Myway Club 連載記事


マムスガーデンリゾートよりナマステ
第2回 あなたの心を癒す宿でありたい
宮本ちかこ










夢と希望に胸ふくらませ、ネパールでの生活を始めた1997年、30歳の春。自分自身が泊まりたいと思える宿、都会の人々の心を癒せる宿をテーマに始まった宿づくり。眠れない夜もあったけれど、それでもなんとか人生とホテルは続いています。

自分が泊まりたい宿がないなら自分でつくろう!

 初めてネパールを訪れてから約2年後、現地法人も登録がすみ、晴れて私はビジネスビザを取得しました。ちょうど30歳の春のこと。拠点もネパールに移し、いよいよ本格的な人生の再出発です。
 ポカラは私の大好きな町だったけれど、一つ難点を言うなら、私が泊まりたいと思うような宿がないこと。高級ホテルは設備はいいけれど、ネパールらしさにふれる機会が少ないものです。安宿も悪くはないけれど、学生時代ならともかく普段仕事に忙殺される社会人には心も体も休める落ち着ける宿がいい。でも、ポカラを見回してみてもなかなかそういう宿はありません。
 それならそんな宿をつくろう!都会の多忙な日々や喧騒をいっとき忘れ、アンナプルナに見守られてほっと一息つけるような宿!私が疲れた心をポカラやヒマラヤに癒されたように…。それがホテルづくりのコンセプトとなりました。町中の喧騒が届かないメインの通りから少し入ったロケーションの土地を購入し、石や木などの自然の素材をできるだけ取り入れ、デザインは村の伝統的なスタイルをアレンジすることにしました。テレビやエアコンはあえて置かないことに決め、自然と親しめるアットホームなプチホテルを目指したのでした。


眠れない夜と涙の日々

 そんな風に意気込みとコンセプトは悪くはなかったのですが、現実はそう甘くはありませんでした。旅人として通り過ぎるのと住んでみるのでは大違い。一年の予定で始まった建設工事が一年半になり、二年になると精神的にも経済的にも追い詰められてしまいました。言語も文化も生活習慣も宗教も仕事のスタンスも生活水準もまったく異なる外国で、何が嬉しくて私はしゃかりきになっているのだろう?それに本当にオープンできる日がくるのだろうか?そんなことばかりを考え、眠れない夜が続きました。天井をみつめ涙ぐむ日々。私のような外国人の素人がロッジなんかに手を出したのが間違いだったのでは…と落ち込み始めると果てしなく落ちていったのです。
 そんな時かつての会社の上司にあたる方から、ネパールに行くのでいろいろ案内してくれないかという連絡を受けました。もんもんとしていた私は即座にOKの返事を出しました。異国で知りあいに会うのは本当に嬉しいものです。それに私にとっても久し振りの観光でした。


忘れていた初心

 私にはすっかり日常となってしまったネパール。でも、海外旅行はツアーがほとんど、しかもアジア方面はシンガポールや香港などなどという元上司とそのご一行さまにとっては、ネパールは不思議な未知の世界だったようです。見るもの聞くものに驚嘆し、時にまじめに怒り、時に感嘆のためいきをもらし、ヒマラヤの勇姿に感動して涙ぐみ…。そう、それはまるで数年前の私の姿のようでした。
 「ネパールっていいところだねえ、また来たいね。こういう感動する旅はなかなかないものだよ」帰り際にそう言われ、私ははっとさせられました。そうなんだ、私の初心はそこにあったのに、私ときたら瑣末なことに神経をすり減らして、大事なことを忘れてしまうなんて!!
 愛しい恋人も一緒に暮らせばどうしても欠点が目につくようになるものです。それと同じで、私はあんなに惚れたポカラの悪い部分ばかりに目がいっていたようです。元上司の一言で目が覚めた気がしました。欠点もひっくるめてポカラを愛してやっていこう。そして人々の心を癒してくれるポカラの魅力をもっとたくさんの人に伝えていこう。オープンして5年になる現在でも、もちろん落ち込むことはあるし、様々なトラブルはつきないけれど、ずっと一緒にやっていこうねというちょっとおおらかな気持ちでいられるのは、あの時の友人のおかげと今も感謝しています。


(文:Mum's Garden Resortオーナー/宮本ちかこ)