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蓬莱竜太

“脱・物語”の流れが進む若手劇作家の世界にあって、蓬莱竜太は力強い足どりで“正・物語”の道のりを進んでいる。男優だけの劇団モダンスイマーズの座付き作・演出家として、武骨ではあるが人間が愛おしくなるドラマを描き続け、外部の仕事では、人気小説の舞台版の脚本からミュージカルコメディまで、腰の据わったバランス感覚で作品に厚みを持たせる。4月2日に新国立劇場で幕を開けた『まほろば』は、蓬莱が岸田國士戯曲賞を受賞(2009年)した記念の作品。その再演に際し、たゆまない創作の姿勢を訊く。

──岸田受賞作ということで、『まほろば』が代表作と言われがちですよね。「男芝居の蓬莱」と呼ばれていた人が、登場人物全員が女性の、しかも所属劇団に書いたものではない作品でそう言われることについて、戸惑いのようなものはありますか。

「芝居によって有効なテーマや作風を選ぶというのは、ここ何年かはどの作品でも意識的にやっていることなんです。『まほろば』はそのチョイスの中のひとつで、それがたまたま(賞の対象に)選ばれた、という意識が強いですね。演出の栗山(民也)さんから“女性の主人公ってどう?”と提案されて、“だったら思い切って女性だけにしたい”と言ったんですけど、その時はむしろ、“男芝居の”とイメージが固定されるほうに抵抗があったし、せっかく外でやるならモダンスイマーズという劇団ではできないことをしようと。登場人物が女性だけというのは、その最たる形でした」

──とすると蓬莱さんには、普段劇団でやってることが自分にとっての本質で、外でやっていることはサイドBみたいな意識はない?

「ないですねぇ。だって、作品づくりという点から見たら劇団のほうがいびつですよ。ずっと同じ肉体を使って、違う話を次々とつくっていかなきゃいけないんですから──まぁ、それは必要悪みたいなもので、ある時期以降は“劇団として呼吸する”ことがテーマになると思うんですけど──。外部の方が、よりシンプルに作品性みたいなものを追求していけるので、劇団がメインだという意識は特にありません」

──『まほろば』は、実家に帰省中の40代のキャリアウーマンが主人公で、彼女が母親や祖母、妹や姪との衝突や触れ合いを通して、仕事や出産について考える話でした。その中で、妊娠や閉経、初潮など、男性劇作家にとっては扱いの難しい問題を一気に扱っていますが、そうしたものを脚本に採り込む作業は、他の作品のモチーフでも同じですか。たとえばモダンスイマーズの最新作『ロマンサー』では、大正時代の北海道の話でマタギが登場しましたが、知らないことを調べるという点では変わらない?

「最初は同じような意識でした。たとえ同性を描いても、フィクションである限り想像じゃないですか。3分の1ぐらいはそういうつもりで書いていたんですけど、ふと、“女性が観たらどう思うんだろう”と考えて、その恐さに捕われて筆が遅くなった感覚はありました。女性のセンシティブなものに触れるのが主眼ではなくて、もう少し大きな、人間として生を続けて行くみたいなことに重きを置いて書いてはいたんですけどね」

──その恐怖はどう乗り越えたんですか。

「僕も男、演出の栗山さんも男。で、女優さんや女性スタッフに聞いてみようと思ったんですけど、その時、僕の周りでは子供を産んで育てている人が、ほとんどいなかったんです。それで、女性だからわかるという単純なものでもないんだな、と。だとしたら、男である僕が書いて“この女性の感覚はちょっとおかしくない?”と思われることも含めて作品なのかなと思えて、そこからは楽になりました。誤解を恐れずにつくっていけば、少なくともひとつの目線がある作品にはなっていくのかな、というか。そこからは意識が戻ったというか」

──岸田戯曲賞の選評で、選者のひとりだった劇作家の永井愛さんが、まさに『まほろば』の女性の描かれ方に対して批判的な文章を書いていらっしゃいましたね。そういった意見も想定内だった?

「いや、想定内ということではないんですけど、確実にそういうことが起こる作品だとは思っていました。それに批判を受ける覚悟みたいなものは、どの作品を書いてる時もあります。それが演劇の常というか。『まほろば』みたいな作品は特にそういうことがあるだろうとは思っていて、だから逆に、賞を獲るとは思ってなかったんですよね」

──『まほろば』についての感想で、肯定、否定を問わず特に印象に残ってるのは?

「本番が終わって劇場を出たところで、50〜60代の女性ですけど、お客さんがひとりいて“すごく面白かった”ってサインを求められたんです。その時に“でもね、蓬莱さん、女の人生は閉経してからですよ”ってにこやかに言われて(笑)。ドギマギしながら“そうですか、勉強になります”と言いましたけど、あれは鮮烈でした」

蓬莱竜太

Text●徳永京子 Photo●源賀津己

PROFILE

ほうらい・りゅうた 1976年生まれ、兵庫県出身。舞台芸術学院の同期生・西條義将が主宰するモダンスイマーズに1999年の旗揚げ時より参加し、作・演出を担当。外部での活動も多く、Team申『時には父のない子のように』、フジテレビ『第32進海丸』、松竹『赤い城、黒い砂』、BS-TBS『ポテチ』などの作・演出、『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』『淋しいのはお前だけじゃない』などの舞台版の脚本を手がけている。新国立劇場には2008年『まほろば』(第53回岸田國士戯曲賞受賞)、2010年『エネミイ』を執筆している。
モダンスイマーズHP


TICKET

【作】
新国立劇場演劇『まほろば』
 4月2日(月)〜15日(日) 新国立劇場 小劇場(東京)
『まほろば』全国公演
 4月18日(水) まつもと市民芸術館 実験劇場(長野)
 4月21日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫)
 4月28日(土) シベールアリーナ(山形)
 ※新国立劇場公演・兵庫県立芸術文化センター公演はチケットぴあにて発売中。

公演・チケット情報



【作・演出】
『ハンドダウン・キッチン』
 5月12日(土)〜6月3日(日) PARCO劇場(東京)
 6月5日(火) 福岡市民会館 大ホール(福岡)
 6月9日(土)・10日(日) 森ノ宮ピロティホール(大阪)
 6月14日(木) 愛知県産業労働センター 大ホール(愛知)

公演・チケット情報



INFORMATION

モダンスイマーズ次回公演『楽園』
 11月7日(水)〜14日(水) 吉祥寺シアター(東京)



2012.04.03更新

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