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Interview

蜷川実花 極彩色の写真があふれ出す 写真家人生、14年目の集大成!

蜷川実花

Text●柴田明日香 Photo●福田栄美子


ファッション、音楽、広告と、ジャンルをクロスオーバーした活動で、女性を中心に絶大な支持を集めるフォトグラファー、蜷川実花。昨年は、写真の仕事と並行して映画『さくらん』で監督としてもデビューを果たし、パリ、ミラノなど海外でも作品を発表するなど、超人的なパワーを見せつけた。そして今年から来年にかけては、デビューから14年目という異例の早さで、全国5都市を巡回する大規模な回顧展を開催する。
「忙しいときほど調子がいい。アイデアが浮かんだり、イイモノができたりする」という、超ポジティブ&パワフルな蜷川実花の心境に迫った。

「展覧会はこれまでの集大成! でも、まだまだ達成感がない」

――まず、今回このような大規模な回顧展を成し遂げた感想は?

「意外と達成感がない(笑)。もちろんやれるだけのことをやって満足なのですが、いい意味でまだまだやりたいことがたくさんあります。初期のものから最新作まであるので、ちょっとひと区切り付いた感じはありますが、ここからまた始まるなー、といった感じですね」

――蜷川さんの展覧会解説コメントにある、“初期の私に嫉妬する”というのは?

「とにかく最初の頃って、ただただ撮りたくて撮ってた。その素直な感じが出てる写真だと思います。今は写真は上手くなったのですが、経験値と反比例して『撮りたい!』というキモチとか、どうしても減ってきてしまう。そのただただ撮りたいという本当に不純物のない状態をキープし続けるのって本当に難しいんです。『シャッター音ってキモチいい』ということにすら喜びを感じていた初期の私は、自分でも眩しく思えます。今でも、何かに感動したからシャッターを押すという、シンプルなことを忘れたくないんです。毎日撮影をして、何をするにもドキドキしながら、フレッシュな気分でやっていたいと思います。やっぱりドキドキしながら撮る、心を動かされたから残したいと思うって、キモですね」

「展覧会はまさにライブ! 生のプリントって本当に美しい」

――現在開催されている、東京オペラシティアートギャラリー(初台)では、連日多くの観客でにぎわい、週末ともなれば行列ができるほど人気となっていますね。美術館という広い空間で、アートとして写真を見せることの意義とは何でしょう?

[第3室]金魚をテーマにした《Liquid Dreams》シリーズが、巨大な映像インスタレーションに。

[第4室]栗山千明、土屋アンナ、小栗旬、妻夫木聡ほか多数のポートレイトが並ぶ。

「例えば、絵画だったら本物を観に行こうという話になるけれど、写真って、雑誌やポスター、作品集といった印刷物で満足されがち。でも、印刷物がCDだとしたら、展覧会はまさにライブ! 生のプリントの美しさって、そのくらい違うんです」

――展示室によって、全く異なる見せ方になっていますね。

「第1室は、大きいプリントを見て欲しいと思って、生のプリントだけ展示しています。よくデジタル写真ですか? と聞かれるんですが、私の作品は、フィルムから印画紙に印刷したもの、バリバリのアナログです。第2室は、私の写真の原点。初期作品が並んでいます。第3室は、金魚をテーマに、巨大な映像インスタレーション空間。次は旅の部屋。ネガのサイズ、フィルムのサイズで膨大な数を並べています。作品の1枚1枚が、記憶の欠片、みたいな。第4室は、人物ポートレイトの部屋です。自分でもびっくりするくらい派手ですね〜、あの部屋は! 第5室は、ちょっとシック。お墓に飾ってある造花のシリーズが、暗闇に写真だけが光ってみえるような構成になっています。そして、新作シリーズの部屋へ。最後の長〜い廊下は、花道のようになっています。200数十点におよぶ、さまざまな女性のポートレイトが並んでいます。あと、エントランスにも、ステンドグラスをイメージしたインスタレーションが。昼間は、太陽の光を通して、本当にきれい!」

「ものづくりのスピード感、高揚感を体感できる最新作」

――新作シリーズ「Noir(ノワール)」が、特に印象的でした。これまでの極彩色の世界から一変して、落ち着いた色味で写し出されていますよね。モチーフも、不安や、嫌悪感など、心がザワザワするような、今までにはない感覚を呼び起こします。

《Noir》より(2008年)
(C)mika ninagawa

「Noir(ノワール)」シリーズは、つい最近に撮ったタイや上海での写真を入れるなど、ギリギリまで粘った。まだ写真集にもなっていない未発表作品ばかりなので、あえてイメージを固めないでおきました。私は、明るい陽射しの下にできる影とか、美しさの中に発する不穏な空気に反応して、シャッターを切ることが多いみたい。これまでは、そんな“心がザワつく”ものをカラフルでラブリーに何重にもラッピングして発表していたんで。それらと比較すると、新作シリーズは、かなり直球勝負ですね」

――展示の仕方も、できたて感が演出されていますね。

「ものづくりのスピード感とか高揚感を感じてもらえたらな、と。あえて展示用にディスプレイするのではなく、仕上がったばかりのプリントをそのまま画鋲で留めて。こういう展示の仕方にしたのは、初めてです。結構うまくいったと思っています。常に走っていたい! という私自身を、最後の部屋で体感してもらえればと思っています」

「5年先にやりたいとことは、今日からやる!」

――話は変わりますが、蜷川さんといえば、海外のコレクションに足を運ばれるほどのファッション通ですよね。最近はどんな着こなしが旬ですか?

「今までワンピースばかり着てたんですけど、しばらくはワンピース禁止にしようかなーって。ワンピースってラクチンでしょ? でも、ちゃんと洋服をあわせようと思っています。夜寝る前に、コーディネイトチェックをしてから寝てます(笑)。あと、今まで着たことない服も着たいかなー。今日はこの人に会うから、こういう日にしたいから、この服を着ようとか、きちんと考えて服を着たい気分です。今はあんまりルーズにしていたくないというか」

――お仕事が忙しい中でも、セルフ・プロデュース的な意味合いで、ご自分の見せ方を意識されていますか?

「どう見られるか、というより自己満足ですね。むしろ映画監督っぽく、写真家っぽく見られたくない! という気持ちのほうが強いかもしれない。仕事で忙しいと、なりふりかまっていられないときってありますよね。20代の頃、仕事さえちゃんとしてればいいやって思ったことも。でも、ふと考えたらキレイにしているから仕事ができなくなるというワケではなく、それは自分が怠慢なだけ。だから、ちゃんとキレイにしようって思ったの。それからは、それなりに努力してますね」

――5年10年先のプランはありますか?

「今後やりたいことはなんですか? とよく聞かれるんですが、思いついたらすぐに行動するので、実はあまりないんです。基本的には、5年先やりたいことは、今やる! それを実現できるのは、周りの人々に恵まれているということもありますね。今回の展覧会も、約500点の作品を展示していますが、これだけ大きなスペースで個展をやるのって、すごく大変なこと。とにかくずっと美術館で個展をやりたかったので、5年間くらい言い続けました。しつこく諦めない事って結構大事です」

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PROFILE

蜷川実花(にながわ・みか)
東京生まれ。「第9回写真ひとつぼ展」でグランプリを獲得した1996年頃から、当時流行した「ガーリー・フォト」の旗手として知られるようになる。以後、アートとコマーシャリズムの間を縦横無尽に行き来し、キヤノン写真新世紀優秀賞(1996年)、木村伊兵衛写真賞(2001年)ほか、数々の賞に輝く。昨年2007年には映画『さくらん』で監督デビューも果たした。
公式サイト(PC)
公式サイト(携帯) http://ninamika-m.com

INFORMATION

「蜷川実花展 地上の花、天上の色」
12/28(日)まで東京オペラシティアートギャラリーにて開催中
※2009年4月より岩手、鹿児島、兵庫、高知県の4つの美術館を巡回。
特設ページはこちら

《Acid Bloom》より(2003年) (C)mika ninagawa

《floating yesterday》より(2004年) (C)mika ninagawa

《永遠の花》より(2005年) (C)mika ninagawa

《Noir》より(2008年) (C)mika ninagawa

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