ロロは平均年齢24.4歳の超フレッシュな劇団。東京芸術劇場の企画『20年安泰。』や『フェスティバル/トーキョー』の公募プログラムに選出されるなど、賞賛も批判もひっくるめて演劇界の注目を集める。その主宰であり、全作品を作・演出する三浦直之は、小説、映画、マンガ、アニメなど、様々なジャンルのサブカルチャーを愛してきたという。それら先行作品を異種交配的にサンプリングして、ポップで切ない物語を爽やかに描き出していく。その斬新な創作手法や、最新作『LOVE02』への手応えを聞いた。
――今回の『LOVE02』は、2年前に上演された『LOVE』の台本をもとに作っているそうですね。いわゆる普通の“再演”扱いではなく、“02”というタイトルを付けたのはどうしてですか?
「『LOVE』をもう1回やろうと思って台本を読み返してみたら、恥ずかしくて読めないくらい物語がぶっ壊れてたんです。ただ男の子と女の子が出会って、俺は好きだーっ!て語る、別れる、また出会う、また好きだーっ!て告白する……ってだけの芝居で、え? 俺こんなの書いてたんだと思って(笑)。でも、登場人物たちがあの時持ってた正しさを今の俺はもう正しいとは思えないし、書けもしないけど、もう1回信じてみたいなと思ったんです。“02”という数字を付けたのは、この先もまたやりたい気持ちがあるから。『LOVE』はその時々の俺の恋愛のモチベーションによって変わっていく戯曲だと思うし、単に若気の至りで書きました、ということじゃなく上演したい」
――ということは、『LOVE02』は原点回帰であると同時に、ロロの現在の通過点を示すものでもある?
「目印というか。ほんとに『LOVE』がロロのボーイ・ミーツ・ガールの原点だ思います」
ロロ『LOVE』(2010)より
――ボーイ・ミーツ・ガールというモチーフは、もはやロロの代名詞と言っていいくらい何度も何度も描かれてきたと思います。それも今回でいったんひと区切りにすると聞きましたけど?
「恋って演劇との相性はいいなと思ってますけど、人を好きになる気持ちはそれ自体としてあるから、それを恋愛じゃないものにも応用してみたくて。単にもう恋の話は書かなくて良さそうだぞ、というポジティブな意味もあるんですけど」
――実は結構、友情も描いてますよね。
「やっぱ『週刊少年ジャンプ』への憧れがあるんで、あの“友情・努力・勝利”の三原則に弱いんですよ(笑)。この前ディズニー映画を観てて、あっ、ロロで使ってる基本的なプロットはディズニーと重なるかもなと思ったんです。小さい頃に観た物語のプロットが、ロロの骨組みになってる。たとえばディズニーだったら相棒の小動物的な存在がいますよね。それがロロでは妖精になってたりとか」
――原型にまで遡ると実は『ジャンプ』やディズニー的なものがあったと……。
「ベタな物語が好き、というのはあって、例えば『LOVE02』だと……いや、それはちょっとネタバレになるからやめて(笑)、前回公演の『常夏』でいえば、終盤で突然、野球の甲子園のシーンが入ってくる。あれは地続きな物語から瞬間的にヒュッと飛ばしたいんですよ。それも俺が甲子園を物語の中に無理矢理入れるんじゃなくて、置いておいた甲子園に物語がグッと引き寄せられる、そういう状況を作っていきたい。つまり物語が引き寄せられたり離れたりするような、そんな磁石のようなものを散りばめておきたいんです」
――戯曲の中にいろんな磁石を置いていくと。ユニークですね。
「『常夏』で、どんどんこれからそういう方向で作っていけそうだな!って手応えがあったから、それを押し進めてみようと思って。今回は特に、初演の『LOVE』の台本があるから、プロットの骨組みは完璧に存在してて、物語全体の流れを共通認識として役者たちと持ててるから、まずはシーンを口伝えでごちゃごちゃに作る。そうすると、こことここのエピソード同士はあるアイテムを使うことで溶け合ってひとつになるよね、とか、じゃあその前のシーンはこうなるといいかな、って作ってます。……あとは“見立て”。モノを何かに見立てることによって、イメージが未来の方向にも過去の方向にも、矢印が拡散するように伸びていくといいなって」
――イメージが未来や過去に拡散するというのは?
「たとえば『常夏』でボツになったアイデアなんですけど、風呂場があって、それが銭湯に見えるよね、って見立てた瞬間に、セバスチャンが銭湯を掃除しているように見えてきたり、その後ろに立っている脚立が富士山に見えるぞ、とか。見立てた瞬間に、別にその人たちは変わってないのに、観ているほうの意識がグッと変わってくる。その変化が物語に影響してくるような作り方をしたいんです」
――あ、なるほど。なかったはずのその人の背景が、急に捏造されて浮かび上がってくるような?
「そうです、そういう感覚が『常夏』にあったので、これをもっと物語を駆動させることに運用できるかなと」
――よく探偵みたいなキャラクターが登場して、いろんなものを強引に見立てて物語を展開していきますよね。そもそもキャラクター造形というか、ネーミングセンスがいいなっていつも思いますけど。
「名づける感覚は、高橋源一郎さんの小説の、あのネーミングセンスとか」
――「中島みゆきソング・ブック」的な(笑)。
「そうです(笑)。あと探偵は舞城王太郎の小説にも影響を受けてるかなとは思いますね。やっぱ何かに名づけた瞬間の、一瞬何かがウッて浮かぶ瞬間を作りたいんです。ある言葉がモノに張り付いちゃった時の、そうとも見えるし、そうとは見えない感じというか。たとえば洗濯機をエッフェル塔って名指した瞬間に、お客さんはこれ確かにエッフェル塔かも、と思うんだけど実は当然そうじゃない。でもその信じようとする瞬発力が凄いと思うんです。それは永続はしなくて、ある一瞬しか光らないんだけど、その一瞬一瞬を繋いでいくようなことをしたくて」
――2011年は“夏”をテーマにして、『夏で!』『夏に』『夏が!』『夏も』『常夏』と連続して公演を打っていきましたが、そのコンセプトは?
「“夏”シリーズをやろうと思った理由のひとつは、2010年の後半の『グレート、ワンダフル、ファンタスティック』あたりからちょっと言葉が書けなくなってきてるなと感じてて、これはマズいぞと。だからひとつの縛りを自分で設けてオムニバスを作っていくことで、物語を作りながら同時にリハビリもやっていこうと思ったんです。……あともうひとつは、俺は季節に対して頓着がないんですよね。春は花粉症が嫌だなー、とかいうレベルなんで(笑)。だから夏といっても、フィクションを読む時に感じるような夏。その夏ってなんだろう?というところから考えたかった」
――“夏”シリーズはしかし名前とは裏腹に苦悩している印象も傍目にはあり、いろいろ批判も受けたのではないかと思いますが、でも『夏も』を拝見した時に、三浦さんの中の暗い世界が究極まで底を打った感じもあって、あそこから何か変わっていくような予感がありました。
「あの頃がほんとに一番ヤバくて、とにかく落ち込んでたから。稽古場行ってもずっと30分とか1時間とか黙ったまま、それで休憩して、またダンマリ、みたいなのが何日か続いちゃって、これほんとにいよいよやべえなと」
――登場人物も、片隅でうずくまってる役になってたりとか(笑)。
「出来上がった作品を見たら、あれ、いつものロロっぽくねえぞ……と俺もそこで気づいて、今の俺はこんなにダークになってるんだ、と作品を通して思い知らされた感じです。でもあそこで底を打ったぶん、揺り戻したというか、バン!って何かが吹っ切れた感じはあって。『夏も』は京都公演もあったので、それに向けて思い出し稽古をしたら印象がだいぶ違って見えてきたんで、どんどん作り替えていくうちに脳ミソが復活してくる感覚があったんです。しかも京都で劇団・地点の『かもめ』を観て、それが良かったのも大きかった。地点を観た後に“お前たち、安心しろ、俺はもう大丈夫だ、書けるぞ!”ってみんなに宣言して(笑)」
――それ、大復活じゃないですか!(笑)
「単純に面白いものを観ると元気になるんですよね。あと劇団サンプルも俺にとっては大きな存在で、モノと人との関係が面白いと思う。(サンプル主宰の)松井周さんと初めてお会いした時に黒沢清監督の映画について語り合ったんですけど、今WOWOWでやってる黒沢清の『贖罪』にもすごく刺激を受けてます」
Text●藤原ちから Photo●源賀津己
みうら・なおゆき 1987年生まれ、宮城県仙台市出身。ロロ主宰。劇作家、演出家。2009年、王子小劇場『筆に覚えあり戯曲募集』で史上初入選を果たし、日本大学芸術学部在学中にロロを旗揚げ。様々なジャンルにわたるサブカルチャーへのリスペクトを元に、ハイブリッドで洗練された演出で、ポップで爽やかなボーイ・ミーツ・ガールの物語を描き出す。
ロロHP
ロロ『LOVE02』
2月5日(日)〜13日(月)
こまばアゴラ劇場(東京)