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ケラリーノ・サンドロヴィッチ

――2012年の3本のうち、残り2本の話を聞かせてください。2本目は4月から始まるナイロンの新作本公演ですね。『百年の秘密』というタイトルだけが明かされています。

「犬山イヌコと峯村リエが演じるふたりの女性の半生を長いスパンで描くつもりです。高校生ぐらいから、死んでちょっと経ったところまで。友情と呼ぶには複雑な、不思議な関係のふたりの物語。『カメレオンズ・リップ』(2004)の頃に、永作博美と深津絵里のふたりでやってみたいと考えていた企画が元になっています。3本目は年末にとある大劇場でやります。これも内容は地味になるとは思うけど、ちょっとした興行的な仕掛けはあります」

――その3本を終えて2013年が来ると、ナイロンは20周年を迎えますね。

「10周年の時のパンフレットで『20周年は絶対にない』って書いたのに、もう来年なんですよねえ」

――かつてより本公演のペースが落ちている分、ひと作品への力の入れようが強くなっている気がしますが。

「『わが闇』(2007)の時ぐらいから、毎回これで本当に最後かもしれないと思って書いています。再演で終わりたくないという気持ちはあるんですよね。でも、今後、純新作は2、3年に1本ぐらいのペースになっちゃうんじゃないかと思う。『2番目、或いは3番目』(2010)のとき、本当に死にそうになったんです。台本ができたの、劇場入りしてからでしたから。プロデューサーが全員をロビーに集めて、初日を延ばすか延ばさないかという話をしていて、その10分前に長ゼリフを渡された某俳優が顔面蒼白で、っていう状況(笑)。自分の体力とか集中力とかあるいは才能が、昔みたいになんとか勢いでやっつけられるという状態にはない。僕としては、たとえ初日を延ばしてもいいものを書きたい、でも当然ながらそれは許されざることだという思いもあるわけですよ。そんな迂闊を続けながら年に2本もやったら確実に死ぬ(笑)」

――それは体力・集中力だけでなく、OKと思えるハードルが高くなっているせいでもあるんでしょうか?

「一番の理由はそれですね。ボツになる原稿の量が、昔の10倍ぐらいになってる」

――たとえば同年代の松尾スズキさんは、今年久々の新作を書かれます。松尾さんをはじめとしたまわりの演劇人の動向は気にされますか?

「松尾さんが書かないとさみしいですよね。気になるというより、松尾さんとか平田オリザさんとか、あの辺の同世代の人たちとはともにがんばりたいという思いがあります」

――三谷幸喜さんは50歳を迎えた昨年、舞台だけでも新作を4本書いていましたね。

「うーん……。三谷さんは、作家として気になるということはあまりないです。もうなんか、別のところにいるんだなっていう気持ち。三谷さんの方は僕とか松尾さんを気にしてくれてるようですけど。その、気にされてる感じがすごく癪に障るねって松尾さんと以前話したんだよね。なんで大ヒットメーカーがインディーズの人間を気にするんだよって(笑)」

――この記事を読んだらまた気にされるかもしれないですね(笑)。そういえば、映画やテレビドラマの仕事もしばらく間が空いていますが。

「作りたいという思いは常にあります。でも、映画はやりたいからやれるってものじゃない。面白いかつまんないかじゃなくて商売になるかならないかの世界なんです。僕が演劇をやってて本当に幸せだなと思うのは、百何十本やっていて、つまんないからとかお客が入らないからとNGになったことが今まで一度もないってことです。台本の書き直しを命じられたことは皆無。この自由度は他のメディアでは考えられない。ただ、映画ってすごく健康的なんですよね。稽古場に閉じこもるんじゃなくあちこちに行って、シーンを消化していく。偶然でも一度撮れたらもうできなくてもいい。演劇は、たとえ今日広岡ができても明日できるかはわからない。あと、テレビもやりたいんだけどね。テレビ朝日の金曜深夜枠でくだらない連ドラとか、息抜きに書いてみたいなと思うんだけど、時間がね……」

――音楽活動も活発ですね。ケラ&ザ・シンセサイザーズの活動も続けられていますし、今年はソロアルバムを出される予定だとか。

「24年ぶりに。ずっと作りたかったんですけど、待っていてもこれ以上作りやすい状況になるとも思えないので、合間合間にレコーディングをして行こうと決めました。去年1年かけて、Twitterを通じてジャズ畑のミュージシャンと知り合ったりもしたので、その人たちにも手伝ってもらってケラ&ザ・シンセサイザーズでやっている音楽とはまったく異なるタイプの音楽をやりたい。40人ぐらいのビッグバンドから、小編成のピアノと歌だけみたいなものまで幅広くね。ちょこちょこ録っていくから、50歳になるまでに中身ができあがればいいなっていうぐらいのつもりでいます」

――ジャズをやろうとされているのは、やはりジャズ・ミュージシャンだったお父様の影響ですか?

「24年前に『原色』というアルバムを秋元康さんのプロデュースでつくらされた時、当初はA面を歌謡曲で秋元さんプロデュースにして、B面をジャズで自分でプロデュースするという話になっていたんです。それが結局紆余曲折、つまらない大人の事情で全面秋元さんプロデュースになった。秋元さんっていま客観的にみると天才的な商才の持ち主だし、僕の映画『グミ・チョコレート・パイン』の中で彼を悪く言った時もラジオに呼んでくれたりして、なんて懐の深い大人だろうと尊敬すらしてるけど、当時はレコーディングスタジオでいくら歌詞を待っていても来ないし、腹が立って仕方なかったな(笑)。当時、親父はもう入院していたんです。その翌年に亡くなるんですけど、できたサンプル盤を病院に持って行った日のこともよく覚えてる。自分も親父がやっていたようなジャズをやって聞かせたかったのに、実現できなくてすごく悔しかった」

――ではその思いを24年ぶりに遂げるということですね。

「とはいえ本格的なジャズボーカルなんてとてもとれないので、いってみればエノケンとか二村定一みたいな、なんちゃってジャズ、ニューウェーブジャズみたいなことができればいいなと思ってます。ソロの企画はほかにも、ナゴムレコードでリリースしたいろんなバンドの歌を、元レーベルオーナーである俺がカバーする『ケラsingsナゴム』とか、いろいろあるんですよ。多分一枚目にそっちをやれば、宣伝もしやすいし売れると思う。でもそれもなんかシャクだから、ジャズの方を先に出したいんです(笑)」

――冒険的な3本の芝居のほかにソロアルバムのレコーディングもあって、今年はまた忙しくなりそうですね。

「僕、あんまり酒を飲みに行かないから、みんなが酒飲んでる間にレコーディングするっていう感覚ですよ。みんな、なんであんなに酒を飲むんだろうか。1日に5時間も6時間も居酒屋で過ごすなんて、もったいない。忙しい時期にシンセサイザーズのレコーディングをしたり、隔月の犬山とのトークライブINU-KERAをやったりしていると、スタッフが不安そうな顔をするんです。でも、酒飲んでるやつらに比べれば大した時間じゃない。なんかそうやって、最近は人生の時間の使い方を考えてますね。この前、鈴木慶一さんと対談した時に『もう残りがないから』って言ってたけど、僕も似たようなもんだろうなって思うんですよ。だから残り時間を考えて使わないと」

ケラリーノ・サンドロヴィッチ

Text●釣木文恵 Photo●源賀津己

PROFILE

ケラリーノ・サンドロヴィッチ 1963年、東京都生まれ。ニューウェーブバンド・有頂天のフロントマンとして、また自主レーベル・ナゴムレコードの主宰として名を馳せる。1985年立ち上げの劇団健康を経て、1993年にナイロン100℃を旗揚げ。2003年『1980』で映画監督としてもデビュー。以降、劇作家、演出家、映画監督、ミュージシャンと幅広いジャンルで活躍している。



TICKET

M&Oplaysプロデュース オリガト・プラスティコVOL.5
『龍を撫でた男』

2月3日(金)〜12日(日) 本多劇場(東京)

公演・チケット情報



INFORMATION

ナイロン100℃ 38th SESSION
『百年の秘密』

4月22日(日)〜5月20日(日) 本多劇場(東京)
※2月25日(土)チケット一般発売。他、地方公演あり。

ナイロン100℃HP



2012.01.24更新

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