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蓬莱竜太

──お聞きしていると、蓬莱さんは作劇の際に何がしかの縛りを与えられて作品を書くことに抵抗がないというか、割とお好きなんですね。

「嫌いじゃないです。劇場とかプロデュースの形態にもよりますけどね。新国立劇場だと、キャスティングというよりもその年のプログラムのテーマみたいなものがあって、それに沿わなきゃいけない。でも劇団公演も、うちは主宰が客演を決めて、そのキャストに合わせて僕が書いて演出するという流れなので、それもまた縛りなんです。過去には自分では思いもつかない役者さんに来ていただいたりとかしましたが、その人に対峙していく中で“こんな長所があるんだな”“こうすると活きるんだ”と得る発見もある。ずっとそういうやり方でやっているので、条件がまずあるという状況には慣れているんでしょうね」

──与えられた条件の中で自分のやりがいを見つけていく。批判的な意見も冷静に受け止める。そういう姿勢は「ザ・プロフェッショナル」という感じで素晴らしいと思う一方、どこでカタルシスを得ているのかな、とも考えてしまいますが。

「カタルシス……ですか。でも、どう受け取られてもいいってことじゃないですよ。観る人に渡したいものはもちろんあって書いていて、それに対して、相手が正当な量を受け取ってくれない場合は、仕方ないけど残念だなとは思います。表現してる側が正しいというわけではないですから」

──その受け渡しについて、頭ではわかっていても「自分はこういう形で、この量で、この温度で渡したい」とこだわって、その低い確率を実現するために躍起になっている劇作家、演出家の方はとても多いですよ。そういう方は、理想が達成されたらカタルシスを得るじゃないですか。蓬莱さんのように冷静に「なんでもありだよ」と構えている人は少ないし、ストライクゾーンが広い分、どこで「当たったー!」と感じるのかと。

「なるほど。そう言われると“あら、どうしよう”って思っちゃいますね(笑)。でも僕の場合、すごく大事なのは、自分にとってその作品が何であったかという点なんです。実はお客さんに渡す前に、僕には収穫があるんです。作品づくりの途中、ホンを書いてる時に。自分なりに何かに挑んで、それに対する手応えが感じられるというか。そういう作業があまり上手くできなくても褒められた作品もあるし、作業中の収穫はたくさんあったのに評価が低かった作品もあるんですけど、結局、評価を素直に“ああ、そういうふうに感じるんだ”と受け取れる状態になれるかどうかは、つくっている過程に比例するんですよね。自分が書き切れたかという実感が、現段階ですけど、カタルシスとしては大きい気がします」

──その収穫についてもう少し詳しく教えてください。いつ、どんなふうにそのギフトはやってくるんですか。

「作品によるんですけど、外部の仕事は特に、ひとりで書いている時じゃなくて演出家や制作に相談したり、いろんな人の力を借りて脚本をつくり上げている時です。その時間は豊かですよね。そうやって僕が書いた脚本をもとに、演出家が稽古場で役者といろんな話をしているのを見る時間とか。やっぱり、お客さんにある豊かな時間を渡すためには、こっちの作業でも豊な時間を導入しないとだめだと思います。それが出来る設計図が書けるかどうかが、作劇としては大事な気がするんですよね」

──もし今、何の条件も付けられない、フラットなところから作品をつくっていいって言われたら、何を最初の起点にしますか。

「何だろう……やっぱり日常の(自分の)興味かなぁ。今だと、情報ですね。僕の世代から下の人間は、あふれる情報を浴びながら生まれ育ったじゃないですか。それぞれの好きなフィクションを選んで生きられるような情報が用意されていますよね。でも、それは人がつくったものである以上、本当の自分は何なんだろうという疑問に帰らざるを得ない。そういう情報が一切なかった時の自分はどんな人間なのか、どんな人を愛するのか、何をしゃべるのか。本来あるはずの本能的なものとか血統とかはどこから出てくるのか。そういうことに今すごく興味がありますね。実は今度、PARCO劇場でやる『ハンドダウン・キッチン』という作品にもそういうことは入れようと思っています」

──具体的にはどんな話になりそうですか。

「レストランの話なんですけど、そこのオーナーシェフが実は料理ができないんです。ただ、物凄く(情報の)パッケージが上手い。“この店はおいしい”と僕たちが言う時って、まずネットで調べて、そこに書いてある言葉をある程度信じて、労力と一定の金額を払って、その結果、“この店はおいしい”という結論に結び付けがちじゃないですか。そういうことを逆手にとってお金を儲けている男性が主人公です。実感として、ネットのランキングで一番おいしい店になるよりも、街で一番うまい料理屋になる方が難しいと思うんです。そのあたりをちょっと直接的にやってみようと考えています」

──最初に「芝居によって有効な作風やテーマを選ぶ」とおっしゃっていましたが、今おっしゃった興味がベストな形で反映できるのが、今度のパルコの公演ということですか。

「そうですね。じゃあどうしてそれをそこでやるのか、と言うと、パルコという劇場が、僕らがホームグラウンドとしている小劇場のお客さんとはまたちがったお客さんを一定数抱えている劇場だから。芝居に登場させるレストランに来店する人に近い感覚のお客さんが来るんじゃないかと僕は思っていて」

──そこにひとつの重ね合わせ、批評性が生まれると。

「はい。だからこのテーマに関してはパルコでやった方が、お客さんがそれをどう観るんだろうという点で刺激的な気がするんですよ」

──パルコでは脚本提供という形で何作か上演されていますが、作・演出の両方は初めてですね。

「作と演出が分かれているほうが、僕は正しいと思っているんですけどね。そのほうが稽古場で自由に脚本を解釈できるから。役者さんもやりやすいと思う」

──と言うことは、自分が書いた脚本をどう解釈されても、どう演出されても、蓬莱さんは「こうじゃないんだけどな」といった違和感は生まれない?

「そうですね。書いた通りにやるのが一番だったら、それは自分が演出する方がいいわけで、解釈が違うのは当たり前ですから。僕自身、外部で演出だけをやったことが2回あるんですけど、やっぱりやりやすいんです、作家がいないと。“このホンのここが甘いよね。そこをどう埋めていこうか”という話を稽古場でしやすい。“ここをどう埋めていく?”と役者と話をすることは、誰の脚本でもすごく大事なんですけど、自分で書いたものはそこ(距離感)をまず解体しなきゃいけないから、ちょっと時間がかかるんですよね」

──そういう稽古が大事だと感じているのは、演出もお好きということですよね? 蓬莱竜太というと劇作家のイメージのほうが強いですけど。

「最近は演出もおもしろいです。『ロマンサー』に出てくれた石田えりさんがすごくおもしろい女優さんで、気持ちが埋まってないと、恥ずかしくてまったく動けないんです。“なぜこんなことをしゃべるのか”という根拠ですよね。それで、ずーっと話し合うんですよ。“この人にはどういう過去があって、なぜここにいて、こういうことを考えている”といった脚本に書いていない部分もあれこれと。そういう関係からいろんなことを読み解いていって、膨らましていく、すると途端にすごい演技になる。すごいんですよ、その違いが。でも考えてみたら、というか、実際にそうだったんですけど、僕が書いた脚本に関しては自分で埋めてくれるだろうと思っていた劇団員が、実は石田さんと同じタイプだったことが先日わかりまして(笑)。それに気付いたことは、物凄く大きかったんですよね。それまでは“このシーンを成立したように見せるにはどうするか”という稽古だったんですけど、前回からは“この言葉をしゃべるこの人はどういう人間なのか”という話ばかりするようになって。たとえば〈スーパーマーケット〉という単語が会話に出てきたら、それは安いスーパーなのか高級スーパーなのか、買い物してる人はあまり値段を気にせず買っているのか、安いものだけを選んでいるのかといった情報を共有しているかいないかで、役者の立ち方が全然違ってくる。そういう細かいことをみんなで話すのが、おもしろくて仕方ないです。そうすると、やってもやっても時間が足りないんですけどね」

──では、仲村トオルさんや江守徹さんたちとそういうディスカッションをしてつくった舞台が『ハンドダウン・キッチン』で拝見できるんですね。

「その予定です。そういう稽古をするためには、何よりも脚本が書き上がっていることが最低条件なので、今、必死で書いている最中ですけど(笑)」

蓬莱竜太

Text●徳永京子 Photo●源賀津己

PROFILE

ほうらい・りゅうた 1976年生まれ、兵庫県出身。舞台芸術学院の同期生・西條義将が主宰するモダンスイマーズに1999年の旗揚げ時より参加し、作・演出を担当。外部での活動も多く、Team申『時には父のない子のように』、フジテレビ『第32進海丸』、松竹『赤い城、黒い砂』、BS-TBS『ポテチ』などの作・演出、『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』『淋しいのはお前だけじゃない』などの舞台版の脚本を手がけている。新国立劇場には2008年『まほろば』(第53回岸田國士戯曲賞受賞)、2010年『エネミイ』を執筆している。
モダンスイマーズHP


TICKET

【作】
新国立劇場演劇『まほろば』
 4月2日(月)〜15日(日) 新国立劇場 小劇場(東京)
『まほろば』全国公演
 4月18日(水) まつもと市民芸術館 実験劇場(長野)
 4月21日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫)
 4月28日(土) シベールアリーナ(山形)
 ※新国立劇場公演・兵庫県立芸術文化センター公演はチケットぴあにて発売中。

公演・チケット情報



【作・演出】
『ハンドダウン・キッチン』
 5月12日(土)〜6月3日(日) PARCO劇場(東京)
 6月5日(火) 福岡市民会館 大ホール(福岡)
 6月9日(土)・10日(日) 森ノ宮ピロティホール(大阪)
 6月14日(木) 愛知県産業労働センター 大ホール(愛知)

公演・チケット情報



INFORMATION

モダンスイマーズ次回公演『楽園』
 11月7日(水)〜14日(水) 吉祥寺シアター(東京)



2012.04.03更新

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