――ではここで、堀北さんの女優としてのキャリアを振り返ってみたいんですけれども。そもそもは中学2年のときにスカウトされたのがデビューのきっかけだそうですが、その頃から女優のお仕事に興味があったんですか?
「いえ、あんまり興味はなかったです(笑)。まだ学校に通っていましたし、そんなに深く考えずにお仕事を始めた、という感じですね」
――演じることを仕事として意識するようになったのは、いつ頃から?
「やっぱり二十歳を過ぎてからかな。年齢を重ねるうちにだんだんと、冷静に周りのことも見られるようになってきて。共演者の方のことも考えながら、自分はどんなお芝居をしたらいいだろうって考えられるようになったり。それまでは、本当に目の前しか見えてなかったですからね。とにかく、がむしゃらに一生懸命やるだけ、みたいな感じで」
――責任感をもって仕事に臨むようになった、ということですね。
「そうですね。たとえば、映画でもドラマでも、それこそ舞台でも、何かひとつの作品を私が純粋に観客として見たときに、楽しくなったり、元気になったり、何か感情を動かされるわけじゃないですか。そういう感動を、今度は自分が演じる側にまわったときに、できるだけ多くの人に与えられたらいいなって思っているんです」
――それは、堀北さんが仕事をするうえでのモチベーションに繋がっている?
「ええ、そうだと思います。今回の舞台にしても、お客さんにすっきりした気持ちで帰ってほしいし、来てよかったって思ってもらいたいですし。それと、ちょっと話は変わりますけど、私はいつも、できあがった作品を見るのがすごく楽しみなんです。それもモチベーションのひとつですね」
――自分が携わった作品が完成した、という達成感が得られるわけですか。
「いえ、それはいろいろですね。『私もよく頑張ったな』って思うときもあれば、後悔ばかりが残るときもあるし(笑)」
――ご自身の出演している作品も、客観的に見ているんですね。
「さすがに撮影した直後は、なかなか客観的には見られませんけどね、『あのシーンは大変だったな』とか、いろいろ思い出しちゃうので。でも、ふとしたときに何年か前のドラマなんかを見返すと、普通に視聴者の目線で見ることができて、ものすごく面白かったりするんです(笑)。この前も、『ALWAYS(三丁目の夕日'64)』(2012年)がテレビで放送されてるのを見て、普通に『いい話だなぁ』と思いましたから(笑)。『あぁ、六ちゃん(註:堀北が演じる星野六子)、結婚しちゃうんだぁ』って、しみじみしたりして」
――(笑)。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズといえば、まさに六ちゃんが象徴的だと思うんですが、堀北さんは、純真無垢なキャラクターを演じることが多いですよね。それだけに世間では“堀北真希=ピュアな女性”というイメージが浸透しているような気がするんですけれども。そうしたパブリックイメージについては、どうですか、あまり気にならない?
「う〜ん、まったく気にならないわけじゃないですけど、あまり意識はしてないですね。だからと言って、悪女を演じてみたいとも思わないし(笑)。仕事を離れたときも、『こういうふうに振る舞わなきゃ』とか、そういうことはほとんど考えないので」
――昨年は『梅ちゃん先生』(NHK)に主演、年末には『紅白歌合戦』の司会という大役を経て、今や“国民的女優”というパブリックイメージも定着しつつありますが。その辺りに対するプレッシャーは感じますか?
「それも、自分の中では特に意識してないんですよ。国民的女優だから私生活を改めなきゃいけないとか、そんなこともないでしょうし。ただ、『梅ちゃん先生』のおかげで、たくさんの方々から声をかけていただけるようになったのは、幸せなことだなって思います。昨日も、あるお仕事で小さい子供たちと一緒だったんですけど、『梅ちゃん先生! 梅ちゃん先生!』って呼んでもらえて、すごく嬉しかった(笑)」
――こうしてお話を伺ってみると、堀北さんはとても自然体でお仕事に臨まれているという印象を受けます。
「そうですか? まぁ、日々の出来事は、嬉しいことも悲しいことも全部、なるべく素直に受け入れようとは心掛けてはいるんですけれど。きっとマイペースなだけだと思います(笑)」
――マイペースも立派な長所だと思いますよ。
「そうなんですかね……。確かに、周りに流されるとよくないな、というのはいつも意識してるんですよね。今回の稽古でも、覚えなきゃいけないことがたくさんあるんですけど、私はどうしても自分のペースじゃないと覚えられない性格で。かといって無理に人に合わせると、結局よくわからないまま進んじゃったりするので、最近は、わからないときは『わかりません』って、その場で聞くようにしてるんです」
――そのほかに、堀北さんが女優としてモットーにしていることはありますか?
「常にベストを尽くす、ということですね。ひとつの作品が完成するまでに、何か月もかかる仕事ではあるけれど、いつでも、その日、そのときのベストを尽くすだけ、というか。その積み重ねが大切なんだと思います」
――女優という仕事のいちばんの難しさは?
「そうですね、自分自身との葛藤、というか……。演じることって、つまり“自分の気持ちじゃない気持ち”にならなきゃいけない、ということだと思うんですよ。落ち込んでるときでも、楽しそうな演技をしなきゃいけなかったり、本当はお腹いっぱいなのに、ひたすら食べ続けなきゃいけなかったり。それが難しい……というか、大変だなって思います、たまに(笑)」
――ちょっと抽象的な質問ですが、堀北さんの思う「いい女優」の定義とは?
「みなさんにワクワクしてもらえる存在、だと思います。作品を見てワクワクしてもらえるっていうだけじゃなく、『あの人、次はこんな役をやるんだ、楽しみだな』って思ってもらえるような、そんな存在」
――これまでに、女優という仕事を続けるかどうか思い悩んだ時期はありましたか?
「うーん……。これはあくまでも私の考えなんですけど、このお仕事って、自分がやりたいと思ってできるものではないと思うんですよ。自分がどんなに、女優を続けたい、いろんな役を演じたいって強く願ったとしても、実際に役をいただかない限り、そんな願いは叶うはずがないわけで。だから、『女優を続けようか、どうしようか』なんていうのは、すごくぜいたくな悩みだと私は思うんですよね」
――子供の頃、なりたかった職業や将来の夢はありましたか?
「小さい頃から、こういう職業に就きたいとか、ほとんど考えたことがなかったですね。ただ、“お母さん”にはなりたかったんです。早く結婚して、子供が欲しかった。でも実際、大人になってみると、まだまだお母さんにはなれないなと思いますね(笑)。自分のことだけでこんなに精一杯なのに、自分とは別の命に対して責任を持つなんて、絶対に無理だなって。やっぱりこの年齢になると、自分の親の苦労も見えてきますし」
――では、そんな堀北さんに敢えてお聞きします。10年後、堀北真希はどんな女優になっていると思いますか?
「あんまり今と変わらないんじゃないかなぁ……。でも、お母さん役とかやってるかもしれないですね(笑)。もちろん今よりは、人としても女優としても、多少は成長していてほしいなとは思いますけど」
Text●泉 英一
ほりきた・まき 1988年、東京都生まれ。2003年に映画デビューを果たし、2005年、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』で注目を集める。同年の映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で第29回アカデミー賞新人女優賞、エランドール新人賞など数多くの賞を受賞。2010年、『ジャンヌ・ダルク』で初舞台を踏む。2012年には、NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』でヒロインを務め、年末の『NHK紅白歌合戦』紅組司会を務める。人気と実力を兼ね備えた国民的女優として活躍の場を広げている。ヒロインを演じた映画『県庁おもてなし課』が2013年5月11日より公開予定。
『二都物語』
東京・東急シアターオーブ
4月3日(水) 〜 4月30日(火)
★『二都物語』特別電話予約
受付期間:4月1日(月)昼12:00 〜 4月7日(日)23:59
受付番号:0570-02-8852
※予定枚数に達し次第、受付終了