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――映画の話になるのですが、今年公開された『夢売るふたり』では西川美和監督の作品、かつ主演ということもあり、あまり見たことのない阿部さんの表情が多かったように思いました。妻と一緒に結婚詐欺を働く市澤貫也を演じるにあたって、なにか普段より“考えた”部分はあったんでしょうか。

「西川監督の脚本は初めてだったし、面白い部分がたくさんありました。ただ貫也にしても、僕自身が考えたことを見せるというよりは、映画を観たお客さんが“考える”脚本だなって思ってやっていましたね。結末にしても、どうとってもらってもいいなって。撮影中は、(貫也の妻・里子役の)松たか子さんとそんな風に話してました。あの夫婦を嫌だなって思う人もいるだろうし、あれが愛の形なんだってとらえる人がいてもいい。監督もカメラさんも同じ感覚で、現場でこれどうかな、これいいねって言いながら変えていく方たちだったので、僕らもガチガチに決めないでやれた。いい経験だったなって思っています」

――映像作品というと、やっぱり昨年のドラマ『マルモのおきて』のことが挙げられます。マルモブームという嵐のような状況の中にいた阿部さん自身は、どういう風に感じていましたか?

「あのドラマに出演したことは、大き…かったんだろうなぁ。でも本人は意外と台風の目にいるような感じで、なにもプレッシャーとかはなかったんですよ。それはプロデューサーさんが素直に犬が好きで、子どもが好きで、だからこういうドラマをスタッフさんたちと丁寧に作った。その結果がたまたまああなった、ということを僕も分かっていたからでしょうね。撮影現場も、ちゃんとドラマを作っている空気が心地よかったんです」

――『マルモ〜』から『夢売る〜』の振り幅というより、同じように現場にいて、同じようにひとつの役を演じた感覚?

「そうですね。その間にも作品がいくつかありましたし、本当に1つひとつの作品に参加している、という感じです」

――とはいえ表層的なことでいえば、ドラマの大ヒットで、いわゆるお茶の間の知名度はグンと上がりましたよね。

「そういえば、“ウチもミニチュアシュナウザー(ドラマに出てきた犬種)を飼ってるんですよ!”って知らない方に声をかけられることが増えました。“ウチのはしゃべらないんですけど”とか(笑)。僕がミニチュアシュナウザーを飼っている人の代表みたいな感じなのかな。そういうときは、不思議な気持ちになりますね。ただドラマがヒットしたことで、声をかけてくれる人の幅が広がったのは嬉しいですね」

――基本的にはいただいた仕事を何でもと言っていましたが、今までにこういう役をやりたいと言った経験はありますか?

「事務所の人に“下町の商店街の人”の役をやりたいって言ったことがありましたね。あとは“時代劇で馬に乗りたい”とか。昔から町を歩いていて、目に入るとどういう仕事なんだろう?って何でも知りたくなるんですよ。トラックの運転手はいまだにやりたいです。トラック野郎ってカッコいいもん」

――お仕事関連から気になっていくんですね。

「俳優って何にでもなれるでしょう。だからやめられないっていうか」

――実際にやってみたらキツかったという仕事の役はなかったですか。

「うーん、なかった気がする。あっ、仕事じゃないけど“動いてない役”はツラいです。どしゃぶりの雨の中でただ地面に寝てるとか。動きたいんですよ、僕。動けないと、もうヤダ!ってなる。だから、やりたいのは“動いている人”の役(笑)」

――やっぱり身体能力とつながっている。

「あとアスリートへの憧れと尊敬は大きいですね。特にプロの選手になる人って、どんな子供時代なんだろう?って。今、息子が野球選手になりたいって言ってるのもあるんですけど」

――ちなみに、息子さんはおいくつですか?

「小学6年生で、その下に娘がいます。息子はすでに部活や友だちと過ごしているから、中学生になったらさすがに一緒に出かけたりできないだろうなーって。野球の試合に応援に行ったりしてますけど、今年の冬休みと来年の春休みでお別れすることを必死に考えているところです。娘はまだ“飛行機やってー”と言ってくるので、まだ大丈夫だな……と(笑)」

――じゃあ息子さんとは、今のうちに出かけたり。

「こないだ家族でミュージカルの『ウィズ』を観に行ったら、本当に偶然なんですけど、前の席に宮藤さんの家族が来ていて。ちょっと面白かったです」

――1992年に大人計画に入った頃のことを思うと、っていうことですか。

「あの頃は本当に何も考えてなかったですから。ただ走っているだけというか。でもそれがよかったなって今になって思うんですよ。ヘンにこれやったらこうなっちゃうのかなって知恵をつけてやるよりは、何も知らずにやってよかったなって。ただ、松尾さんや宮藤さんの書いたことをちゃんとやっていたらちゃんと面白くなるんでしょ、っていう自信だけはあった。“負けませんから”って(笑)」

――それは入団してすぐに気づいたんでしょうか。

「いや、最初はなんでこんなにお客さんにウケるんだろう?って分からなかったんです。でも段々と“さては、この人たちについていけば大丈夫だな”って気づいてきた。当時僕が理解していないことに、ふたりとも気づいていたと思うけど(笑)。というか、今も“松尾さんの書いていること、すごい分かるわぁ”という感じではないんですけど(笑)。ただ…これは勝手に僕が思っていることですけど、こちらが信用していることを松尾さん達も分かっているんだろうなっていうのはあります。それがいいのかなと……」

――宮藤さんとは特に、映像でも多く仕事をしていますよね。

「同い年だというのもあるし、入団当初から笑いの感覚が近かったんですよね。『八犬伝』だからとこじつけるわけじゃないけど、僕が千葉から、宮藤さんが宮城から集まってきて、今こうして一緒にやっているのは不思議だなって思います。元からそういうことだったのかな、居てくれてよかったなって。ただ稽古に集中すると食事もしない人なので、それはいいんですけど、こっちは休憩がないと困るので、適当に休んだりしてますね(笑)」

――これからも“俳優の阿部”の中の、“大人計画の阿部”の部分は変わらない?

「そうだと思います。昨年はたまたまなんですけど、大人計画にも、その他の舞台にも出る機会がなかったんですよ。そうしたら、自分自身にどこか違和感があって。やっぱり舞台をやって、お客さんから手紙なんかで“元気が出ました”って言われると、素直に嬉しくなっちゃうんですよ。お客さんを楽しませたいっていう気持ちが大きいというか……。それは映画でもドラマでも同じで、常に観客を意識しているところがあります。これからどうなりたいかって聞かれたら、観ている人に何か明るいものを与えられる俳優でありたいし、どんな役でもやってみたいってことくらいなんですよね」

Text●佐藤さくら Photo●吉田タカユキ(SOLTEC)

PROFILE

あべ・さだを 1970年4月23日生まれ。千葉県出身。1992年より松尾スズキ主宰の「大人計画」に参加。看板俳優としてほとんどの舞台に出演しているほか、外部公演では「朧の森に棲む鬼」(作:中島かずき、演出:いのうえひでのり)、「シダの群れ」(作・演出:岩松了)等に出演。また近年では、映画「なくもんか」(監督:水田伸生、脚本:宮藤官九郎)、「ぱいかじ南海作戦」(監督・脚本:細川徹)、「夢売るふたり」(監督・脚本:西川美和)、「奇跡のリンゴ」(監督:中村義洋/2013年公開予定)、テレビドラマ「マルモのおきて」で主役を務めている。1995年に宮藤官九郎らと「グループ魂」を結成。ヴォーカル“破壊”としての顔も持つ。


TICKET

M&Oplaysプロデュース『八犬伝』
 東京・シアターコクーン
 3月8日(金)〜31日(日)
 大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
 4月4日(木)〜10日(水)
 愛知・刈谷市総合文化センター 大ホール
 4月13日(土)〜14日(日)

公演・チケット情報





2012.11.20更新

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