――去年の11月、Salyuさんはベスト･アルバムを発表したことで、それまでの活動にひと区切りつけたという感じがするんですけれど、デビューのときは歌うことに対してどんな自信を持っていたんですか？

「ひとりの人間として歌うことには自信があったと思うんです。ただ、Salyuとしてということなると、ちょっと違うんですよね。長所も短所も考えた上でなにを吐き出すかまでは見えていなかった。いま振り返るといろいろな出会いがあって、デビューのときはそういう縁を通じてたくさんのことを蓄積する時期だったと思うんです。人の話を聞いて、人の意見は必ず一度試してみて……いまはそうじゃないってことじゃないですけど(笑)、まだまだ知るべきことがあるという感覚を持っていましたね」

――学習意欲がすごくあったんですね。

「自分に余白があると思ってましたから」

――音楽の深いところを探っていきたいという思いがあるからですよね？

「そういうことですね。有名になりたくて音楽をやりたいというわけじゃなかったですから」

――音楽の深いところを探っていく自分の進歩や成長は、自分でどう判断するんですか？

「判断する基準はいろいろあると思うんですけど、楽曲と向き合ったときに出てくるアイデアのスピード。どう瞬間的に閃いて投影させられるかっていう……楽曲にどう色づけしていくかっていうことだと思うんです、プロとして、アーティストとして成長を感じられるのは」

――女優さんにたとえれば、与えられた役をバッチリ演じて自分をアピールするだけでなく、作品も重視するということですね。

「そうですね」

――じゃあ、新曲とはどう向き合って歌ったんですか？

「『コルテオ 〜行列〜』に関しては、歌のピークになるキーワードは、命なんです。誰もが途切れることなく実感できる、生物にとって非常にリアルなものである命を、ポップスの中でリアルに、切実さを持って響かせるかが大きな課題となった歌ですね」

――ただそこで、Salyuさんは重苦しく歌うということはしたくないわけですよね？

「はい。音楽はストレスを与えるものではないですからね。気持ちよいものを与えたいと思っていますから」

――もう1曲は？

「『HALFWAY』は、映画『ハルフウェイ』の主題歌なんです。北川悦吏子さんの初監督作で、レコーディングにも来てくださったり……というのも、歌詞は北川さんと小林さんと私の共作なんですよ。べつに車座になって書いたわけじゃないですよ(笑)。北川さんがベースとなる部分を書き、小林さんと私で音楽的な部分を調整していったんですね」

――メロディに合った言葉の響きの調整ですか？

「そうです。で、レコーディングしたときに映画はまだ完成していなくて、ラフの状態で見せていただいたんですけど、すごく考えさせられましたね。映画は高3の恋人同士の話で、それだけ聞くと甘酸っぱいレモンの味って印象を受けるかもしれないんだけど(笑)、十代には十代特有の苦しさがあるわけですよ。その戸惑い、躊躇、葛藤が、映画では切実に描かれていたので、これを、どうやって歌ったらいいんだろうって。すると、大人になることはとてもいいことだし素敵なことだし、だから苦しさなんてものを恐れずに体当たりして、いろんなことを蓄積してほしいなって思ったんですよ。私もそうだったので。だから、大人の視点から呼びかけるっていう感覚で歌いました」

――Salyuさんのキャリアと重なるものがあるんじゃないですか？

「そうかもしれないですね」

――いつも、なんにでも体当たり？

「うーん、砕けたくはないですけどね(笑)」

――歌うという作業を苦労だとは思わないですか？

「思ったことないですよ。大変でも当然というか」

――では、歌うということだけじゃなく、パフォーマーとしてのSalyuさんはどうありたいと思っていますか？

「舞台に立ったら、音楽っていう芸術のすばらしさを、自分のエゴと同じくらいの熱量で届けなくてはいけないなって。自分を信じたエゴを誠実に伝えていけるアーティストになりたいなって、明確に思うようになってきましたね。最近、とくに強く」

――キャリアを積み重ねたことだけが、そう思わせているわけじゃないですよね？

「尊敬する音楽に、より感銘を受けるようになってきたからじゃないかな。好奇心もあるし……Salyuとしての自覚が以前よりもあるからだとも思いますね」