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――そうなると『遭難、』の再演はどうなるんでしょうね。

「やっぱり、今の自分の感覚と融合させたものを作ると思います。じゃないと、自分がまっさきにつまらなくなる。性格的に、こういうことやってる自分って嫌いだなって思った瞬間に冷めちゃうんですよ。良い意味で、遊びながら作りたいな」

――単に棘のあるだけのものには興味が薄れてきましたか?

「少し前までは牙とかエッジの部分って武器だと思ってたんですけど、今はどっちかというと荷物だなって気がしてますね。むしろそれを手放しちゃったほうが、より純粋に危ないものが書ける気がして」

――確かに、『嵐のピクニック』には背筋が凍るような、純粋な狂気がありますね。

「でも、あの作品には牙もエッジもないでしょう? だから、むしろこれまでは牙やエッジがあったがゆえに、中途半端に安全なものになってたかもしれないって思うんです。今まで、それにとらわれていたが故に行けなかった場所があるなって」

――『嵐のピクニック』で自由になれたのは何故でしょうね?

「これ、自分のためだけに書いたんです。人がどう思うかとか何を期待しているかは一切考えずに、自分が書いていて楽しいもの、10代の頃に読みたかったものを書いた。それも、全部ボツにしょうっていうくらいの気持ちで。で、私はとてもいいと思うけどみんなはどうだろう?って思っていたら、反応が良くて。“あ、私がとらわれていたんだ”って気付きましたね。悪意を書くのが得意っていうのは呪縛みたいなもので、昔はその反動で善意を書こうとしたこともあったけど……」

――ホームドラマ風の舞台『偏路』がまさにそうでしたよね。でも、『嵐のピクニック』は自由すぎてもはや善悪の彼岸にあるというか……。

「善とか悪っていうところじゃない、その彼岸にたまたま行けた。とっても本質的なものがあると思うし、それに較べると性格の悪さとか悪意って表面的かなとも思う。だから今は、舞台にも『嵐のピクニック』で得た自由さを流用したいって思ってるんですよ。それができたらもう……」

――それ怖いですね。怖いというか怖いものなしというか……。

「想像するだけですごいでしょ?(笑) 舞台でそれができたらすごいと思うし、絶対やってみたいんですよね!」

Text●土佐有明 Photo●源賀津己

PROFILE

もとや・ゆきこ 〈劇団、本谷有希子〉を主宰する劇作家/演出家であり、小説家としても『ぬるい毒』で野間文芸新人賞を受賞。エッセイも執筆する。永作博美を主役に迎えた『幸せ最高ありがとうマジで!』で53回岸田國士戯曲賞を受賞。今回再演される『遭難、』は本谷が最年少で鶴屋南北戯曲賞を受賞した代表作。
劇団、本谷有希子HP


TICKET

劇団、本谷有希子
『遭難、』

 10月2日(火)〜23日(火) 東京芸術劇場 シアターイースト(東京)
 10月27日(土) まつもと市民芸術館 小ホール(長野)
 11月2日(金)〜4日(日) ABCホール(大阪)
 11月6日(火) 北九州芸術劇場 中劇場(福岡)

公演・チケット情報



『東京福袋』
〈芸劇+トーク・作家リーディング『自作自演』〉
 西村賢太×本谷有希子

 9月8日(土)19:00 東京芸術劇場 シアターウエスト(東京)

公演・チケット情報



INFORMATION

【BOOK】
『嵐のピクニック』
講談社 1365円



2012.09.04更新

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