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倉持裕

――今までも幅広く外部の公演の作・演出を手がけているイメージがありますが、自分のテリトリーやジャンルを広げていくというのは、かなり意識的にされていることですか?

「ジャンルを広げたいという気持ちは確かにあります。未知のジャンルからは緊張感をもらえるから。有名な俳優とやる楽しさも同じかもしれない。あの、総じて身にまとってる緊張感に触れたいっていう……。たとえば昨年『ヴィラ・グランデ青山』でご一緒した山田優ちゃんは初舞台だったし、当然ぎこちない部分もあったけれど、そんな技術的な巧拙とは無関係な魅力があった。名前があればあるほど、失敗した時のしっぺ返しがでかいし、その責任感をすごく背負っている。なんていうか、笑顔の裏のヒリヒリした感じ……そういう危ういものを抱えた人を見てるのが好きなんですよ、すごく」

――劇団のこれからについては、どう考えていますか?

「作品作りに対しては毎回すごく楽しいし前向きな気持ちでいるんだけど、劇団というものに対してそんなに前向きなことが言えないかもしれない……。ずっと言われているけど、価値観の多様化でみんなの嗜好がバラバラになってるじゃないですか。もう動員が倍々に増えてくなんてこともないだろうから、僕らが学生の頃のように演劇が盛り上がって劇場の前に長蛇の列が、という幻想をいつまでも抱き続けてちゃいけないとも思う。なんとか取り戻そうって気持ちは何年か前までは持っていた気がするんです。でも、やっぱり抗えない部分はあって、今は徐々に時代を受け入れつつある。そうすると、やっぱり劇団というものの存在意義を考えちゃうんですよね。今、小さな劇場……いや、劇場ですらない場所でゲストや有名人を出すわけでもなく、そこだけでしか通用しないことをやって、大きい場所に出ていこうとしない若い劇団がいるじゃないですか。そのことについて、一時期は僕も批判的な目を持ってた。でも今は、さすが若いだけあって敏感なんだなって気もしてるんです。それが時代に対する素直な反応かもしれないと、ある正しさも感じちゃうんですよね」

――そんな中でどうしていこうか、今、考えている状況?

「そう、自分はどうするか、と……」

――では、今年40歳を迎える作・演出家の倉持裕個人としては、どうなっていきたいですか?

「僕は古い考えがあるんでしょうね。わりとマッチョな考え方で、もっとデカいところでやりたいと思ってる。劇場自体も大きいほうがいいし企画自体も大きくて予算がいっぱいあったほうがいいし。そこで自分なりに派手なことをしたい。広く広く、広げていったほうがいいと思うんです。大きいところを見ておいて小さいところもやるほうがバランスもいい。ただただ上に登りたいんじゃなくて、大きいところを知ったうえで小さなことをやることで、返ってくるものが両方にある。こじんまりとしたところでちまちま実験を繰り返して、よしこれが面白いぞというのを上に持って行って大勢に見せる、という活動を続けていきたい」

――海外への興味はどうですか?

「『ワンマン・ショー』のリーディングを2回、ミネアポリスでやってくれたのは経験としてすごく面白かった。ただ、僕自身もそうなんだけど、日本の演劇界って海外でどう認められても“それはそれ、これはこれ”という感じであまりピンと来ないところもある。だから、海外での活動って、自分の興味や喜びを感じるところと少し違うかなっていう気もしてるんです。海外で活動するってことが、日本での活動と地続きじゃないんじゃないかと。変な話ですよね、日本みたいなちっちゃなところでせこせこやっている方が自己満足で、海外何か国も行ってるほうが広い活動のはずなのに、日本にいると海外でやるってことのほうが自己満足に映ってしまう……」

――国内で動員が増えて行かない中で、海外に活路を求める若い劇団が増えている気がします。

「知り合いの劇作家が“日本で理解されないからって海外に行くなんて”と腹を立てていましたね。僕もその意見はすごくわかる。でも、日本の人が演劇を観てくれないのなら海外に出るというのもまた、若い人たちならではの率直な反応なんだって気もするんです。ただ、さすがに許容できないところもあって……すごいですよね、一部の若い作・演出家たちのクールさ。自分の表現や作家性を打ち出すために役者を隷属させているという感じがする。いや、確かに昔から“役者はコマだ”と言ってはばからない作・演出家はいたけど、実際その裏には愛情があって、そのコマが売れていくことがあった。でも最近目にする、はみ出す者は許さないような作風の芝居に出続ける俳優たちは、その後どうするんだろう? 」

――倉持さんが以前、セゾン文化財団に寄せていた文章に書かれていたように、観客側も、観るジャンルが狭まっていますね。ある系統の芝居を観る人は、他の劇団には手を出さないという傾向が強まっている。

「そうなんですよね。そこをもっと観て、比べてもいいんじゃないかと思う。さっき“大きなところでやりたい”と言ったのは、作る側として、大きい場所から見るからこそ見える小さな場所というのがあるからなんです。狭いところだけでやってたら、自分たちのことも見えなくなってくる。観る側も自分が愛しているジャンルが本当に面白いのかを知るために、それ以外のいろんなものを観てほしい」

――有名人が出る大きな公演と、自分の劇団や小さな企画を並行してやっていくことでふたつのジャンルをつなげる。それは観客にとっても新たなジャンルを知るきっかけになると思います。両方をつなげる倉持さんのような存在が、今、必要なのでは?

「そうですね、じゃあそうしましょう。40代、別のジャンルをつなげることを目指してやっていこう」

――大きいところと小さいところの橋渡しといえば、有名女優と小劇場劇団員を結婚に導いたという実績もありますね(笑)。

「本当だ。そうですよね。今のところまったく誰からも賞賛されてないけど、鈴木砂羽さんとうちの劇団員の吉川純広のふたりは僕が出会わせたわけですから(笑)」

倉持裕

Text●釣木文恵 Photo●源賀津己

PROFILE

くらもち・ゆたか 1972年生まれ、神奈川県出身。1994年、俳優として岩松了プロデュース公演『アイスクリームマン』に参加したことがきっかけで、岩松了に師事し執筆活動を開始。2000年、主宰・作・演出を務める劇団『ペンギンプルペイルパイルズ』旗揚げ。2004年には『ワンマン・ショー』で第48回岸田國士戯曲賞を受賞。劇団の活動のほかに、外部公演での作・演出、テレビドラマの執筆なども手がける。
ペンギンプルペイルパイルズ オフィシャルサイト


TICKET

ペンギンプルペイルパイルズ
『ベルが鳴る前に』

2月16日(木)〜22日(水)
本多劇場(東京)

公演・チケット情報



INFORMATION

M&O playsプロデュース
『鎌塚氏、すくい上げる』

8月9日(木)〜26日(日)
本多劇場(東京)
9月1日(土)〜2日(日)
サンケイホールブリーゼ(大阪)
ほか名古屋、島根公演あり
チケットは6月上旬一般発売開始予定

M&O plays 森崎事務所 HP



2012.02.14更新

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