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演劇ファンが熱を持って観続けてきた“大人計画の役者・阿部サダヲ”が、ここ数年で“皆が知っている俳優・阿部サダヲ”になった。映画とドラマで続く主演や、話題作への出演など、阿部が「いま最も求められている俳優」のひとりであることは間違いない。一方で、出身の舞台に関しては「出ている舞台は、松尾(スズキ)さんと、宮藤(官九郎)さん中心」という阿部。ここにきて、そのどちらでもない舞台『八犬伝』(3月から東京・シアターコクーンで上演)への出演が決まった。阿部に見えているのはどんな景色か。率直に質問をぶつけてみた。

――本作のもとになっている『里見八犬伝』について、何か思い出はありますか?

「僕らは小学生の頃に、人形劇や映画なんかで面白く観ていた世代ですよね。面白さと怖さと……1人ひとりが玉を持っていて、その玉がピカーッと光ったりとか、今まで見てきたものと何か違うなっていう匂いを感じてました」

――阿部さんが演じる犬塚信乃については?

「台本を読んで思ったのは、主役ではあるけど意外と普通の人ですよね。他の八犬士は個性的だけど、信乃は周囲の人との関わりで動いていく人。ただ、物語はやっぱり信乃が軸にならないといけないから、芯はブレないようにしようと思っています。信乃のまっすぐなところ、企みがないところは意識しながらっていうバランスが難しいけど、稽古場で作っていくのは楽しみですね」

――スタッフ陣は近しいおふたりですね。

「青木豪さんの脚本と河原雅彦さんの演出で『八犬伝』はい、出ます!って即決でした。台本はテンポが良くて面白かったです。一気に読んじゃいました。作家さんなのだから作品に合わせて書くのは当然、ということなのかもしれないですけど、すごいですね、青木さん。ト書きにも夢みたいなことが普通に描いてあって、河原さんはこれをどう演出するんだろうって思いながら読んでました。でも青木さんの書くセリフらしさっていうのもあって、演じる人によって笑いのほうにも、マジメのほうにもいくことが出来る部分とか。いわゆるボケとツッコミのような“笑い”じゃなくて、役者と役者が実際にセリフを発することで違ってくる空気感というか、その想像が膨らむところが上手いなって思いました。さすがロンドンに行かれるだけのことはある(笑)」※青木は文化庁・新進芸術家海外留学制度でイギリスに留学中。

――意外にも、同世代の小劇場仲間である河原さんの演出を受けるのは初めてとか。

「共演者としての河原さんはよく知ってるんですけどね。演出家としての稽古場での居方ってきっと違うじゃないですか。聞く人によって“優しかったよ”とか“けっこう厳しいよ”とか言っていることが違うので、今回は優しいほうの河原さんだといいな(笑)」

――キャストのひとり、田辺誠一さんも宮藤作品で共演が多いですね。

「それも安心です。でもシリアスな役どころで田辺さんと共演するのは初めてなので、そこも楽しみです。稽古場では笑ってると思いますが」

――もうひとりのメインキャストが、若手で注目の瀬戸康史さん。

「瀬戸さんも含めて、今回のキャストは若い人が多いですね。本番はどんな雰囲気になるのかなぁ。そうか、僕とか河原さんは、もうベテランのほうなんだ……(『八犬伝』のチラシをまじまじと見る)」

――身体能力の高さも阿部さんの舞台での大きな魅力だと思うのですが、『朧の森に棲む鬼』(2006年)の殺陣は素晴らしかったです。

「あの時は相手役が(市川)染五郎さんというのもあったし、後半で盲目になってからは逆手で刀を操らなくちゃいけなかったので大変でした。殺陣は本当に難しいし、初日前の通し稽古の時なんてぶっ倒れそうでしたから。でも子どもの頃からチャンバラ好きだったのもあって、本番中はもう楽しくやってました。『八犬伝』も同じ殺陣師の方についていただくので信頼してついていきます」

――阿部さんはプロデュース公演でも宮藤組や、岩松(了)組には出演されてますが、こういう本当にバラバラなキャストとスタッフで作る舞台というのは珍しいですよね。さらに主役ということで、これは座長ということになりますか。

「座長?座長って何をしたらいいのか分かんないです。お揃いのTシャツとか作ればいいんですか?(笑)」

――それは違う気がします(笑)。

「うーん、大人計画にそういう考え方ないし(笑)。この芝居は座長オレです!っていう芝居じゃないですから」

――座長はさておき、舞台に限らず映画やドラマでもいいのですが、最近増えてきた主演ということに何か思うところなどはありますか。

「僕、大抵“こういう作品がありますけど、どうですか”って事務所の人に聞かれて、“あぁ、そうですか”って答えるだけなんです。“自分で台本を読んで決めます!”なんて言ったことはないんですよ。逆に“僕、これやりたくないです”って言ったこともないですね」

――それは、どんな役でも楽しいということ?

「それは本当に楽しい。主演とかは関係なくて、たくさんお芝居したいし、少ない出番でも印象に残っていたいというだけです。主演じゃなきゃいやだとか思いだしたら終わりだと思うし。大体、普段何かを考えるタイプじゃないんですよ」

Text●佐藤さくら Photo●吉田タカユキ(SOLTEC)

PROFILE

あべ・さだを 1970年4月23日生まれ。千葉県出身。1992年より松尾スズキ主宰の「大人計画」に参加。看板俳優としてほとんどの舞台に出演しているほか、外部公演では「朧の森に棲む鬼」(作:中島かずき、演出:いのうえひでのり)、「シダの群れ」(作・演出:岩松了)等に出演。また近年では、映画「なくもんか」(監督:水田伸生、脚本:宮藤官九郎)、「ぱいかじ南海作戦」(監督・脚本:細川徹)、「夢売るふたり」(監督・脚本:西川美和)、「奇跡のリンゴ」(監督:中村義洋/2013年公開予定)、テレビドラマ「マルモのおきて」で主役を務めている。1995年に宮藤官九郎らと「グループ魂」を結成。ヴォーカル“破壊”としての顔も持つ。


TICKET

M&Oplaysプロデュース『八犬伝』
 東京・シアターコクーン
 3月8日(金)〜31日(日)
 大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
 4月4日(木)〜10日(水)
 愛知・刈谷市総合文化センター 大ホール
 4月13日(土)〜14日(日)

公演・チケット情報





2012.11.20更新

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