@ぴあTOP > インタビュー >後編:福西崇史(サッカー解説者)
キリンチャレンジカップでスコットランド、トーゴと戦う日本代表。W杯本大会までの限られた期間で、日本代表が実戦で取り組むべきポイントとは? ドイツ・W杯に出場した福西崇史氏が、キリンチャレンジカップを大展望する。後編の今回は、スコットランド、トーゴという異なる相手と試合をする重要性を説いてくれた。果たしてスコットランド、トーゴとはどういうチームなのか? また、日本はタイプの違う相手にどう戦うべきなのか? 福西氏が指南してくれた。
TEXT●原田大輔 Photo●佐野美樹
――日本代表は、キリンチャレンジカップで10月10日にスコットランドと、14日にトーゴと対戦しますが、この2試合の重要性はどこにありますか?
「前回も触れましたが、選手たちがいかに本番を見据えて戦うことができるか。僕がドイツW杯('06年)に出場したときもそうでしたが、W杯までの試合は、常に本番で対戦するかもしれないと思って戦っていました。W杯出場を決めた後は、日本サッカー協会も本大会を想定したマッチメイクをします。アウェイで戦ったオランダ、ガーナ、今回のキリンチャレンジカップで対戦するスコットランドやトーゴのようなチームとも本大会で対戦する可能性は大いにある。だから、選手たちが本番を意識した試合ができるかが重要です」
――キリンチャレンジカップで対戦するスコットランドとは、どういったチームなのでしょうか?
「スコットランドは古典的なヨーロッパスタイルのチームです。空中戦における身体能力が非常に高く、ショートパスだけでなく、ロングボールも多用してくる。中澤(佑二)、(田中マルクス)闘莉王のセンターバックは、セットプレーからの失点を守備の課題に挙げていますが、スコットランドは身長の高い選手が揃いセットプレーも強い。まさに日本代表が苦手とするタイプのチームなんですよね。その相手に対して、セットプレーをしっかり抑え、失点をゼロで終えられるかが注目ですね」
――トーゴはどうですか?
「トーゴは、アフリカ勢の特長でもある身体能力を武器にしている。マンチェスター・シティでプレーするエマニュエル・アデバヨール(FW)を代表に、とにかくスピードとテクニックに優れた選手が多く顔を揃えています。日本代表にとっては、セオリー通りにいかない、予想のつかない対戦相手と言えるでしょう。僕も現役時代にセネガル代表をはじめ、アフリカ勢と対戦した経験がありますが、想像以上にアフリカの選手たちの身体能力は高かった。正直、対戦したときはビックリしましたからね。もちろん、事前に情報を聞いて、アフリカの選手たちの身体能力が高いことは知っていたんですよ。それで試合に臨んでいるのに、彼らはそれを上回るすごさなんです。普通の感覚ならば、『ここでボールをキープしていれば取られない』はずなのに、そこからさらに足が伸びてきて奪われてしまう。『このコースをつぶしておけば、抜かれない』と思っていても、あり得ない方向へ切り替えされてしまう。まるで漫画みたいに(笑)。それだけ速さ、しなやかさが違うんです。オランダで対戦したガーナもそうですが、本大会前にアフリカ勢との試合を経験し、予習できることは、若手にとってもいい経験になると思いますよ」
――スコットランド、トーゴといったスタイルの違う相手に、日本代表はどういったサッカーを見せてくれるのでしょうか?
「日本代表としては、相手に合わせるのではなく、自分たちが今まで培ってきたサッカーを貫くことができるかがカギになります。本大会で上を目指すには、いかなる相手であっても自分たちの形を作り、ゲームを進めていく力が必要ですからね。その上で、欲を言えば、スコットランドのようなチームにはこう戦おう、トーゴのようなアフリカのチームにはこう戦おうというオプションを見出してほしいですね。また、スコットランド、トーゴというタイプの違う2チームに対して、個々としても勝負できるか。この部分にも注目したい。どちらも従来の日本が苦手意識を持つ相手なので、どういったサッカーを見せてくれるのか、今から楽しみです」
――具体的にキリンチャレンジカップで期待しているポイントは?
「攻守における一体感をもっと意識してほしい。守備の意識は高いですが、攻撃に切り替わったとき、攻撃陣と守備陣の距離がまだ離れているように思います。体力のある前半はチームとして機能しますが、それを試合終盤まで持続させることが、キリンチャレンジカップでの課題でしょう。僕個人としては、もっとDF陣が攻撃参加しても良いと思うんです。強豪チームから得点を奪うには、攻守のバランスを計りながらも、意外性のある攻撃が必要。それだけに、DF陣の奇をてらったオーバーラップがもっとあっても良いと思いますね」
――キリンチャレンジカップではこういったところを見るべきという観戦ポイントはありますか?
「日本が本大会でこういったタイプのチームと対戦する可能性があると思って見てほしいですね。それで、それぞれの試合において、日本代表がどのような部分にこだわり、どのような部分を変化させているか。日本代表の幹となる基本と、枝葉となるオプションを発見できたら面白いと思いますよ」
――福西さんが活躍を期待している選手は?
「個人的にはヤット(遠藤保仁)に期待しています。というか、もっとやってほしい(笑)。性格的には前へ出ていくタイプではないかもしれないけれど、もっと指示をしてチームを牽引してもらいたいですね。中盤の選手が発言し、存在感を発揮すれば、チームは精神的にも引き締まるものなんです。それと全体的なことで言えば、選手個々の良さをもっとピッチで表現してもらいたい。例えば、大久保(嘉人)ならば得点力があるので、ゴール前で勝負してもらいたいし、玉田(圭司)も下がってプレーするのではなく、ゴール前にどんどん飛び出してほしい。選手個々が持つ特長をチームとしても生かす工夫を試みてほしいですね」
――最後にキリンチャレンジカップを戦う日本代表へメッセージをお願いします。
「前回、個々の能力が短期間で飛躍することはないと言いましたが、一方でチームとして急激に成長することはできます。個々が高い意識を持ち、チームとして一つひとつ課題をクリアしていくことで、チームは成長していきます。日本代表としてW杯までに集まる期間は限られている。とくに2試合続けて戦えるチャンスは少ない。それだけに、初戦のスコットランド戦で出た課題をトーゴ戦でリトライできる機会を無駄にせず、2試合でしっかりとチームを作ってほしいですね」
福西崇史インタビュー前編「試合中の選手同士の会話に注目!」
特集「キリンチャレンジカップ2009」