて軽蔑の対象にするものはなかったからね。だからそんなジジイにはなりたくないと思った。ただライバルとして、若い人も驚くような面白い芝居を作りたいってだけだね。叱咤なんてしないよ。ま、時々は言うけどさ(笑)。「自閉した、切っても青い血しか出ないようなヤツらと仕事するのはヤダ」なんて言ってるけど、それは全否定というよりも、俺にはそういうものは作れないという想いも含まれているんだよ。若さに対するジジイの嫉妬(笑)。KERAだって、よく「蜷川さん、やりませんか」と声かけてくれたと思うんだよ。普通の老人に「勝負!」なんて言ってこないだろうし、まだ相手にしてもらえているからいいのかなと。今はとにかく『祈りと怪物』で、KERAが考えている僕のイメージを裏切りたい。お客さんだって作家のKERAが作った舞台のほうがいいと思っているでしょう。そこを「おお〜! やっぱり蜷川さんの舞台は面白いよな!」と言わせるのが楽しいわけ。そうなるように頑張ってますよ。

Text●上野紀子 Photo●源賀津己

PROFILE

にながわ・ゆきお
1935年生まれ。埼玉県川口市出身。1955年に劇団青俳に俳優として入団、1968年に劇団現代人劇場を創立。1969年『真情あふるる軽薄さ』で演出家デビュー。1974年『ロミオとジュリエット』で大劇場の演出を手掛け、以後、日本を代表する演出家となる。1983年に初の海外公演『王女メディア』をギリシア・ローマにて公演したのを機に現在に至るまで海外公演を継続している。代表作には『近松心中物語』『身毒丸』『ハムレット』『NINAGAWA十二夜』(歌舞伎)ほか多数。また近年では、55歳以上を対象とした「さいたまゴールド・シアター」、若手俳優育成プロジェクト「さいたまネクスト・シアター」の活動を開始し話題を呼んだ。現在Bunkamuraシアターコクーンと彩の国さいたま芸術劇場で芸術監督を務めている。


TICKET

「トロイアの女たち」
 東京芸術劇場 プレイハウス
 12月11日(火) 〜 20(木)

公演・チケット情報



「祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹〜」蜷川バージョン
 東京・シアターコクーン
 1月12日(土) 〜 2月3日(日)
 大阪・シアターBRAVA!
 2月9日(土) 〜 17日(日)

公演・チケット情報





2012.12.11更新

今週のこの人 ラインアップ

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