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長塚圭史

外部演出から新作、再演まで、今年手掛ける演劇作品は実に5本と、精力的に活動する長塚圭史。構成・演出を手掛ける新作公演『南部高速道路』は、高速道路の渋滞にはまった人たちの奇妙な交流を描いたアルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの原作小説を元に、俳優とのワークショップを重ねて作り上げるという。その走り続ける創作現場の内側に迫った。

――今回、フリオ・コルタサルの短編小説『南部高速道路』を元に作品を作ろうと思ったきっかけから聞かせてください。

「もともと南米文学が好きで、ボルヘスあたりからいろいろ読み進めていくうちにコルタサルの名前も出てきて、文庫の短篇集が手軽だったので読んでみたんですね。これが面白くて。なかでも『南部高速道路』は、その時から「演劇の題材になるかもしれない」と思っていたんです」

――いつ頃のことですか。

「3年前ぐらいです。ちょうど留学先のイギリスから帰国した時期で、同じタイミングで世田谷パブリックシアターから「小説を題材にした舞台を」っていうオファーがあったので、これはぜひ試してみたいなと」

――あらかじめ台本は用意せず、俳優とワークショップをしながら作っていると伺いました。

「ええ、全員が出演できるわけではない状況で、とても豪華なキャスティングを組んでいただき、2回ワークショップをやりました。1回目が去年の4月ですね。あまり上手くいかなかったら作品を変えることも考えていたんですけど、このワークショップがかなりいい感じだったんです。震災の直後だったので、「なぜいま演劇をやるのか」っていう意味でも、みんなすごく集中力が高かった」

――渋滞がありえないほど長期化することで互助的なコミュニティが生まれていくっていう原作の描写には、被災地のことを想起させられたりもしたんじゃないでしょうか。

「まさにそのとおりで。以前から用意していた原作とはいえ、どうしても繋がってしまうことが多くて、かなりハードではありましたね。ただ、そういう状況下でワークショップをするということ自体、意味のあることだろうと。俳優が誰かを演じるということは、想像力を駆使して誰かの想いに繋がろうとすることでもあるので」

――そうした社会とのシンクロもありつつ、「渋滞」という状況自体は誰にでも身に覚えのあることですし、同時に、演劇としても面白くなりそうな題材だとも思います。

「「閉じこめられている」という意味では密室劇のようであり、かつ密室ではないですからね。日常的な状況から非日常的な地点へ飛躍するという原作の構造を演劇的思考で読み解いていくのは、とてもスリリングな作業でした」

――ワークショップで作られる部分と原作との兼ね合いはどんなふうになっているんですか。

「全体の進め方から話すと、最初、俳優にはちょっとした設定――職業や、家族構成や、その日が何の日かなど――を書いたメモだけを渡して、あとは自分で考えてもらい、インプロ(即興)で芝居を作るんです。そうやって何回かインプロを重ねて。ただ、最終的にそれをどの程度、台本のカタチにするのかっていうのが悩みどころでしたね。これ、本気でインプロだけで組み立てるとしたら、まるまる1年かかるなと(笑)。しかも、観客にとっては、見方が掴めないまま終わってしまったり、即物的な面白さだけになってしまったりする可能性がある。となると、やはり僕がインプロからインスパイアされたテキストを書いて、余白も残しつつ、台本にしようと」

――俳優もまた錚々たる面々です。

「赤堀(雅秋)さんなんかは、客観的な視点を与えてくれるのでありがたいですよ。赤堀さんが「こんなこと言っていいのかわからないけど……」って前置きしてくれるんですけど、僕としてはどんどん言ってほしいし、「むしろ、それちょうだい!」って(笑)。ただ、最終的に台本にすると、そこに僕の思考がグンと入ってくるのも事実で。だから、ちょっと僕の新作に近い部分もあるんですけど、観てもらえれば、誰が何と言おうと『南部高速道路』になっていると思います」

――舞台美術はどんなものになりそうですか。

「シンプルだけど、劇場に入った瞬間から何か始まるなって期待できるものになりそうです。何もない空間でもできるのが演劇のいいところで、震災以降、そのことをより意識するようになりましたね。一方で、舞台を飾り込むのも面白いんですけど」

長塚圭史

――3月にシアターコクーンで長塚さんが演出された『ガラスの動物園』(作:テネシー・ウィリアムズ)も、今回と同じく二村周作さんによる大がかりで素晴らしい舞台美術だったと聞いてます。

「コクーンの大きさになると、舞台美術も、演劇フリークではない一般の人たちへのアプローチが必要だと思うんです。だからシンプルなのも飾り込むのもケース・バイ・ケースで考えています。『南部高速道路』については、カッコつけた感じよりも、ちょっと泥クサくするぐらいがいいと思っているんです。原作が南米文学という時点でちょっとカッコいいじゃないですか?(笑)。でも、ちゃんと日本に置き換えて、日本人の話を作っているんだよって部分が見えてくるといいなと」

――設定を日本に置き換えることは、当初から考えていたんですか。

「それが全然思っていなかったんです。初めは原作に登場するクルマの車種について調べたりもしてましたから。ワークショップを始めてからですよね。インプロで俳優に自分の車種を決めてもらったら、プリウスとか、サニーとか、自然と日本のクルマの車種になったんです。すると面白いのが、車種がわかると、その人のバックボーンがだいたい想像つく。収入とかこだわりとか。あ、これでいいじゃんって。そもそも原作に出てくる車種や、それこそ高速道路が実際にどこにあるのかなんてことよりも、どうやったらシンプルな見立てで渋滞を作れるのかとか、どうやって時間を飛躍させるのか、といったことのほうが、『南部高速道路』をやる上では重要じゃないかと。もちろん僕は原作の小説を何回も読んでるので、日本に置き換えても、その印象から離れることはないですし」

Text●九龍ジョー Photo●源賀津己

PROFILE

ながつか・けいし 1975年生まれ、東京都出身。1996年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役をこなす。2008年には文化庁新進芸術家海外留学制度にてロンドンに1年間留学。近年は積極的に外部作品の演出にも携わり、2011年に新プロジェクト「葛河思潮社」を立ち上げるなど活躍の場を広げている。2012年9月には葛河思潮社第二回公演『浮標』(作:三好十郎)の演出・出演が控えている。
阿佐ヶ谷スパイダース
葛河思潮社


TICKET

『南部高速道路』
 6月4日(月)〜24日(日)
 シアタートラム(東京)
 ※6/4(月)・5(火)はプレビュー公演。

公演・チケット情報



INFORMATION

葛河思潮社 第二回公演『浮標』
 9月20日(木)〜30日(日) 世田谷パブリックシアター(東京)
  ※10/6(土)〜8(月)大阪公演、10/13(土)〜14(日)仙台公演、
   10/20(土)新潟公演あり。
   チケットは8月11日(土)一般発売開始予定。

新国立劇場演劇『音のいない世界で』
 12月〜2013年1月 新国立劇場 小劇場(東京)



2012.06.05更新

今週のこの人 ラインアップ

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