@ぴあTOP > よしもとの劇場へ 大笑いに行こう!特集 > INTERVIEW「笑福亭仁鶴」
取材・文=松尾美矢子 撮影=内池秀人
今年で御年七十三歳。今もなお第一線を走り続ける上方落語界の重鎮・笑福亭仁鶴が、恒例の独演会を催す。が、第六回を迎えるにあたり、師は意外なことを口にした。
「やっぱり年齢もあるし、思う通りに声帯を駆使できないということもあって、この会をやるかやらないか一瞬躊躇したんです。でも、お客さんは毎年来てくれはるし、スタッフも力を入れて特別待遇で日本一の高座を作ってくれてるし。色んなことを考えて、当たって砕けよかと。だいたい世間は、僕を若いと思って見てるんちゃうかな (笑)」
一席目は久々の口演となる『延陽伯』を。やもめに縁談が舞い込むのだが相手の女性にはひとつつだけキズがあり……。
「三十年以上前になるかなあ。なかなか花月で落語はやりにくいんですが、このネタはようウケましたよ。けど、やりすぎたのと、年齢を重ねたこともあり、長い間ほってあったんです。今回は今の年齢に合うたやり方で、素直に無理せずやろうと。いちばん危ないのは、若い時のやり方にこだわること。畳み込んで畳み込んでというのは若い時のやり方で、それを落ち着いて客観的に一歩一歩進めるという」
もう一席の『宿屋仇』は、今回がネタ下ろし。古希を過ぎての挑戦に、噺家としての気概がみなぎる。
「今までやってたネタを出せば楽ですが、どういうわけかそういう心境になったんです(笑)。大変ですが、ある意味、新鮮な感じがしますよ」
静かな部屋を望む侍が、日本橋の宿屋に宿泊。が、隣室に入ったのは伊勢詣りを終えた兵庫の若者三人連れで……。
「橘ノ円都師匠のテープを聴いたり、『上方はなし』とか色んな資料を参考に。この噺の魅力は、大阪の日本橋が舞台というのがひとつ。それと、兵庫の三人の荒っぽい言葉と、侍のきちっとした言葉のメリハリが面白い。侍言葉がやれないとアカンねんけど、どうなるか…… (笑)。でも、今年の暑さに負けないくらいの熱い気持ちでやりたいですね」
「マンスリーよしもとPLUS」11月号より