@ぴあTOP > インタビュー > ケラリーノ・サンドロヴィッチ
『どん底』『シャープさんフラットさん』『あれから』を上演し、音楽活動、映画の撮影にも精力を傾けた昨年。明けて今年も、すでに舞台2本が控えている。最前線に立ち続ける異才のモチベーションを探りたい。
Text●佐藤さくら Photo●本房哲治
──今年も早速2本の舞台が控えていますが、まず1月下旬に女優の広岡由里子さんとのユニット「オリガト・プラスティコ」で『しとやかな獣』。
「このユニットは比較的自由にタイトルを決めているんですよ。前回、ウディ・アレンの『漂う電球』をやったので、『次は日本映画をベースにした作品にしたいね』と話していて。成瀬巳喜男監督の『流れる』なんかも好きで候補に挙がったんだけど、山岡久乃もいいなと思い出して、それなら山岡さんが母親役を演じた川島雄三監督の『しとかやな獣』(62年、新藤兼人脚本)を、ということになりました」
──その母親を含む4人家族は強欲に金儲けを繰り返す人たちですが、どこかドライな感じもあり……。
「広岡が演じるこの母親や浅野和之さんが演じる父親など、登場人物は皆犯罪者というより、揺るがない価値観をもって生きている人たちなんですよ。母親が常に上品な言葉遣いというのもいい(笑)」
──その家族と関わるしたたかな美女役には、緒川たまきさん。
「緒川さんは、あのたたずまいが独特ですよね。昨年『どん底』で初めてご一緒した時に、声の音域がとても広いのが印象的で、今回もお願いしました」
──新藤兼人の脚本で、このキャスティングというのは絶妙ですね。
「登場人物たちのやりとりが脚本でもう充分面白いので、今回はブラックコメディというこの作品の本質に戻って、そのニュアンスを出したいと思っています。広岡や緒川さん、浅野さんたちがそろえば下衆にならないと思うし。このところ、ちょっとウェットな舞台が続いたので、久しぶりにドライな物語を楽しみにしてるんですよ」
──その後、4月には主宰のナイロン100℃の新作『神様とその他の変種』を上演。
「このタイトルは、僕がやっているバンド、ケラ&ザ・シンセサイザーズが2007年にリリースしたアルバム中の一曲。今回はそれをモチーフにして書こうと思ってます」
──80〜90年代には有頂天のフロントマンとして一時代を築き、今も演劇と音楽を並行して活動されていますが、そういえばご自身の曲と舞台のコラボはなかったような?
「自分の歌をモチーフに舞台化するなんて、恥ずかしくないですか?(笑)。だからやらないようにしていたんですけど、この曲に関してだけは、作ってる最中から余りにもピンときていたので、あえてやろうと」
──歌詞を読むと一見ポエトリーな味わいですが、どこか現在の日本に漂う閉塞感を表している気も。
「アルバムのコンセプトが“象”だったんで、歌詞にも象とか動物が出てくるんですけど、基本的には神様に対して悪態をついている歌詞なんです。だから舞台に動物が出てきたりはしません(笑)。あくまでこの曲をベースに物語を考えるということで」
──では、舞台の構想はもう決まっているんですか?
「僕はチラシやリリースに書いていたことが直前で変わってしまうことがよくあるので、まだこれ!とは言えないんですけど、とりあえず現代のリアルな設定で考えていますね。物語の中盤はいくらか抽象的になるとは思うけど」
──こちらも犬山イヌコさんや峯村リエさん、大倉孝二さんらナイロンのメンバーに、水野美紀さん、山内圭哉さん、山崎一さんと頼もしい客演陣ですね。
「客演の3人はなんでも出来る人たちなので、これから書くにあたって笑いの部分を多くするか、あるいはシリアスでいくか、その両方を入れようかなど自由に考えられるのがありがたいです」
──昨年は、ゴーリキー原作の『どん底』、ナイロン初のダブルキャスト公演『シャープさんフラットさん』、KERA・MAPの『あれから』など公演がひっきりなしで、そのどれもが高い評価を得ました。この多作ぶりは、あえて(笑)?
「いや自分でも呆れるんだけど、『この作品は今しか出来ない』と思うと、多少キツくても予定を入れちゃうんですよ。昨年はその3本のほかに映画『罪とか罰とか』(成海璃子主演)の撮影もあったし、今年も6月に蜷川幸雄さん主宰のさいまたゴールドシアターに脚本を書き下ろす予定です。全員が55歳以上の劇団に脚本を書くなんて、他にはない経験ですよね」
──観る側としては本数の多さに加えて、そういったテイストの多彩さも楽しみになってきているんですが。
「最近は特に、いろんな“語り口”で描く面白さが分かってきた気がします。例えば今までは『起承転結があって、最後にハッピーエンド』っていう物語は避けていたんですが、物語の途中がたまたまハッピーな状況で、そこでスパッと終わるという構成ならどうだろう?とか。それは『ハッピーエンド』に見えるけれども、実際はそうでないわけですよね。そんな試みをあれこれとやってみるのが楽しくて」
──じゃあ、もしも「新作は2年に一本でいいです」なんて言われたら……。
「それはすごく苦しいでしょうね。思わず『じゃあ1年に10本でも書くよ!』と言っちゃうかもしれない。時間的に実際は無理ですけど、それくらいの気持ちということです(笑)」
