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鴻上尚史

――そういえば、最初“封印解除公演”の発表があったとき、“解散”の言葉はありませんでしたね。

「なかったなかった」

――どのタイミングで解散を決めたんでしょう。

「えっと……一昨年に周りからせっつかれて、(2001年の時点で予告されていた2011年の封印解除公演を)やるなら、劇場を押さえるリミットだとか言われて、それで紀伊國屋ホールを押さえたんだよね。でもまだどう転ぶかわからなかったから、長期間押さえることもできず、KOKAMI@networkの公演にスイッチできるぐらいのキャパシティにしたわけですよ。それが結局客席数不足という事態になってしまったわけだけど。で、まず、“一回やるかい?”って一人ひとりと会って話していくうちに、俺もしゃべりながら気持ちが固まっていって、よし、やろうと。それから1年ほど経ってぼちぼちやるよっていう段になって、もう一回具体的なことを話してみると、未来についてそれぞれの考え方があることがわかった。ならば、一回ここで区切りにするよ?っていうことを、もう一回全員に伝えたんだよね。それが去年の春だったと思う」

――解散が発表になった日は2011年7月21日で、『ぴあ』最終号の発売日だったんです。

「そうだっけ。象徴的な日だったね、それは」

――ツイッターなどで「第三舞台解散」と「『ぴあ』最終号」が一緒に語られていて、縁を感じました。情報誌『ぴあ』の休刊については、どのような印象を持ちましたか。

「最終号への寄稿に書いたように、すべての情報を等価に扱うっていうことは、当時はそれが暴力的にその否定されていたんだけど、今から思うと、読者にとって選択の幅を広げる優れたシステムだったんだよね。それと、バブルの時にもやっぱり『ぴあ』がちゃんとあったから、いわゆるカルチャーも豊かさを享受できたというか。もし『ぴあ』がなかったらお金をどう使っていいかわからなくて、たぶん文化的な面にあまり回らなかったと思うんだよね。すべてを等価に並べてくれたことによって、演劇だったら、年に2本しか行かないような人が、お金があるからじゃあ1か月に1本これも観てみようかしらとなった。やっぱり『ぴあ』というシステムがあったからだと思うんだよね」

――情報誌の衰退もあって、タコツボ化が加速していますが、それに対する危機感はありますか?

「それぞれの劇団が知恵を使ってそこを突破するしかないかなとは思っています。ただ、演劇業界全体からするとすごく不幸なことというか。もらうチラシでしか他の芝居の情報が手に入らないっていうふうになってしまうと、結局、小劇場の、たとえば20代の劇団の観客は同世代の劇団の情報ばかり、大劇場のショウビズ的な公演に来た観客は同じような公演の情報ばかりしか得られない。それは、観客にとっても演劇界にとっても、お互いに不幸なことだという気がするんだよね。だから『ぴあ』には、Webサイトを使って、昔の誌面みたいに、ダーッと公演情報を等価に見せるなんてことをしてほしい」

――大切なご意見ありがとうございます。

「それが、タコツボ化を阻止することにつながるはずで。前に『SPA!』にも書いたけど、シネコンが実はタコツボ化を加速したというのはあると思う。本来、人間は選びたいんだよね。でも今は情報を網羅した媒体がないから、40とか50ある中から選ぶんじゃなくて、そのシネコンで上映されている10作品ぐらいの選択肢から選ぶことになる。それなのに、"選んだ気持ち"にはなれてしまうんだよね。シネコンで上映されるレベルの作品ってのはやっぱりある種メジャーなものだけでしょう? 自分は一応選びましたっていう自己満足の中で『山本五十六』を観るとか『ミッション:インポッシブル』を観るっていうのは、本当の意味のチョイスじゃないんだよ、と。そんなときに、"ほら、このページ見なさい!"っていうものがあればね。マイナーなものまで含めて、たとえば震災のドキュメントから『ミッション:インポッシブル』までの情報が等価に手に入るっていうのは、大事なことのような気がするんだけどね」

――大千秋楽での「ちゃんと終わらないと、ちゃんと始められない」という発言を受けて、“次”についての話をうかがいたいのですが。

「演劇としては、KOKAMI@networkと虚構の劇団を両輪にしながらやっていくんじゃないかなっていう感じですけどね」

――虚構の劇団は、まもなくオーディションを開催しますよね。

「オーディションは毎年やってるんですよ。毎年やるのはね、口はばったい言い方だけど、希望の可能性は残してあげたいっていうか。劇団って、メンバーが揃ったりすると、もうオーディションしなくていいと決めることも可能なんだけど、たとえば高校を卒業したらあの劇団を目指そうという場合、その年にオーディションがないっていうのは、演劇を目指している人たちに対する裏切りじゃないかって気がするんだよね。だから、採用する可能性が少なくても、とにかく毎年オーディションを続けようと。それは第三舞台の時もそうだったんだよね。10年ぐらいオーディションして、結果、採用ゼロだったりもしたんだけど、それはもう僕のポリシーです」

――4月には、“虚構の旅団”として公演が行われますね。

「この4年間、虚構の劇団には本当にかかりっきりになってきたので、ちょっといい加減お前ら旅に出ろと。それで木野花さんに作・演出を頼んだわけです。俳優を木野さんに渡すというのは、第三舞台からの伝統で」

――女優陣による『朝日のような夕日をつれて−天の磐戸編』(1987年)がそうでした。虚構の旅団があって、次は6月にKOKAMI@networkとして『リンダ リンダ』(2004年初演)の再演が控えています。再演を決めた理由は?

「それはもう単純にね、やりたくてしょうがなかった。単純にブルーハーツが好きだから。だから、これに関しては半分、仕事じゃなくて趣味だろってツッコまれたりするんだけど(笑)、それほどブルーハーツが好きなんだっていうことですね」

――松岡充さんが再び出演します。

「相手役は、最近ミュージカルで活躍中の伊礼彼方くんが演じます。あと、星野真里さん、高橋由美子さん、それから劇団鹿殺しの丸尾丸一郎くんとか。あと初演と同じ役で大高も出ます」

――『リンダ リンダ』の次の舞台は?

「次、それはまだ言えないです。そろそろシノプシスを書き上げて動かさなきゃいけないんですけどね、これは。もう大変だよねえ。まあ相も変わらず、ブツブツ言ってることだけど。やっぱり大きな規模の公演を考えようと思ったら1年半とか2年前にシノプシスがないといけない。でもそんな先の「現代演劇」なんて書けるわけがないっていう矛盾は、相変わらず何の解決もしてないんだよね」

――今書いたことを今上演するという“即時性”でいうと、やはり機動力のある虚構の劇団の公演になってきますね。

「本当にそうです。今のことが書けるので」

――では今現在のことを書く舞台はいつになりますか?

「虚構の劇団に書く新作は、今年中には観られるはずです」

――鴻上さんの今の問題意識はどこに向いているのでしょう?

「今は、いっぱい色々なことを考えてます」

――たとえば、震災後、表現に対する意識に変化はありましたか。

「何ができるのかとか、何をしなければいけないのかとか、考えますよね。ただ、震災があったから、なんかもうこれから先日本はまったく変わってしまったとかっていう人もいるけど、そんなに人間は変わらないと思うんだよね。つまり、震災があったことによって変わることと、震災があっても変わらないことをちゃんと見据えなければいけないと思う」

――物語を作る上でも、ポイントになってきますね。

「今、自分を慰めてくれる、自分を勇気づけてくれる、自分を安心させてくれる物語というものを、人々はより強く求め始めていることは間違いないと思う。広告大賞の審査を務めたんだけど、震災以降の特にテレビのCMは、もう本当に物語系が多いんだよね。ある人生の断面を描くような。『深呼吸する惑星』でも書いたけど、未来が見えないことが間違いなく不安のほうに転んでいる。だからとにかく物語を設定していくっていう。俺が30年前に物語に対して疑問を投げかけたのは、基本的にそれが現実に対して目くらましになっているというか、現実を見えないものにするっていう意味で、物語に対して批判したわけね。それで物語を手放そうということを試行錯誤しながら言い続けた。でも、この30年間で見えてきたのは、人間はどんな形であれ、物語を手放すという物語まで含めて、やっぱり基本的に物語にしがみつくんだということで。ならば、この現実を忘れさせるものではなく、現実の不安をよりリアルに感じさせながら絶望ではなく希望や勇気を語れるような物語こそ、獲得する意味があると思うわけ」

――それが構想中の新作に関するツイッターでの発言、「慰められるものを慰め、癒せぬものを癒すためには、どうしたらいいのか。それをずっと考えています」ということにつながるわけですね。

「そういうことです」

――今後何十年も演劇を続けていくとして、何か夢はありますか?

「……夢はねえ、ウエストエンドやブロードウェイで俺の作品がやられていて、ちゃんと1週間ごとにお金が振り込まれること」

――(笑)。

「本当に(笑)。もうちょっと頑張んなきゃいけない。だから、俺ふだん人生の目標立てたことないんだけど、今年だけは、この1年間で英語を完璧にするっていう目標を立てた」

――すでに習得していますよね、英語は。

「あかんあかん(笑)。稽古場で、この芝居のテーマは?とか、この解釈はどういうことなんですか?とかじっくり話し合ってる時はOKなんだけど、本番直前に演技の指示をすると、"えっ!? 話違うじゃない!だってこの前の話ではさ……"みたいに早口になって、もうダメ。切羽詰まると人間ってものすごい早口になるからね」

――でも、ロンドンでは現地のキャストで『トランス』と『ハルシオン・デイズ』を上演した実績もあって、夢に近づいているのでは?

「いやいやとんでもないです。日銭が入るようにならないと(笑)。というよりも、要は、"海外で公演しました。メモリアルで良かったですね"っていうのはもういいわけですよね。海外において、どこで勝ったか負けたかを判断するかっていうと、どれだけ経済的に成功するかだよね。それでみると、『トランス』の時は基本的には演出料はなかったわけだけど、『ハルシオン・デイズ』の時はちゃんと脚本料と演出料が出た。でも、日本での水準からすると本当に微々たるものなわけだから。次にやるとしたら、ロングランを実現させたい。そうなって初めて同じ土俵に立てると思うんだよね」

鴻上尚史

Photo●源賀津己

PROFILE

こうかみ・しょうじ 1958年生まれ、愛媛県出身。作家/演出家。1981年に第三舞台を旗揚げし、小劇場ブームの中心的存在として時代をリードする。第三舞台は、『深呼吸する惑星』(2011年11月〜2012年1月)をもって解散。演劇を始め、映画、ラジオ、エッセイ、小説等幅広く活動。最新著書は『演技と演出のレッスン』(白水社)。演劇公演としては、6月からザ・ブルーハーツの楽曲を使った音楽劇『リンダ リンダ』を上演(紀伊國屋サザンシアター、他)する他、2012年は「虚構の劇団」としての活動も予定している。
サードステージ公式ページ


TICKET

KOKAMI@network vol.11
『リンダ リンダ』

 6月20日(水)〜7月22日(日) 紀伊國屋サザンシアター(東京)
 7月28日(土)〜30日(月) 森ノ宮ピロティホール(大阪)
 ※東京公演は4/21(土)、大阪公演は5/26(土)に一般発売。

公演・チケット情報



INFORMATION

【BOOK】
『演技と演出のレッスン
 魅力的な俳優になるために』

 白水社 1890円



2012.02.07更新

今週のこの人 ラインアップ

  • 山田和樹
    小澤征爾も実力を認める注目の指揮者。クラシック音楽界が熱い視線を注ぐホープの“今”に迫る!
  • さまぁ〜ず
    2年ぶり、9回目の 『さまぁ〜ずライブ』開催。 稀代のコント芸人が、ライブにこだわり続けるそのワケは?
  • 遠藤保仁(ガンバ大阪)
    10年連続Jリーグベストイレブンにも、代表最多出場記録にも歩みを止めない。稀代のMFの飽くなき向上心に迫る
  • 堀北真希
    あくまでも、自然体。 2度目の舞台に挑戦する“国民的女優”の素顔
  • 藤原竜也
    舞台で演じ続けてきた実体験を、 「人生の蓄積」と呼んで胸に刻む。若き天才の次なる挑戦とは…。

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