TOP > 今週のこの人 > 岩井秀人

岩井秀人

 2011年末には4人の演出家による共作『四つ子の宇宙』に参加し、現在、主宰する劇団・ハイバイの新作『ある女』の公演を控えている岩井秀人。『ある女』では作・演出の他、主人公・タカコを菅原永二とダブルキャストで演じるなど、相変わらず俳優としても存在感をアピールしている。自身のひきこもり体験を作品化した代表作『ヒッキー・カンクーン・トルネード』を韓国で上演するなど、様々なトピックのあった2011年を振り返ってもらいつつ、『ある女』の主題についても話を聞いた。

――今回の『ある女』はハイバイへの書き下ろしという意味では、『リサイクルショップ「KOBITO」』以来、約2年半ぶりの新作です。元々ハイバイは再演率が高いですが、これは意図的ですか?

「意図的ですね。まったく誰にも見せたことのない作品を作って出すのは、実験の過程を見せるみたいで、ちょっと勇気がいるんです。逆に、一回公演をやると、それがお客さんにとってどういう物語なのかが分かるから、再演ではその反応を踏まえて俳優の演技を考えられる。言葉は悪いけど、アンパイな台本を元にどれだけ面白くできるかが再演の醍醐味なんです。それは、そもそも自分が俳優だからだと思うんですけど」

――元々、俳優がやりたくて演劇を始めたんですもんね、岩井さん。書くことより演じることが出発点としてあるんでしょうね。前田司郎さん、江本純子さん、松井周さんと作り上げた『四つ子の宇宙』でも、ご自身が俳優体質だと自覚されたようですが。

「『四つ子』をやってみて、ああ、やっぱり自分は俳優なんだなって思いましたね。例えば、前田(司郎)君と較べるとそれがよく分かる。前田君って物語の埋蔵量が異様に多くて、その引き出しを必要なところですごい速さで開けられるんですね」

――前田さんのほうが作家気質だと思います?

「そうです、そうです。例えば、他の3人がこのパートはこういう風に演じてっていうと、前田君は"え、なんで? そこで普通そういうこと言わないでしょう"って反対してくる。それは作家だからなんですよね。俳優って基本、演出家の言うことにイエス、プラスアルファで答えるけど、前田君はそうじゃない」

――ちなみに『四つ子』は30代の演出家4人による公演でしたが、最近はひと回り下の年代の演劇人が台頭してきていますよね。世代間での演劇観の差は意識しますか?

「下の世代に関しては、ネアカだなって思いますね。人生に対してすごくポジティヴというか。快快はもちろん、ろりえとかマームとジプシーを観てもそう思う。あとは皆、演劇に限らず、人前でなにかをすることに対して引け目がないですよね。でも、前田君なんかは逆で、何かを堂々と演じることを肯定しないところから始まってる。公演でも、1時間なら1時間ずっと照れ続けているような感じがありますよね」

――他に今年は、劇団員全員が作・演出・主演を手掛けるオムニバス企画『七つのおいのり』をハイバイとして上演しましたが、これはどういういきさつで持ち上がったんですか?

「俳優は、(脚本を)書いたことないよりも書いたほうがいいって前から思っていたんですよ。というのも、俳優って、劇団にいると大体ボケてきちゃうから」

――怠けちゃう、っていうことですか?

「そうそう。俳優って劇団にいようといまいと外から声がかかったりするのものだし、そこでどれだけ力を発揮できるかが問われると思うんですよ。でも、怠けてると、自分の領域がすごく広いことを忘れて、段々演出の言うことを聞くだけになってきちゃう。けど、自分で書いて自分で出演したら、嫌でも全責任を負わなきゃいけないですからね。そうするとどうしても領域を広くしなきゃいけないし、それでお客さんに受け入れられた時の財産はすごくでかい。(ハイバイの俳優の)永井若葉は、そういう僕の意見にすごく賛同してくれて、じゃあ私企画してみますっていうところから始まったんです」

ハイバイ『七つのおいのり』 (C)曵野若菜

ハイバイ『七つのおいのり』 (C)曵野若菜

――岩井さん、俳優ののびしろを信じてますよね。

「そうだと思います。強引にやってみると結構台本って書けちゃうんだよっていうのを分かって欲しかった。自分が書いてみることで人の台本の見え方も全然違ってくるし」

――じゃあ、将来的には、例えば他の劇団員が作・演出するハイバイの公演があってもいいと。

「全然いいです。(脚本は)僕じゃなくてもいいと思うんですよね」

――役者といえば、2009年末に劇団員が3人増えましたが、あれはどういう経緯で?

「実はあの時、劇団を解散しようと思っていたんですよ。僕は劇団員に領域を広くしてほしいって思ってるけど、自分自身は目の前の作品を作らなきゃいけないからそれどころじゃなくて、イライラしちゃって……。その時に大阪で"劇団とは?"っていうシンポジウムに呼んでもらって、(南河内万歳一座の)内藤裕敬さんと、平田オリザさんとお話ししたんですね。そこで劇団を解散しようと思ってるって言ったら、おふたりとも、つぶすのは簡単だから劇団員を増やしてみなって言ってくれて。オリザさんは細胞の話にたとえてくれたんですけど、10個のうち3つの細胞が変な動きをするとほかにも響くけど、100個の30個がおかしくてもうちそんなにぶれないと言っていて。じゃあやってみようと。要するに、3人のうちひとりが役に立たないとすっごく気になるけど、9人のうち3人が怠けてても、残り6人と結託できるってことですよね。で、実際やってみたらそうで、あいつ働いてねえなあっていうのがそんなに気にならないんです」

Text●土佐有明 Photo●星野洋介

PROFILE

1974年生まれ、東京都小金井市出身。2003年にハイバイを結成。〈東京であり東京でない小金井の持つ、大衆の流行やムーブメントを憧れつつ引いて眺める目線〉を武器に、家族、引きこもり、集団と個人、個人の自意識の渦、等々についての描写を続けている。2007 年より青年団演出部にも所属している。


ハイバイ公式HP


TICKET

ハイバイ『ある女』
1月18日(水)〜2月1日(水) こまばアゴラ劇場(東京)
2月4日(土)・5日(日) 七ツ寺共同スタジオ(名古屋)
3月24日(土)・25日(日) 西鉄ホール(福岡)

公演・チケット情報





2012.01.17更新

ページTOPへ