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藤田貴大

――ダークサイドの話はぜひもっと突っ込みたいところですが、残念ながら時間がないのでまたの機会にして、京都公演以降の話もお聞きしたいと思います。5月、6月、7月と3か月連続で「マームと誰かさん」シリーズを清澄白河SNACで。これはそれぞれ大谷能生、飴屋法水、今日マチ子さんとセッションされるんですよね?

「とにかく僕もう、足りてないとダメなんですよ。厳しいとこにいないと進化がない。この、進化しようとする欲求は年々過剰になってきてて、誰かとやんなきゃダメだ、自分で好き勝手にやっててもどうしようもないなと思った。それで今一番興味がある3人にお願いしました。3人共に普段からたまに飲みに行ったりという関係ではあったんだけど、このシリーズにかぎらず今後も何か一緒にやりたい人と、前哨戦みたいな感じでやってみたいと思って始動しはじめてます」

――ジャンルもバラバラですね。

「今日マチ子さんなんて、漫画と僕がどうコラボレーションするのか? 演劇と漫画と、音楽では持つ速度も全然違うと思うし。とにかくまずは3人と話してみたいですね」

――元・立誠小学校も、SNACも、小さな空間ですが、大きな空間についてはどうですか? こないだTPAMに招聘されて赤レンガ倉庫で『塩ふる世界。』の再演をされましたが、おそらくリハーサルの時間がほとんど取れなかったという物理的な制約もあり、珍しく苦戦したと思います。特に音の調節がうまくいってないように見えて、かなり悔しい結果になった印象がありました。

「僕としては後悔はないですね。近年稀に見る批判のされ具合だったけれども、ただ、あの曲は音量大きくかけたいとか、でもセリフは絶対聞かせたいとか、そのバランスを話し合う機会にはなりました。僕がやったことだからアレが良しとしてやってるということで全面的にいたいんだけど、もし最初から赤レンガ倉庫でつくった新作だったら、あの音楽は選ばなかったでしょう。言い訳だけど、もっと音の出し方の工夫はしたかったですね。音楽によってはもっと小さなスピーカーから出したりとか、変則的なことを」

――これまではわりと横浜STスポットという小さな空間をベースにして、そこで自分の感覚を研ぎ澄ませて調節してたと思うんだけども、それが少し違う意識になってきた?

「そうですね。何年か前に最初にSTスポットに入った時に、びっくりしたんですよね。こんなにデリケートに音を扱わなきゃいけない空間なのかって。その時に驚いた感覚と、赤レンガ倉庫での体験は似てました。やっぱり小さい劇場でやりすぎたなっていう悔しさはあって、これからは小さな場所でも大きな場所でもやれる人になりたい。でも音のことってやり込まないと分かってこないので、いきなり大きい劇場に連れていかれてもそれはちょっと戸惑うから、もっと慣れたいですね。今年は大きめの劇場でガンガンやってく予定なので」

――具体的な予定は?

「まず6月に、桜美林大学のプルヌスホールに戻ります。で、9月に三鷹芸術文化センター星のホール。さらに北九州で滞在制作をして11月に北九州芸術劇場で発表します。その作品は2013年3月にあうるすぽっとでもやりますね。どんどんやりたい。大きな劇場でしかできない味があるから。その時、音の出し方に惹かれるのか、もっと役者に頼ってく方向なのか、そこらあたりは考えています」

編集部:もしも商業演劇に呼ばれたらどうしますか? 演出家単体としてプロデュース公演に呼ばれて、って感じはあんまり?

「めっ……っちゃお金くれるんならやりたいですけどね(笑)。でもどうなんだろう? インディペンデントであることにはこだわりたいです」

――「インディペンデント」の意味するところは何ですか?

「つまり、自分でやりたいことをやらないで、劇場や誰かのプロデュース公演にどんどん乗っかるだけで1年を消費したくないんですよ。自分発信じゃなく呼ばれるだけの話は、インディペンデントではない。例えば三鷹だと制作も含めて僕らがやってくけど、北九州芸術劇場プロデュースは制作もうちのかなやん(林香菜)じゃないから、向こうの劇場の人と僕がやり取りする形になっちゃう」

――でも劇場やプロデューサーと交渉できる余地があるなら、インディペンデントの精神は保てるのでは?

「交渉ですね、ほんとに。例えば9割から8割は地元の俳優とつくってほしいとかの制約があるとしても、現時点で僕は地方の若い俳優に全然興味ないんですよ。だったら東京でもっと能力のある俳優とつくる新作の方が、僕としても有意義だし、マームを観に来てくれるお客さんも絶対そっちのほうがいいに決まってる。あえてレベルを下げるようなことだったら地方でやる必要がないと思うんです。僕自身、地方出身だからこういう厳しいこと言えるけど、だってやっぱ圧倒的に違うもん。舞台を観てる量とかが。だからこそ、北九州プロデュースは楽しみです。いつもとは違う場所で自分にとってどれくらい有意義と思える時間を過ごす事が出来るか。それは全て自分にかかっていると思うので」

――揉まれてる経験値とか。確かに、現時点では俳優の能力差はあると感じますね。ただ情報の流通の仕方も変わりつつあるし、アーティストやプロデューサーの移動も盛んになりつつあるから、これから変わっていく可能性はあるでしょう。それに去年、相模原市の企画で、小原宿本陣で『まいにちを朗読する』のワークショップをやった時、藤田さんはかなり生き生き、伸び伸びしてましたよね? あれもいわゆる俳優志望の人たちではない人とやる企画だった。だから、地元の人たちに全然興味ないわけでもないと思うけど?

「もちろん、ないわけではないです。ただ、ほんと人ですね。あの相模原市のワークショップは、企画制作してくれた林真智子さんが僕のこと、よく理解してくれてたし、そういう人がいるかどうかって問題もあるけど、結局はそれも交渉能力が僕にあるかどうかですね」

――となると、公共ホールであれ、商業演劇であれ、全部じゃないにしても、大事な部分を理解してくれて話ができるなら可能性はあるということですよね?

「そうですね。まあだから(演劇ジャーナリスト、プロデューサーの)徳永京子さんはほんと良いんです。徳永さんが誘ってくれるなら、多少辛いことはあっても文句も言えるし、改善してくれるという信頼関係があるから。高飛車な言い方をしてしまうと、そういうことができるんだったら僕を誘えばいいと思う」

――昨年の「20年安泰。」も徳永京子さんの企画でしたけど、さらに彼女が六本木・新世界でプロデュースした『producelab89 官能教育「犬」』では、かなり、徳永さんとの闘いみたいなところもありましたね。

「闘いだよ! だって俺、あの小説(中勘助『犬』)全然好きじゃないもん!(笑)でも徳永さんが僕に薦めてきた理由も痛いほど分かったから、やる、やりますよ、みたいな。

――中勘助の『犬』は、女が自分を強姦した若い男を想っているので、嫉妬に狂った僧が女を犬に変身させて交わりまくるというえげつない小説でした。それを薦めてきた理由はなんだと思いますか?

「徳永さんはとにかく僕のエロスを引き出したいという相当、痴女的な(笑)思惑があって、それはでも僕が性的なところでウズウズしてるところを遺憾なくやればいいじゃんと言ってくれたと思うんです。だからこそやれたことはいっぱいあって、ほんと感謝してます」

――あの頃から「変態」って言葉を藤田さんは特に言い始めたと思います。もともとフェティッシュな変態性は持ってたと思うけども(笑)、それを包み隠さなくなってきた。今日の話だと自分自身に興味がなくなりつつあるようにも見えるけども、一方で、男性的なリビドーのようなものを尾野島慎太朗を通して「俺は!」と語らせたりとか。そういう意味では、過去作品では尾崎翠の『第七官界彷徨』が引用されてたりもしてたけど、おそらく初期のマームとジプシーからずっとあった少女的な世界観からは少し変わってきたようにも思えます。

「そうですね。女の子の、僕が経験したことがない生理とか、描き甲斐があると思ってたんだけど、例えば夢精するとか、手淫するとか、そういう男子の恥ずかしい部分が尾野島さんや山内健司(『犬』の俳優・青年団所属)を通してどんどん出てきた。そこも徳永さんに見事に引き出されましたね」

編集部:藤田さんは女性の性欲に関してはあんまり描きたくないのかなと感じました。実は徳永さんの狙いとしてはそこを描いて欲しかったのかなとも思ったんですが、原作の『犬』の女の人は強姦されても性的に感じちゃうのに、そのくだりをカットしてましたよね? 

「そうだし、青柳いづみ(俳優)がどんどんそういうところをカットしていった(笑)。彼女は拒絶してて、自分の世界に入ってくる男子を。あれは不思議な感じでしたね」

――そこがかなり肝だった気もします。藤田さんはあの頃、「何を持って処女喪失というのか?」「肉体が汚されるとはどういうことか?」とかよく話してたと思うけど、青柳いづみはそこを毅然とはねのけてた感じがあって、彼女の勇気を感じました。

「はねのけてた感じはありますね。あそこを原作と同じく受け入れまくっちゃうと、マームとジプシーじゃなくなってしまう、というところでのせめぎ合いは徳永さんとの間に実はあったんです」

――ところで、今の時期かなりナーバスなトピックかもしれないけども、第56回岸田國士戯曲賞が3日後に発表になります(インタビュー収録は3月2日。岸田賞発表は3月5日)。今の心境を聞かせてください。

「僕以外、獲るべきじゃないと思います」

――!(笑)

「まずは、まずはね。だって僕が取らないで、何の未来があるんですかね? だけど、そう思ってるけど、まあ僕じゃないと思います(苦笑)。僕じゃないと思うけど、僕が獲りたいっすよ。でも獲ってどうなるっていうのはあって、それこそお金や名誉が欲しいわけじゃなくて、やれることが増えると思うんです。もっと、かけたいんですよね、自分の作品に。手とか、お金とか、時間とか、どんどんかけていきたい。そういう、機会に溢れていく感じは今もあるけど、もっと自由になっていきたいから、もっと全国回れたりとか、現場が増えたり……」

――海外も含めて?

「そう。そうすると自分の作品がどんどんブラッシュアップされていくから。だから賞を貰いたくないなんてことは絶対ないですね。いつか貰うべきだとも思う」

編集部:でも受賞すると、呼ばれ仕事が増えますよ。

「そこですよね。だから、どうやってその人たちと渡り合えるのかが、たぶんすごい「未来」だと思うんです。今までの30代の劇作家・演出家の人たちとは違う渡り歩き方をしてって、で、演劇のフィールドがもっといろんなところに、僕が行ったことによって広がるとしたら……僕は他の作家のことなんて全然興味ないけど、それは絶対「未来」だと思うんですよ、演劇のフィールドの。だから、とにかく若い僕に獲らせろ、って思います」

――最後に。「ユリイカ」(2012年3月号)に執筆された『Kと真夜中のほとりで』という、舞台と同名の文章が素晴らしく良くて、きっと編集者のかなり良いサジェスチョンがあったとも推測しますが、やはり藤田貴大独特の音感というか、オノマトペが使われていて。あれは詩って呼んでいいんですかね?

「いちおう、詩だと思って書いてます」

――おそらく今後も文章の依頼があるでしょうけど、いずれは小説も含めて、藤田さん自身も書きたいという欲望がありますか?

「「ユリイカ」で書き下ろしたのは、舞台の『Kと真夜中のほとりで』のニュアンスを文章に起こして、だけどちゃんと読み物としても成立する、ってことをすごく意識しました。それは小説を舞台に具体化していくこれまでのやり方とは、真逆の作業だったんですよね。それをやってみると、僕が舞台でやってたことも冷静に分かってきた。そう思うと、書きものの依頼を受けるのも結局は演劇のためで。今、書いてる作業も大変だけど楽しいし、これも自分の仕事だから、書き仕事の依頼もどんどん受けていきたいとは思ってます」

――では、あくまでベースは演劇?

「そうですね。演劇のためにやってますね」

藤田貴大

Text●藤原ちから Photo●源賀津己

PROFILE

ふじた・たかひろ 1985年生まれ、北海道伊達市出身。マームとジプシー主宰。劇作家、演出家。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。2007年マームとジプシーを旗揚げ。急な坂スタジオ・坂あがりスカラシップ2010選抜。第56回岸田國士戯曲賞受賞。シーンを執拗に繰り返す「リフレイン」を得意とし、独特の音感で世界を構築する。
マームとジプシー公式HP

INFORMATION

マームとジプシー
坂あがりスカラシップ2011対象公演
『LEM-on/RE:mum-ON!!』

3月29日(木)〜31日(土) 元・立誠小学校(京都)


マームと誰かさん・ひとりめ
大谷能生さん(音楽家)とジプシー

5月11日(金)〜13日(日) SNAC(東京)

マームと誰かさん・ふたりめ
飴屋法水さん(演出家・美術家)とジプシー

6月1日(金)〜3日(日) SNAC(東京)

マームと誰かさん・さんにんめ
今日マチ子さん(漫画家)とジプシー

7月21日(土)〜23日(月) SNAC(東京)


マームとジプシー
GALA Obirin 2012参加作品
『ドコカ遠クノ、ソレヨリ向コウ
 或いは、泡ニナル、風景』

6月22日〜24日 PRUNUS HALL(東京)


マームとジプシー
『タイトル未定/新作』

9月 三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京)
   北九州芸術劇場(福岡)


北九州芸術劇場プロデュース
『タイトル未定/新作』

11月 北九州芸術劇場(福岡)
2013年3月 あうるすぽっと(東京)


マームとジプシー
『あ、ストレンジャー』

2013年1月 吉祥寺シアター(東京)



2012.03.19更新

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