2005年7月、2ndアルバムの頃
今であれば、“時の流れが せつなく早いよ どこにたどり着くんだろう”という歌詞は、新しい明日を歩もうとする自分たちの希望の歌として聴き手に届けることができる、と判断したわけである。
ふたりの心境の変化は、母親が戻ってきたということだけが起因しているわけではない。ふたりを取り巻く環境もその要因となった。
直次郎 「もともとは強制的にはじめたところはあったんですけど(笑)、ぼくらの歌で元気になれたっていうファンからのメッセージをもらうと、人のためになれたってことがすごく嬉しくて。龍之介がんばってたし、負けないようにしなくちゃって思うようになってきたんです」
龍之介 「ライブをやって、きゃあきゃあいわれると調子に乗って、“オレってイケてるじゃん!”とか思って……夢を見させてもらったかなあ(笑)。まあ、ファンやスタッフの方たちの存在はおっきかったですね。そうするとミュージシャンとしての欲が出てきて、もっといいものや新しいものを作りたいって思ったり、直次郎のボーカルをもっとカッコよく聴かせるにはどうしたらいいかって、いろんな人のCD聴いて勉強したりするようにもなって。そうしていくうちに、歌詞も堅苦しい私生活のことじゃなく、ラブソングも作れるようになってきた」
インタビューでふたりは何度もファンとスタッフに対する感謝の言葉を発した。彼らはインディーズ盤の制作から約6年間、地元の新潟県佐渡市にいる同級生たちとは明らかに違う生活をしてきた。多くの大人たちに囲まれ、ツアーで訪れた各地の知らない風景を見て刺激を受けることが、自身の成長に繋がっていったのである。といっても、十代……いや、子どもらしい発言もあるのだが。
龍之介 「佐渡に帰ると“みんな知らねえだろ”みたいなこと思って、よく調子に乗ってたんですけど(笑)。領収書のこととか……あれは一番ビックリしましたね。船とかの交通費の領収書をもらっておけば、あとからお金が戻ってくるというシステムはすげえなって。大人の世界だなって(笑)。領収書使ってどこまでやっていいんだろう、みたいなことも考えて。お菓子買ったらお金戻ってくるのかなとか(笑)。そういえば、携帯(電話)持ったのもみんなよりずいぶん早かったなあ」
さて、冒頭でも述べたとおり、平川地一丁目はツアー・ファイナルとなる8月23日(土)のLIQUIDROOM公演で活動が終了するのだが、その後の道はふたりともまだ考えられないという。
龍之介 「1年くらい前から解散する話はしていて。ひとりの男として自立したいなと。ずっと一緒にやってきたんで、違う道をお互い歩んで、違う世界でやっていけたらいいなって、そんなこと思ったんですよね。これからなにをするかってことはぜんぜん決めてないですけど、直次郎が(高校を)卒業する前に解散することは決めておきたかった」
直次郎 「友達で進学する人が多いんで、そういうのもいいかなあと思ったり……これからじっくり考えるんですけど、今いるところじゃない、別のところで新しいことを学びたい、っていう思いが強くあって」
ひょっとすると、解散理由のひとつとして、進学のために勉強する環境や時間をきちんとキープさせたいという、弟を思う兄の考えもあるのかもしれない。その龍之介は、「ツアーが終わったらもうやらないのかな、ふたりで歌うことはないのかな、って思うと一気に寂しくはなるんですけど」と、ちらっと本音を吐いた。そして、「平川地で音楽をやることは楽しかったから」と付け加えた。
龍之介 「曲は今も作っているので、気が向いたら駅前でひとりで歌っているかもしれない。だけど音楽を続けるかどうかはほんとに決めていない。とりあえず、バイトしながら無難にやっていく方法もある。ただし、自分を表現するってことだけは忘れないで生きていきたい。直次郎もそうであってほしい」
音楽を通じて自分を表現することの楽しさを徐々に肌で感じるようになったふたり。今後はそれがなんであれ、十代の貴重な体験を活かし、自身をアピールしていってほしい。
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