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快快(FAIFAI)の『りんご』は、彼女たちにとって2年半ぶりの新作であると同時に、本作を最後に主要メンバー4人が脱退するという意味でも、特別な作品となっている。脚本/演出/俳優/ダンサー/デザイン/映像/美術/写真/衣装などさまざまなジャンルのエキスパートによる集団制作という手法や、かぎりなくパーティに接近したような公演スタイルで、小劇場界のみならずカルチャーシーンに旋風を巻き起こし、海外でも高く評価されてきたチーム・快快はどこへ向かうのだろうか。リーダーでもある脚本家の北川陽子と、本公演後に脱退を表明している演出家の篠田千明に話を聞いた。

――久しぶりの新作です。

北川陽子(以下、北川)「完全に中身からつくった新作は『SHIBAHAMA』(2010年)以来だから、2年半ぶりですね」

――作品についてはいつ頃から動き出したんですか?

篠田千明(以下、篠田)「1年ぐらい前ですね。まずはみんながやりたいことを持ち寄って、最初はセバ(ドラマトゥルグのセバスチャン・ブロイ)が“結婚式はどう?”とか。みんな、“なんとなくいいかもね”って言ってたんですけど、いざ真面目に会議したら、“結婚式とかじゃないよね”って(笑)。それと入れ替わりに〈死〉っていうテーマが浮かび上がってきたんです」

――みんなで話してるうちに?

北川「いや、私が持ち込んだんです。みんな、最初は“えっ、どうする?”って感じでした」

篠田「本篇でも使ってるんですけど、きっかけとなったよんちゃん(北川)のメモがあるんですよ」

北川「内容は、“私のこれまで”みたいな(笑)。自分の人生を振り返って、これまで創作してきたことや、地震があって大変だったこと、お母さんが亡くなっているんですけど、そのこととかも絡めて、いまに至る経緯をぜんぶ書き出してみたんです」

北川陽子

北川陽子

――お母さんが亡くなられたのは最近の話ですか?

北川「いや、10年ぐらい前なんですけど、いまでも残っているものがあって」

篠田「これまでよんちゃんが書いてきたどのテキストよりもインパクトがあったんです。でも、それをそのままカタチにするはちょっと違うので、じゃあ、まずはこのメモを元にみんなで考えてみようと」

北川「それで、他のメンバーからも〈死〉にまつわるエピソードを集めたんです。すると、みんな身近な人の死でも、日常生活の中で意外とスッと受け入れてたりするので、逆に"あ、私って、お母さんのことがけっこうひっかかってるんだ"ってことがわかったりもして」

篠田「それで、他のメンバーの話も踏まえて新しいものをつくろうとするんですけど、どうしても"あのメモのほうが力があったよね"みたいになってしまう。そこからけっこうグルグルしましたね」

――快快は、3.11をきっかけに関東や、日本を離れたメンバーもいますが、そうした経験も制作過程に反映していますか?

篠田「それで言うと、前作の『SHIBAHAMA』の再演はモロそうでしたね。ただ、今回は反映云々というよりも、12人ぐらいいるメンバーの置かれている状況がそれぞれ変わってきたことで、スタンスとか考え方が見事にバラバラなったんですよ。例えば、私みたいにバンコクに住んでいて、今回の公演が終わったら演劇から離れてしまうっていう目線と、俳優として日本でこれから演劇で食べていこうとする中林舞の目線なんて、ある意味、対極じゃないですか? もちろんどちらが良い悪いでもないし。今回は、そうしたバラバラの考え方を納得いくまで摺り合わせたり、無理にひとつの方向にするのではなくて、そういうバラバラさをさらに大きく包みこむものを見つけようってことを考えたんです」

――それは見つかったんですか?

北川「と、思います。今回は初めから〈物語〉をやりたいと思っていて、みんなの話をいろんな物語に変換して提示してみるんですけど、どうも私の言いたいことまで届かないってことがずっとあって。でも、それを〈演劇〉っていう枠まで自分の思考を拡げたときに、シェイクスピアの〈世界劇場〉っていうキーワードで出てきて、"そうか、私たちがただ生きてること自体、すでに物語なんだから、自分たちの実体験も人生もそのまま使えばいいんだ"って納得できて、戯曲にまとめることができたんです」

――戯曲を受けとった篠田さんは、三日三晩読み込んだそうですね。

篠田「もう興奮して、頭が勝手に働いちゃったんですよ。1日目はもう廃人でしたね。みんなの前でも“あー”とか“うー”とかしか言えない」

北川「脳だけは動いてるって感じだったよね(笑)」

篠田「とにかくこの戯曲は面白い。でも、演出するにしても、観てもらうにしても、なにか座標軸をひとつ見つけないとダメだと思って。もちろん観る側は勝手にイメージを繋げたりはするんだろうけど、演劇って、その瞬間に見せられるものはひとつなので。しかも、紆余曲折を経てできた物語なので、その座標軸が雰囲気とかになってしまったらダメだと思って。それを見つける作業にプラス2日」

篠田千明

篠田千明

――書いた北川さんとしては、舞台に載せたときのイメージはあるんですか?

北川「コアな物語があって、周りにそれを演じる俳優がいて、さらにその周りに舞台を観ている人たちがいて、最終的には外側の世界にも繋がって物語の終焉がある。その構造に対して、響くものになればいいと思うんです」

篠田「おそらくこんなふうになるだろうっていうイメージは、共有できてますね」

――「こんなふう」っていうのは?

篠田「なんだろう? “フワ〜”みたいな」

北川「えっ!?」

篠田「“来てよかったと思える”ってことですよ(笑)」

――現段階の戯曲を読ませていただいて、作中でも「りんご」が出てきましたが、タイトルはどう決まったんですか。

北川「まだ内容がなにも決まってなかったときに、いま思うとですけど、それでもやるべきことはわかっていたんです。余計なものがない、一番最初のことをやるんだろうって。それでぱっと出てきた言葉が“りんご”」

――神話的なイメージもあるし。

篠田「毒りんごとか、おとぎ話でも使われますよね」

――戯曲の中ではわりとシリアスな使われ方をしてましたね。全体のトーンも、いつも以上に切実なものを感じました。

北川「快快って“ハッピーオーラ”とか言って、いつもは“求めている幸福”の、“幸福”の部分が多めだったと思うんです。でも今回は“求めてる”の部分の比重が大きいかも」

篠田「私も、今回はそういうものじゃないとつくる意味がないと思ってるんです。自分が関わる最後の新作っていうこともあるんですけど、途中でスタンスが変わって。わりと最初は気楽に考えてたんですけど、あるとき久しぶりに昔の自分たちの作品(『Zeller Schwarze Katz[コミック編]』/2006年)を見直したら、度肝を抜かれたんです」

北川「すごかったよね(笑)」

篠田「すごかった。もう意味がわからないんですよ。“あ、そっか、前は人に理解してほしいとか、そういう気持ちってあまりなかったんだな”って。もちろん、まったくないわけじゃなかったんですけど、それよりも、“いまここで自分たちが思っていることを出しきりたい!”っていう気持がすごく強かった。それを見て、昔の自分たちにアテられてたというか。“最後だし、本気でもう1回やるか!”って思えたんです。……いや、べつにいままでも手を抜いてたわけではないんですけど(笑)」

Text●九龍ジョー Photo●源賀津己

PROFILE

ふぁいふぁい 2004年、多摩美術大学映像演劇学科の学生による卒業制作として劇団を旗揚げ。当初は劇団名として小指値(こゆびち)を名乗っており、2008年に改名。集団制作という独自のスタイルで創作を続け、2009年からはドイツ、シンガポール、タイなど世界各地でも公演を行っている。
快快(FAIFAI)HP

INFORMATION

快快(FAIFAI)新作公演/KAFE9参加作品
『りんご』

 9月13日(木)〜16日(日)
 KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ

KAFE9



2012.09.11更新

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