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倉持裕

主宰劇団・ペンギンプルペイルパイルズの2年ぶりとなる公演を間近に控えた倉持裕。彼はその作・演出家活動のかなり早い時期から、外部の劇場や制作会社によるプロデュース公演に積極的に参加してきた。劇団公演のなかった2年間にいったい何を考え、どう演劇と向き合ってきたのか。そして思い描くこれからの自分の行く先は……?

――2月16日(木)から始まる『ベルが鳴る前に』には、ゲストとして奥菜恵さんが出演されますね。昨年9月、キャパ50人足らずの小さなライブハウス(六本木・新世界)でたった1日だけ上演されたリーディング公演『官能教育「瓶詰の地獄」』が奥菜さんとの出会いだったそうですが、そもそも『官能教育〜』に奥菜さんを呼んだきっかけは?

「プロデューサーである徳永京子さんから推薦されたんです。最初は無謀じゃないか、こんな小さな企画に奥菜さんほど知名度がある人は呼べないんじゃないかと思った。でも、『これは説得力があるな』とも感じたんです。夢野久作の原作(『瓶詰の地獄』)では、妹に惹かれる兄のひとり語りでずっと物語が進行する。そうして観客の中に“理想の妹像”が出来上がってしまってから舞台に出てくるというのは、生半可な女優じゃかなりキツい出方なんです。それを奥菜さんがやってくれるのなら観客も納得するんじゃないかと。ダメもとで当たってみたら、原作を気に入ってくれて出てくれました」

――それが『ベルが鳴る前に』のゲスト出演につながったということは、倉持さんの中でもいい出会いであり、納得のいく出来だったということですね。

「もちろんいい出会いでした。ただ、納得のいく出来じゃなかったから今回の公演に呼んだんじゃないかなあ。やっぱりたった3日の稽古じゃ、あそこまでしか行けなかったねというのが、お互いあるんじゃないかと思う。あの限られた条件の中でできる限りのことはやったという気持ちはあるけれど、もう少し長く関わってじっくり稽古したいなあという思いがあったのは確かです」

――ペンギンプルペイルパイルズの本公演は2年ぶりになります。今まででは最も本公演の間隔が空きましたが、これは意識的なものですか?

「両方あります。ひとつは確かに、僕自身が忙しかったというのもある。もうひとつは、定期的に思うことではあるんですが、劇団公演がルーティンになってしまっている感じがしたんですよね。最低年1回は公演を打たなくちゃいけない、そのためには1年前からキャスティングをしなくちゃ、劇団員が5人しかいないからゲストを呼ばなくちゃ……。劇場や制作会社など外部のプロデュース公演でシノプシスを出せ、プロットを出せ、台本はいつまでにあげろ、って追われているのと同じことをやっているなと思ったんです。劇団公演ではもっと、演劇をつくる純粋な喜びというものを感じたい。そんなに利益が出るわけでもないし、学園祭っぽいかもしれないけれど、もう少し純粋なところでやりたいと」

――今まさに稽古が大詰めだと思いますが、2年空けた成果は出そうですか?

「空けた甲斐はあったと思います。僕自身、プロデュース公演とはかなり違う演出のしかたをするんです。商業的な責任をとらなきゃ、商品としての体裁を整えなきゃっていう気持ちは、プロデュース公演よりは薄い。その代わり、偏ることができる。均すという作業をあまりしないで、気になるところや好きなところだけをずっとやるという、すごく個人的な演出ができるんです。それで今“ああ、劇団公演ってこうだったな”というのを再確認しているところです」

――では、かなりの手応えを感じているんですね。

「オーディションで選んだキャストも若い子が多いから、力量が足りないところはあるんです。だから結構ちょこちょこ怒ってもいる。確かに“なんでできないんだ!”というストレスは溜まるんですけど、一方で“なんでできないんだ!”と言ってしまえるストレスのなさ! プロデュース公演でそんなふうには言えないですから。いや、言うんだけれども、“なんでできないの? 俺もう帰るぞ”って言い方はできないですよね、さすがに(笑)」

倉持裕

――劇団公演は演出家・倉持裕の思いのままにできるところがかなりある?

「実験っていつも、劇団公演でやるんですよね。それを外に持っていって、プロデュース公演で使う。昨年シアタークリエでやった『ヴィラ・グランデ青山』では、別のふたつの部屋での様子をひとつの空間で同時に表現するという演出に出演者たちも大喜びしてたし、観客からも反響が大きかった。でも、実はあの演出は自分の中で新しいものでもなんでもなくて、劇団でもやっていたことだし、演劇ってそういうことができるものだと思って、何の抵抗もなく書くわけです。劇団で試行錯誤しているから、その演出の効果がわかったうえで安心してプロデュース公演に持っていける。『ベルが鳴る前に』でも、そういうことがいくつかあります。また新たな引き出しがひとつできたような」

――逆に、プロデュース公演で得たものを劇団公演に活かすということもありますか?

「ありますね。ただ、それは手法ではなく、大衆性とかサービス精神とか。一般の観客とはどういうものかを知ることや、観客に対する優しさや親切心を出す、ということはプロデュース公演でやっているかもしれません。あとは、いかに感情的になることなく自分の望むように役者を動かすかという演出。これは本当に個人的な価値観で、他の人はとっくにできていることなのかもしれないけれど、難しい役者が思うように動いたりすると僕はうれしいんですよ。妥協はなるべくしないという前提で、それでも俳優と険悪になる局面が減ってきたりすると、演出家としての自分の成長を感じるという……“おい、お前なかなか頑張ってるぞ”と自分を少しだけ褒める(笑)。……劇団員とか、自分とツーカーの人とだけやっていくんだという演出家だったらそんな技術はいらないけれど、僕はやっぱりいろんな俳優とやりたいから」

――今年はもうひとつ、昨年の『鎌塚氏、放り投げる』の続編『鎌塚氏、すくい上げる』が8月に控えていますね。田中圭さん、満島ひかりさんらのキャスティングも魅力的です。

「満島ひかりちゃんは『ネジと紙幣』(2009年)のとき、オーディションで選んで出演してもらって以来なんですけど、その間に一気に人気俳優になった。久々に会えるのが楽しみです」

――『鎌塚氏、放り投げる』はドタバタコメディでしたが、続編もそうなりそうですか?

「『〜放り投げる』の公演は5月だったから、まだ世間がどんよりしていた。あの時観客は何が観たいかといえば、重いテーマのものじゃなく単純なコメディだろうと。パート2というのはやったことがないけれど、もっと派手にしよう、さらに大きくしようとするとたいがいコケるじゃないですか。『ダイ・ハード』も続編で舞台を飛行機にしちゃって、また別のビルの中でよかったのにって思うとか(笑)。この芝居は、何か新たな試みをとか、作家性を前面に打ち出してみたいな気持ちはあんまりない。サービス精神を第一に持ってやりたいんです」

Text●釣木文恵 Photo●源賀津己

PROFILE

くらもち・ゆたか 1972年生まれ、神奈川県出身。1994年、俳優として岩松了プロデュース公演『アイスクリームマン』に参加したことがきっかけで、岩松了に師事し執筆活動を開始。2000年、主宰・作・演出を務める劇団『ペンギンプルペイルパイルズ』旗揚げ。2004年には『ワンマン・ショー』で第48回岸田國士戯曲賞を受賞。劇団の活動のほかに、外部公演での作・演出、テレビドラマの執筆なども手がける。
ペンギンプルペイルパイルズ オフィシャルサイト


TICKET

ペンギンプルペイルパイルズ
『ベルが鳴る前に』

2月16日(木)〜22日(水)
本多劇場(東京)

公演・チケット情報



INFORMATION

M&O playsプロデュース
『鎌塚氏、すくい上げる』

8月9日(木)〜26日(日)
本多劇場(東京)
9月1日(土)〜2日(日)
サンケイホールブリーゼ(大阪)
ほか名古屋、島根公演あり
チケットは6月上旬一般発売開始予定

M&O plays 森崎事務所 HP



2012.02.14更新

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