岸田「実は前向きな曲って今まで書いたことがなくて。だいたい後ろ向きか、それに対する逃げや許しを乞う感じが多かった。けど、特にアルバム最後の『背骨』という曲では、初めてちゃんと前向きなことを歌えてる という実感があったんですよ」

佐藤「今回は、ほとんどの曲が最初から歌詞も付いた弾き語りの生々しい状態で繁くんから聴かされたんです。こんなのは初めてでしたね」

2年ぶりに到着するくるりの新作『魂のゆくえ』は「へヴィでカジュアルなアルバム」（岸田）だ。今まで多彩なサウンド・アプローチを取ってきた彼らの芯の部分を丁寧に濾過したような、そんなリアルさが際立つ。

岸田「どこで誰と共演したとか、今こういうのがクールですとか。そういう“側＝ガワ”の部分をどうこうする感覚からはもう、より遠ざかったアルバムですね。僕は詞を書いてメロディを作って歌うのに必死で。今回はサウンド面にあまり関与してなくて。佐藤がプロデュースした僕のアルバムに近いかもしれない」

自己ととことん向き合った新作を得て、彼らが地元京都で主宰するフェス『京都音楽博覧会』も、この9月には3年目を迎える。

岸田「1〜2年目と比べると出演者の感じがガラッと変わってると思うんですけど、それは今回のアルバムで僕らが変わった部分とリンクしているのかな、と今話してて思いました（笑）。（音博に関しては）とにかく誠実であるしかない、嘘はつかないというスタンスでしつこく続けていくしかないと思ってます。昨年、実は2ステージ制にしてもっとフェスっぽさを演出した方がエエんちゃうか？と迷ったんですけど、僕らは “事業”をやってるわけやないと」

佐藤「自分らの手の届かない部分が出てきたら終わりですからね」

岸田「嘘がないのがいい。くるりはそのスタンスでやっていきます」