@ぴあ
藤井フミヤ
アーティストであり続けること
藤井フミヤのあたり前
「藤井フミヤ」写真
Text●唐澤和也 Photo●中川有紀子
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――なるほど。で、ポップスターの条件とは?
「器用じゃなきゃダメだと思う。昔の歌謡曲で考えるとわかりやすいんだけど、ソウルが流行ったらソウルの要素を入れて、ラテンが流行ったらラテンと、時代と共に歌うのがポップスターの条件だよね。ということは、ありとあらゆるパターンを歌えないとダメで、それには器用じゃないと無理。そういう意味では、サザンの桑田さんには誰も敵わないと思う。昨日、たまたまなんだけど、ラジオを聴いていたら、桑田さんの曲を何人かのアーティストが歌っていたのよ。別に届いてこないんだよね、歌詞もメロディも。ところが、桑田さん本人が歌うと、ドーンってくるじゃん。やっぱり、すごいなぁと思い知らされたね」
――個人的にレイ・チャールズが好きなんですけど、彼がカバーした『いとしのエリー』よりも、やっぱり桑田さんのほうが胸に響くんですよね。
「わかる。ただ、俺の知り合いがロンドンでレイ・チャールズのライブを観たら、日本人なんて誰もいないのに、『いとしのエリー』を歌ってたんだって。ってことは、よっぽどあの曲を気に入ってるんだと思うよ」
――で、フミヤさん本人の話ですよ。新作『F'S KITCHEN』では、奥田民生や槇原敬之といった豪華メンバーから楽曲を提供され、みごとに自分の歌にしていました。
「ま、長く続けてると、いいこともあるもんだなぁって。今回のアルバムでは、ベンジー(浅井健一)にも楽曲提供してもらったんだけど、彼にそんなことをお願いできるヤツなんて、あんまりいないと思うからね。ただ、今回一番思ったのは、そういう豪華メンバーに参加してもらいつつも、俺の音楽は別にいいスピーカーから聴こえてくる必要はないかもしれないってこと」
――どういうことでしょう?
「もちろん、楽曲提供者だけじゃなく、レコーディングに参加してくれたメンバーも超一流なのね。でも、俺の曲はラーメン屋の油でベタベタなラジオから流れてきても心に染みてほしいなぁって。商店街のちっちゃなスピーカーでも、パチンコ屋のBGMで流れてても聞いてくれるひとがいるならそれでいいやって」
――それでこそ、ポップスターだと。
「そうそう。だから、目指すところは、坂本九さんの『上を向いて歩こう』だよね。あの曲って、日本人なら誰でも歌えるじゃない? でも、誰がCDなりレコードなりのソフトを持ってんだよって思うんだよね。俺も含めて、周囲の誰も持っているのを見たことがない。じゃあ、なんで歌えるのって言ったら、口伝いなんだよね。それって究極のポップスだと思うんだ」
――ここまで取材して思ったのは、フミヤさんってまったく飾らないんですね?
「うん。俺はいつもこんな感じ。若い頃は、片目だけカラーコンタクトつけてクラブに行ったりもしてたけどね。『あ、藤井フミヤだ』ってわかる歩き方で、周囲の注目を集めるのが好きだったから。でも、今はもうそういうのに全然興味がない。だから今は、お店に入ってもまず気づかれないし」
――24時間等身大で藤井フミヤだと。
「そうそうそう。そんな感じ」
「藤井フミヤ」写真
――でも、武道館などのステージに立っている時だけは別人格じゃないですか?
「なるほどね。それはそうかもしれない。……いや、その通りだね。ステージ上は唯一演じてる藤井フミヤかな。がんばってるね、ヤツは」
――だから、「ヤツは」とかひとごとのように言わないでください(笑)。
「ふふふ。そしてヤツは頑張りすぎてるね、今」
――そこなんです。フミヤさんは、もともとライブ活動が中心ではありました。でも、今年に入ってからのペースは尋常じゃなくて、7月からの25周年記念ツアーが終わったと思ったら、10月からは新作のアルバムツアーが始まっている。
「クレイジーだよね」
――さすがにクレイジーですよ。
「結局、俺はレコーディングが、そんなに好きじゃないのかもしれない。九州から東京に出てきて25年。その間にツアーがなかったのって、チェッカーズが解散した年ぐらいなんだよね。だから、旅のない人生が25年間で経験がないから、『ツアーがなくなったら、俺はマグロみたいに死ぬかもしれない』とか思ってしまうほどで」
――ツアーはライブの積み重ねです。そこまで思わせる、ライブの魅力ってなんなんでしょう?
「……恍惚。単純に、肉体を使っているから気持ちがいい。しかも俺が歌って聴かせることによって観客も興奮する。それも気持ちがよくって」
――体力の衰えは感じませんか?
「今は大丈夫だけど、落ちていくんだろうなぁという予感はある。だけど、ミック・ジャガーとか見てるといまだにバリバリじゃん? だから、そこも努力じゃないけど、規則正しい生活をして体を維持しなきゃっていうのはある。若い頃は、クラブ遊びも含めて夜型だったけど、今や完全なる朝型だから。たまに、酒を飲み過ぎるとかの自虐的な夜はあるにしてもね(笑)。それに……、変な話なんだけど、今、つくづく俺には歌しかないって思っているから」
――25年続けてきて今さらですか?
「そう。この25年間で、俺はアートなどのほかの表現もやってきたんだけど、結局、片手間でやっていては勝てないんだよね。24時間アートのことを考えてるヤツには、やっぱり勝てない。だったら俺はなんなら勝てるんだと考えた時、『ステージに立ってる俺じゃん』って。ま、気づくのが遅いよって話だけどね(笑)」
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SINGLE PROFILE
『F's KITCHEN』 『F's KITCHEN』
発売中
3059円
Sony Music Associated Records
AICL-1960

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1962年7月11日、福岡県生まれ。1983年に「チェッカーズ」のボーカリストとしてデビュー。数々のヒット曲を世に送り出し大スターの座に上り詰めたが、1992年末に解散。1993年、1stソロシングル『TRUE LOVE』を発表。200万枚を超えるセールスを記録。また、他アーティストへの楽曲提供やドラマ出演、アートなど多岐に渡り活躍。今年、デビュー25周年、ソロデビュー15周年というアニバーサリー・イヤーを迎える。

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